旅の途中で見つけたアセビの花

12月31日 22時
甚爾さんに連れていきたいところがあるといわれて、大人しくイルミネーションの輝く参道を歩く。息は白いし、つま先は冷たい。けど、甚爾さんが一緒ならそんなこと全然苦じゃない。もし、少しでも寒いなんてことを顔に出したらきっと「今日はもうバイバイな」って言われちゃうから。必死だった。

「甚爾さん、今日はなんで着物なの?」
「あ?スーツより楽だろ」
「ドレスコード的な所行くの?私この服で大丈夫?」
「なまえは可愛いからなんでも大丈夫だろ」

行先は教えてくれないし、良さそうな着物着てるし、今日の甚爾さんはちょっと変だ。不思議に思っていると、てっぺんが見えないようなホテルにたどり着いた。どういうことか聞きたくて、甚爾さんの羽織の裾を引っ張るけれど、こっちを向いてニヤついただけで答えはくれない。
ロビーに入って座ってろと言われ、たくさん並んでいる一人掛けのソファに座る。けど、こんなところに入るのは初めてなので、心細くてフロントで受付をしている甚爾さんの背中を凝視してしまう。受付をすませたのか、こちらに向かって歩いてくる甚爾さんの手にはカードキーが握られていた。

「行くぞ」
「どこに?」
「天国」
「へ?」

自分でも間抜けな声が出たと思う。エレベーターに乗り込んで、押された階数は57。怖くなってもう一度、甚爾さんの羽織を引っ張る。私を見下ろした甚爾さんはポンと頭の上に手を乗せるだけで何も言葉を口にしてはくれなかった。

目的の階について、エレベーターを降りた。心許ない足取りの私を見かねた甚爾さんが、私を肩に担ぎ上げる。「自分で歩けるよ」と伝えたけれどどこ吹く風。すたすたと廊下を進んで、カードキーで部屋のドアを開ける。ベッドまで進んで、ポイっとふかふかのベッドに放り投げられた。


「天国についたぞ」
「わーすごい!夜景!東京タワー見えるよ!甚爾さん」
「そりゃよかった」
「なに?なにこれ?夢?」
「夢じゃねぇよ。たまにはいいだろ」


窓際の座り心地の良さそうなソファに座って甚爾さんは羽織を脱いだ。私も反対側のソファに座って甚爾さんを見る。「俺じゃなくて外見てろよ」とぶっきらぼうな言葉を掛けられても気にしない。


「ラウンジあるから飲み行くか?それともルームサービスにするか?」
「甚爾さんと二人っきりがいいから部屋でがいい」
「何飲む?ビールか?」
「それじゃあいつもと同じじゃん」
「なら日本酒か。なにがあっかな」
「甚爾さんのそういうどこでも態度が変わらないところ好きだよ」

甚爾さんの手からメニューを奪って、その代わりに私が甚爾さんの上に跨った。「これじゃ夜景見えないだろ」と言いながら、私の爪を撫でる甚爾さん。今日のために新調したネイルに気づいてさり気無くそうしてくれるところも好き。暖房が効いている部屋だから全然寒くないのにくっついていたいくらい好き。


「俺は欲張りなんだよ」
「甚爾さん?」
「だからなまえが一番喜ぶことしてやりてぇんだよな」


ぽんぽん、背中を二回叩かれて抱きしめられる。「この後カウントダウンの花火も見れる。サプライズでプレゼントも届く」、耳元で低い声が囁いた。逞しい腕に包まれて、やっぱりここが甚爾さんが言っていたように天国なんじゃないかと錯覚しそうになる。夢ならば説明も付く。


「つーかお前なにされんのが一番嬉しいんだよ」
「甚爾さんが一緒に居てくれること」
「これ以上俺に惚れさせてどうすんだ?」
「一緒に地獄に落ちてもらおうかな」


そりゃいいな、と甚爾さんが私の唇をなぞる。天国からの行先は地獄だもん。
どこへでもどこまでもずっと一緒だよ。