Episode.2


私とたかちゃんが出会ったのは中学生の頃だった。

お兄ちゃんである場地圭介の友人の一人である三ツ谷隆は、下に妹が二人いるせいか昔から私に優しかった。お兄ちゃんが居なくても私のことを気遣ってくれて、たまに「新作できた」と理由をつけては私に会いに来てくれていた。

12年前のハロウィン、お兄ちゃんが死んで、私もマイキーくんのところの道場を辞めて、お兄ちゃんが死んだ元凶になった東京卍会とは距離を置いた。初代メンバーも同級生の松野千冬も何度も私に謝ってくれた。けれど、思春期真っ只中の私は、お兄ちゃんの死もみんなの優しさも受け入れることは出来なかった。

だって、まだみんな喧嘩を続けていたから。



たかちゃんとも、一年に一度や二度顔を合わせるだけの関係になっていた。
そんな関係が変わったのは、高校生の時。私がバイトしているケーキ屋にたかちゃんが現れてからだった。妹の誕生日ケーキを買いに来たというたかちゃんは、私を見つけて「なまえ」と目を細めて笑った。

それから記念日の度にたかちゃんは私のバイト先にケーキを買いに来るようになり、また交流が再開した。時には「新作」と言って服を持ってきてくれたり、「お祭り行こう」と誘ってくれたり、「花火しよう」と言って団地の前で千冬も誘ってマナちゃんとルナちゃんとみんなで花火したりした。

いつしか、私の中でたかちゃんは大事な存在になっていた。
お兄ちゃんのような友人のような家族のような。そこに恋人のような、が入らないのは、怖かったからだ。お兄ちゃんが死んだときに、たかちゃんが離れてしまったみたいに。告白して振られても、付き合って別れても、どっちにしてもたかちゃんは私から離れてしまうと思った。だから、私はただ、たかちゃんの側に居ることを選んだ。それなら、離れることはきっとないから。


「なまえ〜」と私の名前を呼んで、たかちゃんがちょっと強めに私の頭を撫でてくれるのが好きだった。
「新作」と言って作ってくれた服は私が太ったり痩せたり身長が伸びても、どれもジャストサイズで、いつも私を見ていてくれてるんだなって安心した。

たかちゃんがマナちゃんやルナちゃんに向ける優しい眼差しが愛おしかった。



だから、好きなんて一生言葉にしない。そう決めていたのに、何がどうしてこうなってしまったんだろう。神様は、意地悪だ。