Episode.3


本当は今すぐここから服だけ掴んで逃げ出したかった。
たかちゃんは、そんな私の心に気づいてか、また私の名前を呼んで、「おいで」と両手をひろげる。そんなんどうしたって逃げられるわけない。ずっと大好きで、ずっとずっと欲しいと思ってた人が目の前に居るんだから。


「たかちゃん、あの、わたし」
「うん、聞くから。とりあえずぎゅってしたい」
「…やだ、恥ずかしい」
「ならオレが迎えに行く」

自分の裸を隠していた布団を剥ぎ取られ、たかちゃんが私を抱きしめる。触れ合う肌と肌が気持ちいい。なのに、どうしたって怖い。だって、私は、たかちゃんを失いたくないから。




まずはどうしてこの状態になったのか、記憶の糸を手繰り寄せた。
昨日は、確か、たかちゃんがデザイナーとしての大きな仕事が決まって、「お祝いして」ってメッセージを貰って、奮発してちょっといいシャンパン買って、二人で乾杯をした。ほろ酔いになった頃、たかちゃんがまっすぐ私を見て「好きだよ」って言われたような気がする。私、返事したっけ。したかな?したのかな?それでちゅーされて、気持ちいいなって好きだなって思ってたら、ソファに押し倒されて、そこからはなし崩しにセックスしたような気がする。


「…確認なんだけど」
「うん」
「たかちゃん、昨日私に好きって言った?」
「言ったよ」
「私、返事した?」
「してないけど?オレのこと好きじゃん、なまえ」


さも当たり前のようにドヤ顔でそう言い切るたかちゃん。私、そんなに分かりやすかったんだろうかって、恥ずかしくなって顔を両手で覆った。それと同時にバレバレだった私の感情を知りながらたかちゃんはどんな気持ちで私と接していたんだろうと思うと憎らしくもなった。


「…服着よ」
「まだダメ」
「たかちゃん」
「ん?」

裸の私を抱きしめたまま、たかちゃんは私の身体のあちこちにキスを降り注ぐ。甘い甘い時間。だけど、私は知ってる。恋には必ず終わりがあるってことを。


「私、たかちゃんのこと好きだけど付き合うつもりはないよ?」
「は?何言ってんの?」
「本気。だから早く服着て」


まだ戻れる。まだやり直せる。
ただ一回血迷ってセックスしただけ。寝言のように好きと言われただけ。私は近くにある幸せより遠くの安定が欲しいの。