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雨が降りそうな天気だなぁ、と任務からの帰り道の車窓から眺めた空を見て思った。雨が降ったら嫌だな、と思って、空の様子を追いかける。雨が降ると頭痛くなるんだよなぁとこれから訪れる梅雨を思って、窓の外から視線を逸らし、隣に座る恵の肩に寄り掛かる。


「どうした?」
「雨が降りそうだなぁって」
「あぁ、本当だな」


寄り掛かるわたしより天気が気になるのか、恵は窓の外を見た。今、どのへんを走っているのかは分からないけど、まだまだ知らない景色が広がっていたし、高専まで眠ろうと目を閉じる。


「大丈夫か?」
「なにがー?」
「雨降ると具合悪くなるっつってなかったか?」
「あーうん、いつもじゃないけどね」
「横になってた方がいいんじゃねぇか?」
「大丈夫」


そうか、って言葉を零して、恵は少しだけ身体を動かして、わたしが安定するように腰を手で支えた。優しいなぁ、恵は。

まるで彼女みたいな扱いをされて、ふふ、と思いがけず声が出てしまった。「なに笑ってんだよ」と当然恵の突っ込みが入る。


「恵に彼女が出来たらこういうこともうしてもらえないのかなぁって思って」
「できねぇよ」
「そう?すっごいモテるじゃん、伏黒くん」
「その言い方やめろ」


この前も、任務で行った高校でもキャーキャー言われてたし、一緒に買い物行ったときも逆ナンされそうになってたし、と思い出す限りの『伏黒恵モテ伝説』を話し始めるけど、すぐに「やめろ」と恵に制されてしまう。


「モテようがモテまいが好きなヤツに好きになって貰えなきゃ意味ねぇよ」
「まぁ、そりゃそうか」
「…もうこの話終わり、」
「つまり恵には好きな人がいるってこと?」
「絶対そうなると思った。言わねぇよ」


無言は肯定の証。恵には好きな人がいるらしい。
自惚れかもしれないけど、恵の一番近くに居るのはわたしだと思ってた。だから、恵の好きな人に気づけなかったのがちょっと悔しい。大好きな恵の恋が実るように協力したいけど、恵が「言わない」って言ったら絶対言ってくれない。


「恵が成長しちゃって悲しい」
「どういう意味だよ」
「なんでもわたしに相談してくれると思ってたのに」
「なまえだって何でもは俺に言ってねぇだろ」
「えー?言ってると思うよー」
「なんでもか?」
「し、下着のサイズは言わないよ」
「知りたくねぇよ、そんなこと」

ふは、と笑って、恵がわたしを支えていた腰をトントンと優しく叩いた。本当に今度こそこの話は終わりみたいだ。ちょっと気になるなぁ、恵が心を動かされた人。

また外を見ると、外はさっきより暗くなっていた。このまま雨が降らないでほしい、せめて今日は。