ルピナスの花の横で

今年も年末がやってきた。
帰る場所のない恵に合わせて、今年はわたしも高専の寮に残ることを決めた。実家に帰ったところで五条家含むあいさつ回りや面倒な親戚付き合いをさせられるだけだし。けど、寮に残るということは、任務に駆り出される非常勤の状態になるということは抜け落ちていた。というか、高専一年生のわたしは知らなかった。実家嫌いの真希先輩が実家に帰るって時点で気づけよって話なのにね。鈍感な自分が嫌になる。


「ということで、大みそかと元日は任務になりました」
「泊りなのか?」
「泊まりっていうか、神社で巫女さんやる」
「マジか」
「新年の願い事なのに他人を呪う人結構いるらしいよ」


恵にお詫びと報告をすると、がっかりしたように恵はローテーブルに頭を預けた。不服だよね。わたしもだよ。せっかく二人で過ごせるはずだったのにね。(寮には悠仁もパンダ先輩もいるけど)
子供が拗ねたように唇を尖らせた恵は、隣に座るわたしの手を握って「断れば?」とのたまった。子供か!と突っ込みたくなるほど正直に言葉を口にする恵は、出会った頃からは想像出来ないほど素直だ。今もたまにそうだけど、恵の口癖は「別に」と「特にない」と「どうでもいい」だったから。こんなに感情を出してくれることも、人にというか私に興味を持ってくれることも嬉しい。人ってこんなに変わるんだなぁって感心してしまう。


「初詣って酔っぱらいとかいるんだろ?そんな場になまえ置いておきたくない」
「大丈夫だよ、わたし強いもん」
「なまえが良くても俺がヤダ」
「……恵かわいいね」
「かわいくねぇよ」


指を交差させて握ったままの指先でわたしの手の甲を撫でる。細くて長い指先は寂しそうにわたしの温もりを求めて彷徨っていた。可愛いなと思う。大切だなと思う。この時間も、この人も。全部、全部。


「帰ってきたら一緒に初詣行こうね」
「…無理。行かせない」
「わがまま言わないで?」
「なら俺も一緒に任務行く」
「恵には恵の任務があるんじゃないの?」
「……ない」
「絶対あるヤツじゃん〜」


唇を尖らせて不満を体現する恵。よしよしとその頭を撫でる。「ガキ扱いすんな」って言うから「子供がしないようなことしよっか?」ってそっと頬にキスをした。切れ長の目を見開いた恵は「するならこっちがいい」と言って握っていたわたしの指を自分の唇に持って行った。

「わたしからするの?」
「ん、」
「恥ずかしいんだけど」

テーブルから顔を起こした恵が、目を瞑ってわたしのほうに顔を向ける。まつ毛長いとか、唇ぷるぷるとか、普段じっくり見れないその顔を観察してしまいたくなるくらい整った顔がわたしからのキスを待っているだなんて、クリスマスの奇跡なんじゃないのかな。

ゆっくりと顔を近づけると、ふいに恵が目を開けた。「焦らしすぎだろ」と言って、わたしの後頭部に手を置いて自分の顔のほうに引き寄せた。重なる唇からはコーヒーの香りがした。