デイビット「で、オメェが相手、と。」
筋肉が程よい程度にまで収まる。次は──そうだな、洋風の剣がその右手には握られていた。

幽玄「...まぁ、そうだな。宜しく頼む」
刀を構えながら、相手を見据えては無の表情で彼を見つめた。しかしながら、その瞳には煮えたぎる闘志が宿っていた。それもそうだ、こちらに来て久方ぶりにできた友人に手を挙げられたのだから

デイビット「…?あぁ、よろしく頼む。挨拶ができるお前には特別だ。武器を捨ててやろう。」
剣を投げ捨てるとそれは消える。デイビットは両手でファイティングポーズをとった。

幽玄「......」
相手の言葉には何にも答えずに、脱力したように息を吐き出す。そして刀を相手に向ければ。突然相手の体めがけて絶の力をまとわせながら斜めに切り下ろさんと刀を振って

床板を盾にする。それは勿論、見事なほどに斬れた。
デイビット「なるほどなるほど。お前の力はそういう力なわけか。」
左手でジャブを繰り出す。倒すための攻撃ではなく、当てるためのこうげきである。

幽玄「...っ」
僅かに体をそらすも、僅かに脇腹あたりにジャブが掠って。しかしながらお返しとばかりに戻しの刃で彼の体を切ろうとするが、恐らくこの攻撃では傷は当たっても浅いだろうか

ディビット「異能なんてけったいなもん使わんと、実力だけで戦おうや!お互いにな!」
ジャブが体をかするそのとき、幽玄の体に触れる。
「異能操作…出力0%じゃあ!」
──それは、フヨウの異能だった。

幽玄「っ......」
突然消えた自身の異能に、瞠目しながらも彼の胸元を肩から腰にかけて刀を突き立てる。これはものすごくマズイことになった。自身の剣技はいわば異能に合わせて力を使わぬ速の技。彼のようなタイプには相性が悪かった

ディビット「ふぅ、厄介な奴がなくなったわ。」
ラッキー・ストライクに火を付ける。
「異能とかいうもんは俺の元の世界にだって存在したんだわ。 でもよ、俺は何も持てなかった。 だからこそ気付いたんだわ。 異能…言うたら人の性質っつーもんを俺はなんだって奪い取れってなぁ。」
彼は異能を持つことが当たり前だった世界で何も持たなかった、言うならば空の容器なのだ。
「んで、さっきのアマからあの力をパクったわけや。 戦う異能は本当に何も持ってねぇさ。さぁ、決着と行こうや!」
次、彼が手にした得物は皮肉にも日本刀であった。

幽玄「...3分だ。お前など3分で十分ッ!!」
奪い取った、という言葉に反応したのか彼がこの世界に来てからついぞ出してこなかった怒声のような声で上記を宣言する。しかしながら、今使っていた剣技は使い物にならないと来た。ならばもうがむしゃらに本能に従って行くしかあるまいと、一気に足を踏み込めば近くにあった椅子をデイビットの顔めがけて蹴り飛ばし、そのまま右回りに走り込みながらも右足めがけて力づくで横薙ぎに刀を払う

ディビット「ぬぅぅ!!」
刀で幽玄の刀を受ける。そのために椅子は直撃する。
「だがな、よく聞け。俺の中にいる“20番”の声だ。 日本の刀は無駄な力を入れぬ方が良い。忘れたのか!」
間合いを取り直し、刀を左から右へ余計な力を入れずに振った。

幽玄「っ...」
その余計な力の入らぬ滑らかな刀身は、彼の肩元を切り裂く。しかしながら、彼も負けじと刀を力付くで彼に向かってもう一度振るう。今度は刀身の先端の方で

ディビット「くっ。さすがである。だが!」
同じく、刀によって肩が斬られる。
だが、負けじと突きを放ってみせた

幽玄「......」
彼の新しい剣術はまさに完成しつつある。今までが速の剣だったというのなら、今は剛の剣。一撃一撃が、かなりの破壊力を伴う。その相手の突きを刀身で自身の傍に逸らそうとしながら、間合いを取るわけでもなく相手の懐に飛び込むように行動する

デイビット「…ほう」
気付いた時にはすでに遅し、デイビットの懐に入る幽玄がいた。

幽玄「.........3秒オーバーだったな」
そのまま力ずく、いや極限まで体の負担を考えないある意味“理想”の一太刀を彼の胸元に大きく刻み込もうと。それは彼の鋼のような肉体すらも貫かんとする剣技であった

デイビット「くそう、くそう、くそう…!」
肉体を大男の性質に変化しようとするも、間に合わず。 その身体が変化する途中に幽玄の刀はデイビットの身体を貫く。
「俺を倒しても残りの2人はまだ残っている。 これで勝ったとは思うなよ…!」
最後の力で幽玄の能力の出力を500%に、作用点を幽玄自身に変更する。 再度フヨウに会うまで幽玄は絶の型を封印する必要があるのだ。

幽玄「っぐぅ.......」
勝った。勝ったのだ。しかしながらそのまま刀を落とす。無理に体を使いすぎてつけがもう回ってきている。握力が落ち、そのまま膝をつく。絶が封じられた今、彼はもうただの足手まといにしかならないのかもしれない



柊斗「大丈夫ですか?…菜々瀬さん?菜々瀬さん!」

自分でも状況が理解できない
明らかにおかしい彼女に声をかけるも返事がない
このまま逃げるのは難しいと判断し、必死に肩を揺すり声をかける

菜々瀬「ぇ……?」

何とか正気を取り戻しはしたものの、眼前には絶叫を耐え難い光景が依然として広がっている。
チェリーが戦っている。その他大勢も応戦している。自分は何をするべきなのか。無論逃げるべきだと本能的には知っている。戦うなんてとんでもない、かえって足でまといで迷惑である。

「ごめんなさい、私、ヘンになってた……」
右も左もわからない中、震えた声で柊斗に応える。

柊斗「良かった、俺も混乱してます…でも、俺たちに出来るのはただ、…生きることです」

初めは安堵するも、直ぐに歪んだ顔になる
菜々瀬の手を握り背中をさする
しかし、僅かに息が上がっており、彼自身の手も震えている

柊斗「大丈夫…大丈夫…」

菜々瀬に言い聞かせるように言うが、自分への暗示のように呟く

菜々瀬「逃げないと……でも、でも」

半ば独白として、何か運命に抗うような抵抗の前触れが覗かせる。

どうしても逃げてはならない何かがあるような気がする。そうして足は事実、動かない。竦んでいるのとは少し違った感覚に、違和感を覚える。

「私、ここに来る前に、何か……」

こんな状況下で頭痛などあってはならないのだが、それは容赦なく襲う。
小さな自身の手が震えながら、不審な動作を繰り返す。丁度何かを掴んで手にするように──。

その思考を妨害するかのように。
無慈悲な呻き声が、そのテーブルの裏から聴こえて来る。
「ア……オ……」
撃ち漏らし。この騒動の中で、誰にも存在を気付かれなかった一匹の死霊。キョンシーよろしく頭には8と書かれた札が貼り付けられている、中華風の装いをした男性。
それは明らかに、二人を襲いに来ていた。

柊斗「…!大丈夫ですか?菜々瀬さん…?」

震えだした彼女にどうすることも出来ず、優しく頭を撫でる
それと同時に“何かがいる感覚”を覚え咄嗟に彼女を自身の背中で隠し、近くにあった猟銃に震えながら手をかけ、ソイツを視認する。テレビの中だった存在が目の前にいる。
それ単体でも充分恐怖心を感じるが、それ以上に自身の持ってるそれを使うとどうなるか、というのは優に想像出来てしまい体が固まる

菜々瀬「やらなきゃ、やらなきゃ……やらなきゃ……」

意識と乖離して呪文の如く唱えるが、それは奮起するべくして出る自身への激励であった。
男だから、女だからは関係無い。ここでは帰宅のためのタクシー代を奢ってもらえる訳では無い。やらなきゃやられる、そんな世界で、臆病に逃げ回っているだけの人間は結局生きていられるのかと聞かれれば、ノーだろう。
そんなことを、脳内で浮かべては沈め、ついに何を間違ったか、近場に置いてあったパイプのような硬い棒を掴んで、柊斗が対峙する死霊へと向き直る。

「ア……オ、ア……!」
殺意を感じ取ったのか。
その死霊は、少し怒ったような、低い呻き声を出して構えを取った。
「ウ、オ、ア゛ア゛ーッ!!!」
それは断末魔にすら近い、聞くだけで不快な咆哮。
ダン、ダン、と大きな地団駄をして、死霊は菜々瀬へと大ぶりの正拳突きを放つ。

菜々瀬「かはッ……!」

素人には避けられない攻撃だった。逃げる隙はあったのだが、逃げるというコマンド自体を忘れていた。三メートルほど飛ばされた肢体は、生気を失い慣性に従って床へと叩きつけられる。手に持ったばかりの棒はそれでも離していなかった。彼女なりの意地だったのか、あるいは。

「……ぁんたも、痛いはずだよ……!」
強く殴打された部位を空いた片手で押さえながら、無理矢理に立ち上がって、死霊に再び向き直る。その時の瞳には“倒せない敵”は映っていなかった。

どん!と。
まるで見えない何かに殴られたかのように、8番の腹が凹んだ。
「オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーッッッ!!!ア゛ーッッッ!!!オ゛、ア゛、ア゛!!」
突然の衝撃に悶える死霊。
まるで、相手にした攻撃がそのまま“返って来た”かのような現象に、その死霊は驚きを隠せないでいた。

菜々瀬「くっ……ぁぁあああ゛あ゛あ゛ッ!!」

やっぱりだ、と思った。自分のこの“変な体質”の存在が確立した瞬間だった。

相手が硬直した隙を見定めると、ついに菜々瀬は、縺れる足をまた無理矢理に動かして、精一杯振りかぶる。その姿勢は武芸など何も習ったことのない一般人そのものであったが、それでも一般人としては立派に、強者に対して最大限向かい合うだけの迫力があった。

気迫に押されたか。
思わず死霊は硬直し、その攻撃の対応に一歩遅れた。
だが、直に喰らう程の遅れではない。
「ア゛……イー……アウー……ウア、ウア」
咄嗟に身体ごと同じ方向に飛び、攻撃の勢いを相殺。
ここまで丁寧な対応をされれば、幾ら入ったからと言ってダメージは殆どゼロだ。勢い余って地面に伏してしまったが、この二人相手ならば問題ない。そういう判断だろう。

柊斗「…へ?」

目の前の光景に目を見開く
やるべき事は頭にあるのに体が動かない、1度頭の中に芽生えてしまったものを取り消せず、ただただ立っているだけ…
ふと頭の中にばあちゃんの『女の子を傷つけた奴は許しちゃいけない』という教え、が頭の中を流れるその言葉は、何よりも…彼を蝕む恐怖心よりも大きな存在であった。

柊斗「…やめろよ…」

2人の盾であったテーブルを伏せたソイツの上へ倒す
自身もそのテーブルに乗りソイツの頭を猟銃で狙う
(大丈夫…ここなら外さない)使ったことなど無い猟銃…しかし何かに教えてもらうように銃を構え、引き金を引く、頭に2発 、もう打てないと分かると、猟銃を力の限りソイツの首元へ振り下ろした。

「__ア?」
鈍い、音がした。
血は流れない。だが、代わりに黒い液体が溢れ出る。そこから生み出される、闇。
もうもうと霧が立ち上る。
死体は、綺麗に消えていた。


- 8 -

*前 次#

ページ一覧