髪に飾った白い椿

お気に入りのモスグリーンのラグの上に座って本を読んでいると、ベッドで眠っていた宿儺が起きてきて隣に座った。眠そうに欠伸をしながらも、リモコンを操作してTVをつける。
悠仁の中にいる間にすっかり電化製品の扱いに慣れたのかな。TVをつけていないとダメな体になったのかな。チャンネルをグルグルと回して、高田ちゃんの出ている番組になったところで「この女は知っている」と宿儺が呟く。そうだよね、ずっと映画ばっかり見ていたからTVに出てる人は知らない人ばっかりだよね。それでもTVをつけよう、見ようって思う宿儺が可愛くて愛しい。
 本から視線をTVに移して、しばらく宿儺と一緒にTVを眺めた。宿儺の隣は案外落ち着く。無言でも許される空気感とか、自分と同じ速さの鼓動とか。


「小娘、眠いのか」
「ん〜うん」
「肩か膝を貸してやろう」


突如、宿儺から吐き出された優しい言葉にぼぅっとしていた脳が一気に覚醒する。もしかして悠仁に戻ったのではないか?と一瞬思ったけれど、顔を確認してみてもくっきりと宿儺の紋様が浮かんでいる。


「不要なら別に構わんのだぞ?」
「や、いや、全然お借りします」

そう告げて宿儺の肩に凭れ掛かる。安心感と同時に何とも言えないモヤモヤが残る。こういうのなんて表現したらいいんだっけ。優しくしてほしいと願うくせに、いざ優しくされると歯がゆい気持ちになるなんて矛盾している。


「なんだそんなもので十分なのか?」
「だって〜〜〜」
「いいから全力で凭れ掛かってこい」

盆と正月が一気に来たとしか思えない宿儺の優しさにスマホを確認する。待ち受け画面に表示された0:15の数字。あぁ、正月が本当に来たんだと納得してしまった。ただ、納得できるのと素直に身体を預けられるのかは別の話。優しい言葉を掛けたというのに動かないわたしに痺れを切らせた宿儺がぐい、と私の腰を抱く。脇腹に触れられるのがこそばゆくて、抵抗しようと宿儺と反対側に力を籠める。


「ほらがんばれがんばれ」
「宿儺〜〜」
「もっとしてやろうか?」
「遠慮します」

私の言葉は受け入れられるはずもなく、逆に宿儺の嗜虐心に火を点けてしまったらしい。触れている場所で手を器用に動かして着ていたシャツの中に手を差し込む。つつつ、と指先で体のラインに沿って撫で上げられ、びくっと体が反応してしまう。それを見て宿儺はニヤニヤと笑うばかりだった。


「テレビもつまらんし姫初めと勤しむか」
「待って待って」
「待たん。なまえは素直に受け入れればよいのだ」
「う……」
「余所見している暇があるのか?」


ぺろり、宿儺が唇を舐めた。こうなってしまえば狩人に見つかった小動物のように、ただ狩られるのを待つしかない。逃げることなど無意味なのだから。「どうした? 抵抗はもう終わりか?」、狩人が断末魔の叫びを聞きたがる。言葉に詰まっていると顎に手を掛けられた。

さぁ、食事の時間だ。