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「なまえ、呪具取りに行くから付き合ってくれ」

休み時間になってすぐ、恵に声を掛けられた。次の時間は呪具を使っての授業だった。机の中にさっきまで授業で使っていた教材をしまって「いいよー」と返事を返す。ガラガラと古い教室のドアを開けて、教室の外に出ようとする恵の後に続こうと席を立ったところで、ふわっと身体が宙に浮いた。


「え?なになに?」
「小娘が行かんでも良かろう?伏黒恵」


わたしの腰に腕を回して抱えていたのは宿儺で。あれ?悠仁は?って思ったけど、宿儺に抱えられたことが嬉しくて気にしないことにした。けどさ、けどさ、抱えかた〜〜!他にあるよね??なんでそんな犬猫みたいに抱えるの?わたし、スカートなのに。


「宿儺」
「なんだ?」
「俺はなまえがいい」
「小娘を好いているからか?」
「関係ねぇだろ」


宿儺と恵が穏やかに言い争っている。意味はよくわからないけど、「わたしの取り合いはやめて!」って少女漫画のヒロインみたいに言っとくべき?ていうか、それより小脇に抱えられてるせいでパンツ見えそうなんですけど?そこは誰も気にしてくれないの?まぁ見せパン履いてるけど。見せられるもんじゃないし、見せたくもないんですけど??

野薔薇ちゃんにこっそり目くばせするけど、関わり合いたくないという表情をされた。わたしいつまでこの不安定なパンツ見えそうな状態で居させられるの?


「いいからなまえ離せよ」
「ならん」
「なんでだよ」
「俺はなまえを気に入っている」
「だからなんだよ」
「お前はどうなのだ?伏黒恵」
「俺、俺は…」
「ちょっと本当パンツ見えるから!」


わたしのことを話しているのかなんなのか分からないけど、宿儺の小脇に抱えられて数分。我慢の限界だった。ずっと言えなかったけど、宿儺に持ち抱えられたタイミングでここだ!って思った。急に大声を発したことで、宿儺と恵の言い合いが一瞬止まった。そして2人はわたしを見る。宿儺が声を立てて笑い、「それでこそなまえだ」とわたしを丁寧に椅子の上へと戻した。恵も少しだけ表情を和らげて「パンツは大事だな」と言った。空気を読んだ野薔薇が「仕方ないから今日はわたしが一緒に行ってあげるわよ」と席を立つ。

恵と野薔薇が居なくなって、二人きりになった教室で宿儺に話しかけようと再び宿儺の顔色を伺う。が、そこには既に紋様が消えた悠仁の姿しかなく、わたしはまた宿儺の真意を知ることができなかった。