ミッシング・ユニバース 06
ロマーノがスペインの家に滞在して、ちょうど一週間になる。ついに今年最後の日となった。その間二人はずっと一緒で、家の掃除をしたり、料理をしたりセックスをしたりと、のんびりすごしている。人の多いスペインの観光地に、寒い中足を向けようとは互いに思わなかった。その間、ロマーノの体調は頗るよかった。改めて、ロマーノは自身にとっての、スペインの存在の大きさを思い知らされる。
「俺もなあ、ロマーノと会われへんかったひと月、なんか調子悪かってん」
「へえ……」
葡萄の皮を剥きながら、ロマーノはスペインの言葉を聞き流す。調子が悪かったのはロマーノに会えないからというよりも、仕事を詰めすぎたからだろうと、ロマーノは勝手に解釈した。
「もうお前がおらなあかんみたいやわ、俺」
「ふうん……」
こういう言葉に、ロマーノはいちいち舞い上がって、すぐ期待してはダメだと自身を律していた。スペインのこういう言葉に、あまり深い意味はない。間違いなく本心ではあるのだが、スペインがロマーノを求める心は、恋愛としてではなく、家族としてでしかない。
「年末年始一緒におれるって、めっちゃええよな!」
「ほお……」
無心に徹して、葡萄の皮にかりかりと爪を引っかける。十二時までに間に合うか不安になり、ロマーノはちらっと時計を見たが、あと十分ぐらいの余裕はあった。
「クリスマスも一緒におれたし……」
「はあ……」
「……もお!」
必死に葡萄を剥いていたロマーノの体に、スペインがどんっと強く体当たりをした。その衝撃で、剥いてる途中だった葡萄が、ころころとテーブルの上を転がっていく。せっかく人が集中してるのにと、葡萄が飛んで行った元凶であるスペインを、ロマーノは強く睨みつけた。
「何しやがんだコノヤロー!」
怒っているのはロマーノだというのに、何故かスペインも不機嫌そうな顔をして、唇を突き出している。鬱陶しいことこの上なく、ロマーノは手を伸ばして転がった葡萄を掴み、また皮むきに戻った。
「ロマーノこそ! 俺の話ちゃんと聞いてるん!?」
「うるせーな! こっちは皮剥くのに集中してんだよ! 邪魔すんなハゲ!」
葡萄の皮を剥いている間、スペインはずっとべらべらと喋っていたが、ロマーノが確認するにスペインはもうあとひとつを残して、全て皮むきを終えている。しかも剥かれた皮の残骸を見るに、ロマーノのように皮がボロボロになっておらず、綺麗に繋がって剥けているのがわかる。
「皮剥くのになんでそんな時間かかんねん……ほんま不器用やな」
「アア!? そう言うんならテメェが剥けよ! 大体俺ん家は年越しの時に葡萄食う習慣なんかねーんだよ! 言わばお前の為に剥いてやってんだぞコンチクショーが! 文句言ってんじゃねーよクソ野郎!」
「それはお前が食べる分の葡萄やんか。もう、しゃあないなあ……」
苦笑しながら、スペインは残りひとつだった自分の葡萄の皮を素早く剥き、ロマーノの葡萄に手を伸ばした。あまり悠長にしている時間もないので、素早く皮を剥いていくスペインに、ロマーノは小さく舌打ちした。改めて自身の不器用さを突き付けられた気になった。
スペインには新年を迎える瞬間、マドリードのプエルタ・デル・ソルの時計台の鐘の音に合わせて、十二粒の葡萄を食べる風習がある。ロマーノとスペインが年越しを共に過ごすのは珍しいことではないのだが、年によって年を越す場所が違い、時にはイタリアであったり、ドイツであったりと様々で、二人で葡萄を食べるのは随分久しぶりだった。
「そういやイタちゃんから聞いてんけど」
集中したいというのに、スペインは黙っていられないのか、またしても口を開く。それにイライラしつつ、ロマーノは「なんだよ」と苛立った様子で答えた。
「イタリア人は赤いパンツ履いて年越すってほんま?」
ロマーノは葡萄を剥く手を止め、スペインを見た。いつの間にかスペインはロマーノの残りの葡萄全ての皮を剥き終え、用意していたカヴァのコルク栓を抜こうとしていた。残りの葡萄は、ロマーノが今剥いているもののみとなっている。
「お前は葡萄の皮むき職人にでもなりたいのか?」
「いや、単純にお前が遅いだけや……いた!」
隣に座っているスペインの足を蹴り、ロマーノは最後の葡萄の皮むきを終えた。時計を見ると、あと数分で時計の針が十二時を指そうとしていた。その横で、ポンっと間抜けな音を立てて、カヴァのコルクが外れた音がする。
「で、どうなん? 赤パン履くん?」
終わったと思っていた話は、どうやらまだ終わっていなかったらしい。興奮気味にロマーノに顔を近付けて尋ねるスペインに、ロマーノはあからさまに顔を歪めた。男のパンツの色がどうしてそこまで気になるんだと、軽蔑の眼差しを向けている。
「まあ、そういう習慣はあるな」
「お前は? 今履いてるん?」
うんざりしたように目を細め、ロマーノはスペインを睨みつけた。けれどスペインは期待するように目をきらきらさせているだけで、ロマーノの睨みなど気にした様子もない。ロマーノはグラスをスペインに差し出して、カヴァをグラス一杯に注がせた。
「お前、俺を誰だと思ってんだよ」
「不器用な俺の元子分」
「南イタリア様だ、コノヤロー。イタリアの国体が、国の習慣を無視する訳ないだろハゲ」
「へえ、そうなん……」
カヴァのボトルをスペインから奪い、今度はロマーノがスペインのグラスに、カヴァを注いだ。その間、スペインがずっとロマーノの股間を凝視しており、苛立ちと恥ずかしさからロマーノの顔が赤くなる。グラスに注ぎ終えると、ボトルをテーブルに置いて即座にスペインの頭を叩いた。
「何見てやがんだヴァッファンクーロ!」
「え、えへ……」
照れたように頬を掻くスペインに、ロマーノは舌打ちした。好青年のような見た目をしているスペインは、その見た目通り普段は鷹揚で明るい男だが、その奥に変態の性があることを、ロマーノは知っていた。そもそも変態を体現しているようなフランスと仲が良い時点で、お察しである。
「赤い下着は魔除けとか、そういう意味だけど……人から送られたものじゃなきゃダメだっていうのもあって、毎年バカ弟と送り合ってんだよ」
「そうやったんか……」
送られるから仕方なく履いてるんだと、頬を赤く染めながら言うロマーノを、スペインは目を丸めて見ていた。赤い下着がロマーノの趣味ではない。もちろん好きな色であるのは確かだが。
まだロマーノが何か言い訳をしようと口を開いたとき、テレビの中が歓声に包まれた。テレビはちょうどプエルタ・デル・ソルの広場を中継で映しており、現地にいなくても鐘の音に合わせて葡萄が食べられるようになっている。ライトアップされている時計の針が、もう十二の文字に差し掛かろうとしていた。
「あ、十二時なるやん! 葡萄用意やで!」
「してるだろ」
二人とも、葡萄の入った皿を引き寄せて、テレビを見た。十二時になった瞬間に鐘の音が響き、二人は顔を見合わせて葡萄を口にしていく。十二回鳴る音に合わせて食べるのだが、その間隔が短いので意外と大変で、二人は話す余裕もない。
十二回鐘が鳴り終え、口の中の葡萄を飲み込んでやっと、ロマーノは息をついた。スペインはまだテレビを見ており、広場で楽しそうに新年を迎えている国民を、嬉しそうに眺めている。そういう感情を、ロマーノはとてもよく理解できる。ロマーノ以外であっても、国体ならば皆わかることだろう。自身の国民が楽しそうにしている姿を見るのは、やはり嬉しかった。
ロマーノはテーブルにある二人分のグラスを手に持ち、ひとつをスペインの前に差し出す。するとはっとした様子でロマーノを振り返ったスペインは、照れたように目を細めて笑いながら、グラスを受け取った。
「あけましておめでとう」
そう言ってロマーノがグラスを傾けると、一瞬目を見開いたスペインは、すぐ満面の笑みを浮かべた。
「おめでとう! 今年もよろしくな!」
カンっと音を立ててグラスを合わせ、乾杯した。諍いもなく年を無事終えたこと、楽しく新年を迎えられたこと。幸せなその瞬間に、共にいられたことに。声に出さず、胸の中で唱えてからロマーノはカヴァを口にした。辛口の炭酸が喉を通ると、芳醇な葡萄の香りが鼻を抜けていく。
「これは良い一年になるな〜!」
「ほんとかよ」
適当なことを言っているスペインに、ロマーノは破顔した。そのまま二人でだらだらと喋りながらカヴァを飲み、互いに一杯を空けたところで、スペインがロマーノに寄りかかった。眠くなったのかとロマーノが顔を覗くと、頬を赤くしてスペインは目を閉じている。けれど満足そうに口元が笑っているので、眠っていないことは一目でわかった。
「おい、眠いんならベッド行けよ。重い」
「親分の体も支えられへんなんて、ロマーノはひ弱ちゃんやね……」
「ああ? 今すぐ床に落とされたいのかテメェ」
くすくすとスペインが笑うたび、ロマーノの首元にスペインの柔らかいくせ髪が触れてこそばゆい。服の下で鳥肌を立てながら、声が出るのをじっと我慢していたロマーノに、スペインが突然キスをした。触れるだけの軽いキスはすぐ終わり、スペインはまたロマーノの肩に頭を戻して、上目遣いでロマーノを見た。エメラルドのような、深く明るい緑の目が、明るい室内のお陰でよく見える。
「親分、赤いパンツ見たいわぁ……」
「……ネットで検索すれば」
「生の……人が履いてるの、見たいわぁ……」
逃げ場がなくなって言葉が詰まったロマーノを、スペインはにやにやと楽しそうに見上げている。その間にスペインの不埒な手が、ロマーノの腰を撫でた。ズボンの隙間から指を差し込み、あたたかい肌を誘うように撫でると、ロマーノは顔を赤くしてスペインを睨みつける。
「……最ッ悪の誘い文句だぞ、コノヤロウ」
「ええ〜? お前のやから見たいんやで」
「嘘つけよ……」
「ほんまやって」
どうせヴェネチアーノがいたら、二人の赤パンツが見たいと大興奮で騒ぐに違いない。その姿が容易に想像出来て、ひとりでにロマーノはイラっとしたが、スペインがまたもキスをしてロマーノをソファに押し倒した。大人三人でも余裕に座れるほどの大きさがあるソファは、当然のようにスペインとロマーノ、二人分の体重を受け止める。
舌を絡ませ合いながら、スペインはロマーノが着ていたセーターとインナーを、一気に胸元までたくし上げた。肌寒さに鳥肌が立つことも無視して、スペインの手はロマーノのわき腹を撫で、そのまま乳首を指で撫でる。途端にびくんっとロマーノの体が反応した。
「んっ……」
まだ終わらないキスに応えながら、ロマーノもスペインのパーカーの裾から手を忍ばせ、浮き出た背骨を手で撫でた。互いの肌に触れあっているだけで、ひどく感じる部分にはまだ触れあっていないのに、すっかり体は熱を持っている。
舌を絡め、唾液を飲み込んで、逃げないように吸い上げて……一通り堪能した後、スペインはロマーノから口を離した。垂れる銀糸を見ていられないといった様子で、ロマーノは顔を赤くして目を細める。その反応がかわいくて、スペインは唾液で濡れた唇を一度舐め、ロマーノの頬にキスを落とした。
「かわええな、ロマーノは」
「それ嬉しくねーんだよ……」
「だってほんまのことやもん」
男なのだから、かわいいよりかっこいいと言われたい。けれど悲しいかな、今まで長く生きてきた中、かっこいいよりかわいいと言われた回数の方がロマーノは多かった。
睨みつけてくるロマーノに笑いながら、スペインはロマーノのズボンのチャックに指をかけた。休みの日は、外に出ない限りベルトを着けないので、脱がしやすくて良い。スペインは許可を取ることもなく、ロマーノのズボンを脱がしてしまう。
「赤パンツ……!」
「……いや、赤いだけのただのパンツだろ? なんでそんな嬉しそうなのお前……」
「だってロマーノがこんな派手な色のパンツ履いてんの、珍しいやん」
確かに普段は黒やグレーなど、派手にならない色の下着をロマーノは好んで履いていた。派手なものといえば、スペインからプレゼントされたトマト柄のパンツぐらいだろう。だからといって、そこまで興奮するものなのか、ロマーノには理解出来なかった。
脱がしたズボンをソファの下に落とし、赤いパンツをじっくりと眺めながら、スペインはロマーノの太ももを撫でた。はあっと熱い息を吐くスペインは、ロマーノに興奮しているというより、赤いパンツに興奮しているように見え、ロマーノは一人複雑な気持ちになる。
太ももを這っていたスペインの手が、ついにパンツに到達し、パンツの上からロマーノの性器に触れた。途端、ロマーノは息を詰まらせて体をびくりと跳ねさせる。
「もう反応してるやん」
「悪いのかよ……」
「いや? 感度ええのは嬉しいなあ。ええことやと思うで」
良いことと言われた途端、ロマーノはぞくぞくと体を震わせた。それだけで、褒められた気になって、Sub性が反応したのだ。更に性器が硬さを増したことに気が付いて、スペインは嬉しそうに笑って唇を舐めた。
「……ええ子やな、ロマーノ」
「……あ、あっ……」
褒められるたび、ロマーノは体を震わせた。スペインがわざと言っているのもわかっているのに、それに抗う術をロマーノは持たない。もっと褒められたいと思ってしまう。
体を震わせるロマーノを見ながら、スペインはパンツの上から握っていた性器を扱いた。普通に触られるだけでも気持ちいいが、布越しに擦られると、更に刺激が増してロマーノは高い嬌声を上げた。
「やぁ……! あ、あ、あ」
「気持ちええ?」
「う、ん……いい、いいっ」
その言葉通り、ロマーノの下着が濡れてくる。性器の先から黒いしみが広がっていき、先走りが溢れているのがすぐにわかった。スペインは扱くのを止め、パンツのゴムに指をかける。
「あかんわ……汚してもうた」
ゴムを引いてパンツを軽く脱がすと、パンツと性器の先から糸が引く。ロマーノはそれを見て、慌てて目を逸らした。
「別に、いい……すぐ捨てるから」
「え、そうなん?」
完全にパンツを脱がせようとゴムを引っ張っていくと、ロマーノが手伝うように腰を浮かせ、足を曲げた。するすると脱がし終えたパンツを持って、スペインは首を傾げる。
「年越したら、すぐ捨てるっていうのまでが、一応習慣なんだよ」
「なんや、もったいないなあ……」
どう見てもまだまだ履けそうに見えるパンツを、もう捨ててしまうと言う。スペインはどちらかというと、ずっと同じものを使い続けるタイプなので、どうしても勿体ないと思ってしまう。風習ばかりは仕方がないことだが。
そんなことを考えながら、濡れたパンツをスペインがじいっと眺めていると、顔を赤くしたロマーノが「いい加減にしろっ」と、スペインのわき腹を蹴った。痛みに呻きながら、しぶしぶスペインはパンツを床に落とす。ついでに脱がし終えてなかったルームシューズも床に落とし、不機嫌そうな顔をしているロマーノに、スペインは宥めるようなキスを送った。
しばらくロマーノの顔にキスをしていて、急にスペインはハッと目を開いて、ロマーノから顔を離した。
「ええこと思いついた!」
「……何」
明らかに面倒くさそうな顔をして、ロマーノは仕方なさそうに声をかける。待ってましたと言わんばかりに、スペインはうきうきした様子で頷いた。
「来年から俺が赤いパンツ送ってもええ?」
嬉しそうなスペインの提案に、ロマーノはきょとんと目を見開いた。
「なんで?」
「ちゃんとイタちゃんの分も俺が用意するから」
質問の答えになっていない。ましてやセックスの最中に、他の男の名前を出すなんて、ベッドのマナーがなっていない。ロマーノは途端に不機嫌そうに眉を寄せ、顔を歪める。しかしロマーノは、そんなスペインを怒る権利を持ち合わせていない。なんたってスペインとロマーノは、恋人ではないからだ。
面白くはないが仕方ないことだと、怒りを鎮めるためにロマーノは長く息を吐いた。依然眉間の皺は深いが、怒鳴るほどの怒りの沸点は遠ざかった。
「だから、なんでだよ」
先程聞き流されてしまった質問をくどく繰り返すと、スペインは珍しく眉間に皺を作って難しい表情を取った。苦いものを口にしたようなその様子に、素直にロマーノは驚いていた。無神経なことでもすぐ口にするスペインにしては、言い辛そうにしているのも珍しい。
「……他のヤツから送られたパンツ履いとるロマーノとエッチするの、嫌やなあって」
少し待って、やっとスペインが口にした言葉に、ロマーノはうっかり言葉を失ってしまった。それほど驚いていた。
スペインに初めてSubだとバレた時、ロマーノはレオナルドとセックスしようとしていた。あの時スペインが怒ったのは、簡単に見ず知らずの男と寝ようとしていることを、親心で怒っていた。ロマーノはそう捉えていたし、その説明でもおかしくはないと思っている。
しかし今、スペインが言った言葉はまるで、別の男に嫉妬しているように聞こえる。下着を贈るなんて、その下着を脱がせたいと言っているようなもので、他人から送られた下着を恋人がつけていたら、確かに嫌だろう。しかし二人はパートナーであり、恋人ではなかったはずだ。
不機嫌そうにしながらも、真っ直ぐにロマーノを見つめる真剣な緑の瞳に、ぐらぐらと心が揺れる。期待などしないと固めていた虚栄心が、簡単にはがれていくのを感じた。
「……他のヤツって、ヴェネチアーノだろ」
「それでも嫌や」
すぐ様切り返してきたスペインの言葉に、ロマーノはぐっと下唇を噛んだ。ぴりっとした痛みを感じ、今が夢でないことを悟る。それを確認しても、ロマーノはしばらく唇を噛んで黙っていた。そうしなければ、口元がゆるんでニヤけてしまいそうだった。
「……好きにしろよ」
スペインから目を逸らして、ぶっきらぼうにロマーノは答えた。けれど不機嫌そうな顔も、体も真っ赤にして、隠すのは口元だけでは足りなかったのだが、それにロマーノは気付いていない。トマトのようなロマーノに、スペインは目を細めてくすくすと笑った。ロマーノはいつだって、最後はスペインに全てを預けてくる。
「たまらんなあ……」
ため息をつくように吐き出して、スペインはロマーノに口付けた。絡む舌の動きに、中断された行為の続きを感じて、ロマーノは目を閉じてスペインの首に腕を回す。強請るように、受け入れるように。
熱くなっていく体に反して、何故かロマーノの頭の中は冷静だった。
「はっ、あ……す、ぺいん……」
体を這う熱い手を感じながら、思う。スペインは容易く、未来の話をする。疑うこともなく、素直に、純粋にその未来があることを、信じている。
来年の今、今日と同じように一緒に葡萄を食べ、カヴァを飲んで、貰った赤いパンツを穿いて、広いソファで体を重ねている未来なんて、ロマーノには全く想像出来なかった。ロマーノはずっと、このつぎはぎだらけのようなパートナーの関係が、いつ終わってしまうのだろうと怯えている。朝目が覚めたら、全て夢だったんじゃないかと、いつも思う。
いっそ、早く終わってくれたらこんな苦しみも終わるのに。そう思いほどに、ロマーノにとってスペインとのパートナーの関係は愛しくて、大切で、辛いものだった。
それでも、自らは手放せない。それほどスペインはロマーノの体を開いて、奥まで入り込んでいる。痛いほどに。