スターチスを見つめて

冬は寒い。それは当然だ。
息を吐けば白く濁るし、土には霜が降り立つ。高専のある場所は標高が高いこともあり、都心とは温度が1〜2度違うと思う。その寒さは冷え性でインドアな恵を更に部屋へと閉じ込める原因となる。


「めぐみ〜初詣行こうよ〜」
「人多いだろ」
「人気のない神社でいいから」
「寒い」
「あったかくすればいいよ」
「神頼みしたい願い事でもあんのか?」


テーブルの上の少し冷めたコーヒーをふーふーしながら飲む恵。冷え性で猫舌。私にとっては腕まくりするくらいの室内の温度でも、恵にとってはちょうどいいらしい。恋愛を長続きさせるためにはどっちかが我慢しなきゃいけないんだなぁって思って、我慢とはちょっと違うなぁと思いなおす。どっちかって言うと、これは自分に染み込ませている。恵が過ごしやすい温度、飲みやすいコーヒーの温度。自分に刷り込んでいくんだ、恵の好きなものを。


「恵、」
「ん?」
「寒い」

自分が座っていた場所から恵の座っている場所の隣まで移動する。きゅ、と服の袖を掴むと、わたしの脇の下に手を差し込んでひょい、と私を持ち上げて、自分の足の上に向き合う形で乗せる恵。腕まくりしてるんだから、寒くないのはバレバレかなぁと思ったけど、ぎゅうって抱き着いた。


「そんなに初詣行きたいか?」
「ううん」
「叶えたい願い事あんのか?」
「ううん」
「俺のこと嫌になった?」
「ううん」
「なんかあったかいもの飲むか」
「ううん」
「なまえ、俺と同じ匂いすんな」
「うん」
「でも俺にはしない匂いもする」
「うん」
「俺どうしたらいい?」
「恵との思い出がほしい」


人間の心なんか一瞬で変わる。恵にくっついているとさっきまでの寒い心が一瞬で温かくなるのを感じた。言動に脳がついていかない。甘えたいだけなのかな。恵が私の肩を掴んで少しだけ身体が離れる。両頬を掴まれて、強制的に恵の方を向かされた。


「なまえの本音はどこにあんだよ」
「…恵」
「俺は超能力者じゃねぇから言われないとわかんねぇ」
「……恵に死なないでほしい」
「うん」
「ずっと一緒に居たい」
「うん」
「神頼みでもなんでもいいから」
「行くか、初詣」

両頬に添えられた手が今度は私の頭を抱きしめる。「俺も同じ気持ちだから」と消えるような声がした。初詣行く前にもう少しだけ、こうしてくっついて居させて。そんな私の思いも恵と一緒だといいな。そう思った1月1日。