柊斗「凄いですよね、めちゃくちゃ豪華なパーティーで…なんか自分が少し場違いに感じてしまいそうです。」

目を輝かせる二人を見てなぜたか分からないが嬉しくなる
たしかに凄い、見たことも無いような光景だ、しかし、自分の身を考えるとここにいていいのかと、感じてしまいそう。苦笑いで2人に話しかける

菜々瀬「ふ、服とかこれで大丈夫なのかな、あれだよ、普段クラブばっかり行ってるからさ、こういうの慣れてなくてさ……ふふ、ふふふ」

若干興奮気味に、使い込んだスニーカーをたどたどしくさせながら進む。
無論絶対に有り得ないのだが、あたかも自分がお嬢様かのような雰囲気に浸れるので、内心嬉しいのである。
誰しも一度は抱いたであろう妄想。自分がどこかの国のプリンセスで、カッコイイ執事様が迎えに来てくれるような、そんな絵空事を浮かべては、ニタニタする他無いのである。気分は完全に夢の国へと誘われていた。

柊斗「自分も服装には少し自信ないですね…」

自嘲気味に笑うも、気がつくと自分の世界に入っている彼女を見て、多分自分の声は届いてないだろうと思い、近くの食事に手を伸ばす

チェリー「あ…すみません、名乗るのを忘れていました。私は以前他の世界でメイドをしていました、名前はチェリーといいます」

流れで会場に引き入れたものの、柊斗との自己紹介を終えていない事に気づく。高まる気持ちをちょっと落ち着けて、改まって一礼した。
そして、菜々瀬の方をチラリと見て自己紹介を促す。

菜々瀬「はっ……!忘れてた、ごめん」

寛容であった親にも、『挨拶はしっかりしなさい』と念を押されていたのを想起して、つい頭を下げる。

「えっと、市川菜々瀬っていいます!出身はかなが……違った、ええと……日本?っていうか、島国です……」

相手は異文化、もとい異世界の人間であり、これを理解してもらうには些か話術を要する。
説明する度に疲労するのをそろそろどうにかしないとならないと思って、工夫の仕方を考えるが、そもそもそこまで詳細に伝えなければ良い話ではないかと割り切って今後はそうしようと決める。

柊斗「あ、御丁寧にありがとうございます」

ばあちゃんからの『レディには優しくしなさい』の教えの元、出来るだけ優しい声色で話す

「チェリーさんと菜々瀬さん、ですね、僕は佐々木 柊斗です。ちょうど菜々瀬さんと同じく日本出身です。向こうの世界では…普通の大学生でした。よろしくお願いします」

元の世界の話をする時、少し笑顔が崩れそうになるが直ぐに取り戻し、軽くお辞儀をする

菜々瀬「に、日本!?」

飛び上がって、身を乗り出して柊斗を見る。
同郷の民が今ここにいる。それだけでも、心の大きな支えである。

「あの、お、お疲れ様ですっ」
何から質問していいのかわからず、何故か労いの一言をかける。

柊斗「あはは、僕も同じ日本出身の方がいてよかったです。この世界は不思議な人が多くて驚かされてばかりです。」

目に見える驚き方をされて、少しおかしくなり笑う。だが、自分も安心したのは事実であった。

柊斗「ありがとう、ございます?…あ、菜々瀬さんも、お疲れ様です」

いきなりの労われて戸惑うも
この世界に来たことかな、と解釈し、同じ労いの言葉を並べる

菜々瀬「お、お気遣いなく!でも奇遇ですね、こんなところで、同じ国の出身とか、結構ビビっときちゃいますよ、こう、ビビっとね!」

口ではそう言いつつも、少しはお気遣いしてほしいという感情も無いではなかった。どのようにここへ来たのか、ここが何処なのか、日本と此処はどのくらい離れているのか、等と相手もわからない可能性のある質問を列挙したくなる。
然しふと、柊斗の雰囲気からするに、もしかすると、彼は自分とはまた“違う日本”の人間なのではないかと考えるのである。あのような雰囲気の大学生は希少どころか絶滅危惧種である。……少なくとも、自分の経験した“バブル崩壊後の日本”では。

柊斗「そうですね、少し親近感が湧きますね。よく分からない世界に来てしまって不安でしたが、出会えてよかったです。」

そう言って安堵のため息を漏らす。
菜々瀬を見て、大体高校生くらいかなぁ、若いなぁ、なんて考えながら、彼女に対するふとした違和感には気付けずに居た。

チェリー「お2人は同郷の方なのですね。…では、積もる話もあるでしょうから私は少し席を外します」

そう言って2人の元を少し離れてふらふらと歩く。柊斗と菜々瀬に共通項があり、その事について話しているのを聞いているとなんだかむずむずとした居心地の悪さを感じた。…それが嫉妬という感情だとは、まだ知らない。
2人から離れてみるといよいよこの場で何をしたらいいのか分からなくなってくる。こういった場で何をどう楽しめばいいのか分からない。所在なさげにただキョロキョロと辺りを見回して、自分はこの場に場違いなのではと心細くなる。

柊斗「あ…なんか、悪いこと…しちゃったかな…」

行ってしまった彼女の背中を申し訳なさそうに見つめる
確かに、同じ日本出身ということに反応して、彼女のことを置き去りにしてたと、少し反省する。ばあちゃんの『仲間はずれはするな』という教えに背いてしまい、少し罪悪感を覚える

菜々瀬「あっ……」

トテトテと去っていく友人の背中を見て、初めて自分に平静が失われていたことを認める。

「ごめんねー!また後で会お!」

聞こえるかわからない距離まで離れてしまったが、一応それだけは言っておきたくて、はしたなく半ば叫ぶように呼びかける。


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