【2-2】1998年の章〜4月の2〜

入院生活は退屈だった。
体はピンピンしてたから。
しかし、事故が事故だっただけに毎日検査していた。
涼子は毎日必ず見舞いにきてくれた。

「ベビー服買ってきた!見て見て!」
「えー、先週買ったばかりやん!」
「だって可愛いかったからー」
そういうと嬉しそうに病室の人達に見せてまわってた。
まあでも、そんな幸せそうな顔を見るのがたまらなく好きだった。
妊娠6ヶ月、極めて順調らしい。

「あまり無理すんなよ」
「入院してる人に言われたくありませーん」
確かに…。

「おい、先生とこはどうする?」
「明日行こうかなーって」
「おいおいおい、一人で行くなよ、一緒に行くて約束やろ」
「むー、なんかさ、照れ臭くて」
「まあ待ってろ、すぐ退院するから」

すぐ横で検診してた看護師に
「ダメ」
と釘を刺されたが。


先生とは、涼子の育ての親みたいな人だ。俗に言う孤児院みたいなことをやってる。
そう、涼子は孤児だった。
幼い頃に両親を亡くし、親戚からもあまりいい顔をされず、見かねた先生が引き取ったということらしい。

その施設は『タンポポの家』と言う。
涼子は年長になるらしく、高校は行かず施設の手伝いをしていた。
今まで育ててもらった恩をどうにか返したいと思って頑張ってたらしい。
まあ、先生からしてみれば、自分の信条に従って好きにやってきただけなので涼子が感じている恩というものが少し重かったらしい、という話は聞いたことがある。

俺はそこに仕事で営業に行っていた。

当時、浄水器の販売と設置をしていた。

飛び込み営業でタンポポの家を訪ねたとき、そこが孤児院であることをしり、なんとか無償で浄水器を設置できないかどうか上司と相談してみた。

しかし決済は降りなかった。
タンポポの家の子供達とも仲良くなり、涼子のことも少し気になり始めていたので、縁を切らさないためにも自腹を切った。

一番喜んでたのは涼子だった。
「みんな!美味しいお水飲めるようになったよー!」
子供達も喜んでくれた。

「水のお兄ちゃんありがとー!」
「おう!約束したからな!」
「お兄ちゃん!涼子お姉ちゃんのこと好きなんでしょ!知ってる!」
「おーい!子供が余計な詮索すんな!」
この子とはよく遊んでた。典型的なお転婆というか、なんか放っておけない気がして気がつくと構っていた。
当時は小学5年だったか。

この子の名は、『野川美春』という。

「涼子お姉ちゃん!水のお兄ちゃんが好きって言ってる!」
「あー、いや、こら!」

涼子はニコニコしながら
「本当なら嬉しい」
と言った。

「涼子お姉ちゃんと水のお兄ちゃん!二人でお喋りしなよ!あたし千佳と遊んでくる!」

一週間に一度はタンポポの家に寄るようになっていた。
俺はここが好きになっていた。
涼子が好きというのもあったが、なんというか、ここの子供達は強い。
些細な事で悩んだり腹を立てたりしている自分が情けなくなるくらいに。

自分の力なんて高が知れてるが、この子達を守りたかった。この子達の笑顔をずっと見ていたかった。

涼子とは付き合い始めた。
先生の勧めもあり、涼子はタンポポの家を出ることになった。

「じゃあね、美春ちゃんと千佳ちゃん、二人が年長さんなんだからしっかりね」
そう言った涼子は少し寂しそうにも見えた。

「任せとき!」
「大丈夫よ、お姉ちゃん。お姉ちゃんも元気で、幸せにね」
高々小学生の美春と千佳がやけに大人びて見えた。


そして、涼子との同棲が始まった。

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