パーティはもう始まっただろう。太陽は既に地平線の彼方へ消えた。月の姿はない。 今、テイルズガーデンの灯りは屋敷の煌々とした照明、ただ一つである。
暗闇の中、1人の道化が20の死霊の内2人と闇を駆けた。
デイビット「こりゃあ、うめぇなぁ。」
デイビット・ウル・ルルソンはジャグリングで使用していた鋼鉄の球を死霊の急所へ投げつけて至高の快楽に浸っている。
「空蝉、垰、パーティの開始だぜ。」
ブリティッシュ・アメリカンのラッキー・ストライクに火を点け、道端で拾った招待状を豪快に破り捨てる。 さぁ、この世界への“宣戦布告”だ。

寒蝉「デイビッドのおっさんむちゃくちゃやる気やなぁ…。ま、オレはオレでテキトーにやらして貰うで」

他の2人に後続するように走ることで面倒な死霊の処理を2人に押し付けている。いざとなったら戦うつもりではあるが、そこらの雑兵の処理をやる気にはならない。自己中上等、美味い酒があるといいなと招かれざる客にも関わらずそんな事を考える

圷「ぱーてぃ…ぱーてぃ。ふへへへへ」
己の腕から流れ出る血を見てはニンマリと口角を上げ、パーティーを楽しみにしているのか何度も何度も“ぱーてぃ”という単語を呟く。
圷「ぱーてぃ、!皆と、たくさん遊んでくる!!楽しみだなぁ」
デイビッドの言葉を聞けば、虚ろだった瞳が見開かれ、満面の笑みを浮かべる。この“遊ぶ”とは須らく“血祭り”の事であって───この趣旨で楽しみなのは圷当人だけである。まぁ、そんなのは知った事ではないのだけれど。



フヨウ「ここにはこの世界の管理者さんがいるのですよね…
私、用があるので管理者さんを探してもいいですか?」
管理者であるローラは、退屈な世界から、この世界へ連れ出してくれた恩人だ。
礼を言わなければと思ったのだ

幽玄「...気をつけるんだぞ?逆に例の噂の奴らが乗り込んできていないとは限らないから」
随分と棘も減った様な言い方でそう伝えては、軽く手を振って彼もまたどこかに歩いて行った



チェリー「さて…ここのようですね」

森を抜け、会場と思しき館の前に菜々瀬を連れて現れる。多くの人の気配が既に中にあった。少し警戒はしているが、正直楽しみだ。
誰か案内する者が来てくれるかと思い、館の正面で立ち止まる。

菜々瀬「すごいね……こんな綺麗なお屋敷、オモチャ以外で見たことないかも」

果たしてそこに警戒心は発生しなかった。手紙の内容を忘れたわけではないが、それ以上の感動が恐怖やらを上塗りするのである。

「案内ありがとね、チェリー」
立ち止まったチェリーの少し後ろ辺りで同じく静止する。

幽玄「......」
今日はなんだか嫌な予感がする。こういった勘は大抵当たるので、僅かに刀に添えていた手が震える。何事もなければいいのだが、恐らくそれは叶わないのだろうなと何処か諦めに近い感情を持って屋敷の入り口近くの壁に寄りかかっていて

柊斗「あの…初めまして、パーティーの参加者の方でしょうか?もう始まると思うので、入っても大丈夫だと思いますよ、あ、見知らぬ僕が言うのもなんですが…」

2人を見かけ後ろから声をかける
ドアを開け、「どうぞ」と2人に微笑む

チェリー「そうですか…すみません、不慣れなもので、ありがとうございます。早く中に入りましょう」

入口付近でやや緊張した雰囲気を醸している男(幽玄)の方にチラリと顔をやる。更に森の奥から迫る3人の気配を察知し、やはり何かに巻き込まれるだろうなと確信する。
しかしもう引き下がれない。菜々瀬と柊斗の手を引いて中に急かせる。

「こんばんは」

幽玄の横を通りがてら声をかける。この男なら多少は大丈夫だろう。初対面ではあるが、少なくとも警戒の度合いから考えてそう弱くもないだろうと当たりをつける。それに、恐らく警戒した為にわざわざ入口付近に来たであろう男に中に戻ろうと声をかけるのもナンセンスだ。

幽玄「...あぁ。」
ぽつ、と一言彼女を見ながら呟く。彼女からしたら、目つきは良くない上にそんな反応で第一印象はきっと最悪だろうか。しかしながらふと彼女に近寄れば“......警戒はしておいたほうがいい”とだけ耳元で呟いて

チェリー「気配が3人、気をつけて」

幽玄にそれだけ告げてパーティ会場の中へ。
人の喋り声、料理の匂い、酒の芳香、熱狂…自分が客の側だと思って感じると胸が浮き立つような感覚になる。警戒は抜けないが、正直少しわくわくしていた。

「わぁ…」

わくわくはしたものの、何からすればいいのか分からない。浮ついた感覚で辺りを見回す。

幽玄「...3人......」
そう言いながらも、変にならない様に彼女の少し後方についていきながらパーティ内に行って。何か食べれば少しでも気がまぎれるだろうという判断の様だった



フヨウ「ローラさん!改めてお礼をさせてください。私をこの世界に連れてきてくれてありがとうございました。」
いつもよりハキハキした声で言う

ローラ「え……?」
食べていた手を止め、目を丸くする
ローラ「別に、私はお礼を言われるようなことなんてしてないわ。ただ、貴方がこの世界と共鳴したから私が案内しただけで……」
照れているのか、もごもごと答える

フヨウ「いえいえ、それでもお礼させてください。ホント退屈だったんです、前の世界」
笑顔で言う

ローラ「そ、そう。良かったわね」
それ以上は何も言わず、再び目の前の食事に手を伸ばす
顔を覗き込めば、真っ赤になっているのがわかるだろう

フヨウ「では、失礼しますね」
内心ではかわいい、と思いつつ
その場をあとにする

近くにいたセーラがスススッとローラの隣へ
セーラ「良かったわね、ローラ」
ローラ「な、なにが」
セーラ「こっちの世界に連れてこられてお礼を言う人なんて今までいなかったものね」
セーラは自分も嬉しいと言うようにニッコリと笑顔を浮かべる

フヨウ「もちろん、この世界を作ってくれた貴女にも感謝していますよ。セーラさん」
どこかへ行ったと見せかけて姿を消してセーラの後ろに移動し、突然現れて言った

セーラ「ひあぁっ!?」
急に現れたフヨウに驚いて変な声が出てしまう

フヨウ「ふふっ驚かせてすみません。私実はお化けなんですよ…
あ、安心してください。呪いとかはないので」
(やっと驚いてくれた…!笑)

セーラ「おばっ……おばけ……?」
驚きながらも少しフヨウに興味が湧いて。
怯えながら少し手を伸ばしてみる

フヨウ「おっと、意外でしょうが
さわれますよ。ローラさんの能力でここに来る途中で願ったことが反映されましてね」
こちらからも手を伸ばし、手を握る

フヨウ「怖がることはありません。基本的に生きてる人とそうは変わりませんから」
怯えさせないようしっかり目を見て、手を握って、最大限優しい口調で言う

セーラ「ホントだ!触れる!」
触れることに驚き、そして少し楽しくなって、体をぺたぺた触ってしまう
ローラ「ほんと……?」
ローラも気になってフヨウの体を触る
ローラ「ほんとだ……!」

フヨウ「ちょ…ちょっと…くすぐったい…ふふ…あはは!」
あまりにぺたぺた触られるので、くすぐったくて笑ってしまった

セーラ「ふふっ」
ローラ「ふふふ」
2人「あはは!!」
なんだか楽しくなって、2人もつられて笑う

フヨウ「ふふっお返しですっ!」
と2人をくすぐり返す

記憶のうちではくすぐりあうなんてこと初めてであった。
それこそ炙り出しのことなんて忘れたいくらい楽しい時間である

セーラ「ふふっ!」
ローラ「あははっ!」
くすぐったさに堪えきれず、きゃあきゃあ言いながら逃げ回る2人

フヨウ「ふふふ…逃がしませんよ〜!」
2人を追いかける。走って。
くすぐるぞと言わんばかりの手で

セーラ「ふふふっ……!きゃっ!!」
ローラ「わっ……!」
フヨウから逃げるために後ろを振り返りながら走っていたため、前にいた幽玄に気がつかずぶつかってしまうセーラ。
その後ろを走っていたローラもセーラにぶつかる形になってしまった。

フヨウ「…っと、幽玄さん。
また会いましたね」
一応、再度挨拶をする

幽玄「っと......」
咄嗟に幼い彼女たちを抱きとめて衝撃を吸収しては、相変わらずムスッとした顔で“...そんなはしゃいでると危ないぞ?”と告げる。当たりはかなり柔らかく、相手が子供だというのがとても大きいだろうか

セーラ「えへへ」
ローラ「ごめんなさい」
幽玄の言葉を素直に受け取り反省し。
けれどフヨウが追いついたことに気付き幽玄の後ろに回って隠れる

フヨウ「そこをどいてください幽玄さん…どかなきゃ貴方もくすぐってしまいますよ〜」
再会した幽玄に対しても子供っぽさは変わらない

幽玄「...一体なんなんだ?フヨウ。」
流石の彼も困った様な表情で彼女を見る。退けと言われても、一体全体どうすればいいのだ。此処で退くのも違うし、だからといって擽られるのも面白くない

フヨウ「2人も一緒にこの方をくすぐってください!
おりゃあぁぁ!」
どかないようなので遠慮なくくすぐりに行く

セーラ「え?いいの?」
ローラ「いいの?」
驚いて顔を見合わせればその後すぐにニヤっと笑い。
セーラ「やったあ!」
ローラ「えーいっ!」
後ろから幽玄をくすぐる

幽玄「なっ、お前らっ...やめろっ...」
もともと擽りには弱い方ではないが、こうも大人数からされると笑ってしまう。しかしながらそういった性格でないので必死に顔に手を当てて我慢していて

フヨウ「素直に笑ってはいかがですか〜?貴方は素直になればより素晴らしい人になると思うんです!」
と、くすぐりながら言う。

…とその最中でセーラ、ローラに聞こえないような小声で、
「まだ悪い予感はしません…何か起こるとしても、おそらくまだ先です」

幽玄「本当に......やめてくれ...」
気を見てするり、と彼女たちの中から抜けては息を荒くしながらも疲れた様子でそう呟いて。なんとか彼女たちの前では耐えられたが、あれが続くと恐らく耐えられないと悟ったらしい

フヨウ「あっ…抜けられてしまいました。耐えなくていいのに〜」
残念そうにしつつも、伝えておきたいことは伝えたのでくすぐるのをやめることにする

セーラ「ローラ、面白かったね!」
ローラ「うん、面白かった!」
顔を見合わせてクスクス笑うと、
セーラ「あっ、あれ美味しそう!」
ローラ「私も食べたい!」
とテーブルの上の新しい料理を見て目を輝かせ走っていく



カイン「......」
そのまま何事もなく屋敷までたどり着いては、失礼しまーすと思いながら扉を開ける

刹『 こら,人の家に入る時は挨拶をするのが礼儀やろ? 』

(と,無言で扉を開けようとしている相手の手を軽く叩く. 礼儀などには厳しい刹さんだった.)


- 4 -

*前 次#

ページ一覧