限界社畜のレクイエム


玄関を開けて靴を投げ捨て、灯りの点いたリビングに向かう。カバンを放り投げ、床で腹筋中の竜胆の上に横向きに座った。わたしが上に乗っても気にする様子もなく身体を起こした竜胆は呑気に「おかえり」といつも通りの言葉を投げかけてくる。


「りんちゃんお腹すいた」
「ん?なんか作る?どんくらい食える?」
「りんちゃん、脚も痛い」
「うわ、マジでパンパンなってんじゃん。風呂上がったらマッサージしような?」
「りんちゃん…」
「ん?」
「…………すき」
「オレも好き」


ニッと口角を上げて私を見つめて優しい言葉ばかりをくれるりんちゃん。
きっとわたしがお風呂入るって言ったらお風呂入る準備してくれて、ご飯食べるって言ったらご飯の用意してくれて、なんにもしたくないって言ったら「そっか」って言って抱きしめてくれるんだろう。感情の煮凝りみたいな社会の中で、りんちゃんがいるこの家がこの空間がいつだってわたしにとって唯一の安息地。

「なまえ」
「なーに?」
「飯と風呂とオレ、どれにする?」
「……りんちゃんかなぁ」

半分くらいは冗談のつもりだったのに、りんちゃんは一瞬動きを止めてから少し顔を赤くして私の腕を引っ張った。そしてその大きな胸に引き寄せられるように抱きしめられてキスをする。唇を食むだけのそれは、まるで餌を食べる雛鳥のよう。


「なまえって結構そういうこと平気で言うよな」
「もう今日はりんちゃんにとことん甘えるって決めて帰って来たから」
「とことんってセックス何回分?」
「セックス換算しないで」

はあ?甘えるってセックスのことだろ?、ってケラケラ笑うりんちゃんは相変わらずデリカシーが無い。そう思う反面そんなりんちゃんにドキドキしているわたしも相当な馬鹿だ。でも好きな人といる時なんてだいたい皆こんな感じなんじゃないのかな。蘭ちゃんがこうなのはあんまり想像できないけど。

「……じゃあさ、今晩は全部やめて寝る?」
「えっ」
「オレと一緒にベッド入ってさ、朝まで手繋いでくっついて寝るだけ。どう?」
「どうって言われても、りんちゃん我慢できるの?」
「まあ無理だけど」
「結局ヤリたいんじゃん!」
「うるせぇ!しょうがないだろ男なんだから!」
「開き直らないでよ!」
「だってお前がエロいのが悪いんじゃん!!」
「わたしよりりんちゃんの方がエロいじゃん!!」

売り言葉に買い言葉でお互いになに言ってんだ?みたいな空気になって、二人で顔を見合わせて笑いあった。
バカらしいやり取りさえ愛しく思ってしまうあたり本当に末期かもしれないけれど。それでもやっぱりこうして笑っている時間が好きだと思った。

「りんちゃん、やっぱりご飯にする」
「あぁ、そうしろ」
「かっらいラーメン食べたい」
「あぁ、あれな」
「で、そのあとはりんちゃんといっぱいいちゃいちゃする」

玄関を開けて靴を投げ捨て、灯りの点いたリビングに向かう。カバンを放り投げ、床で腹筋中の竜胆の上に横向きに座った。わたしが上に乗っても気にする様子もなく身体を起こした竜胆は呑気に「おかえり」といつも通りの言葉を投げかけてくる。


「りんちゃんお腹すいた」
「ん?なんか作る?どんくらい食える?」
「りんちゃん、脚も痛い」
「うわ、マジでパンパンなってんじゃん。風呂上がったらマッサージしような?」
「りんちゃん…」
「ん?」
「…………すき」
「オレも好き」


ニッと口角を上げて私を見つめて優しい言葉ばかりをくれるりんちゃん。
きっとわたしがお風呂入るって言ったらお風呂入る準備してくれて、ご飯食べるって言ったらご飯の用意してくれて、なんにもしたくないって言ったら「そっか」って言って抱きしめてくれるんだろう。感情の煮凝りみたいな社会の中で、りんちゃんがいるこの家がこの空間がいつだってわたしにとって唯一の安息地。

「なまえ」
「なーに?」
「飯と風呂とオレ、どれにする?」
「……りんちゃんかなぁ」

半分くらいは冗談のつもりだったのに、りんちゃんは一瞬動きを止めてから少し顔を赤くして私の腕を引っ張った。そしてその大きな胸に引き寄せられるように抱きしめられてキスをする。唇を食むだけのそれは、まるで餌を食べる雛鳥のよう。


「なまえって結構そういうこと平気で言うよな」
「もう今日はりんちゃんにとことん甘えるって決めて帰って来たから」
「とことんってセックス何回分?」
「セックス換算しないで」

はあ?甘えるってセックスのことだろ?、ってケラケラ笑うりんちゃんは相変わらずデリカシーが無い。そう思う反面そんなりんちゃんにドキドキしているわたしも相当な馬鹿だ。でも好きな人といる時なんてだいたい皆こんな感じなんじゃないのかな。蘭ちゃんがこうなのはあんまり想像できないけど。

「……じゃあさ、今晩は全部やめて寝る?」
「えっ」
「オレと一緒にベッド入ってさ、朝まで手繋いでくっついて寝るだけ。どう?」
「どうって言われても、りんちゃん我慢できるの?」
「まあ無理だけど」
「結局ヤリたいんじゃん!」
「うるせぇ!しょうがないだろ男なんだから!」
「開き直らないでよ!」
「だってお前がエロいのが悪いんじゃん!!」
「わたしよりりんちゃんの方がエロいじゃん!!」

売り言葉に買い言葉でお互いになに言ってんだ?みたいな空気になって、二人で顔を見合わせて笑いあった。
バカらしいやり取りさえ愛しく思ってしまうあたり本当に末期かもしれないけれど。それでもやっぱりこうして笑っている時間が好きだと思った。

「りんちゃん、やっぱりご飯にする」
「あぁ、そうしろ」
「かっらいラーメン食べたい」
「あぁ、あれな」
「野菜たくさん入れてね」
「あったかな」

冷蔵庫の中身を確認するために立ち上がったりんちゃんはキッチンに向かう。
冷蔵庫に手を掛けて、「ん〜」と悩んでいる隙間に手を差し込んで、チューハイを一本取り出す。りんちゃんが買ってくれた期間限定の桃味。
「キッチン寒いからリビングで待ってろよ」と言ったりんちゃんはわたしの頭をひと撫でして、鍋を取り出す。

プシュ。
プルタブを倒すと炭酸が抜ける音がした。
少しでもりんちゃんと一緒に居たくて、キッチンの壁に寄り掛かってチューハイを飲みながらわたしのご飯を作っているりんちゃんを眺めた。

「なまえ見てて楽しいか?」
「べつに〜」
「なのに見てんの?」
「うん」
「オレのこと大好きじゃん」

ふは、って笑ったりんちゃんを見ながらチューハイを一口飲んだ。甘い。おいしい。もう一本飲んでしまいそうになる。
しばらくすると目の前にお盆に乗ったラーメンとお箸。
「ありがとう」と言ってお礼を言うとりんちゃんも嬉しそうな顔をして笑ってくれたから、わたしはこの家に帰ってくるたび安心するのだ。ここに帰ってきたい。この人が待っている場所へ帰りたい。だから明日も明後日も毎日仕事頑張れてしまう。
「いただきます」と手を合わせると向かいの席に座ってりんちゃんがわたしを見た。その表情を見てわたしも口元を緩める。いつものように二人で過ごす時間は今日もかけがえのないものになりそうだ。