ミッシング・ユニバース 10

服を脱いでベッドに四つん這いになれとスペインに命令され、ロマーノはただその言葉に従った。恥ずかしくて、スペインをぶん殴りたいという気持ちは大いにあったが、それに反してロマーノの体は熱を持つ。二週間ぶりの命令で、ロマーノの体は簡単に欲を覚える。
襟が血で汚れたシャツを脱ぎ捨て、ロマーノは命令通りベッドで四つん這いになった。わざわざおしおきという言葉を使ったのだから、何かしらロマーノが嫌がることをされるのだろう。内心びくびくしながら待っていると、予想に反して、スペインは優しくロマーノの背を撫でた。
「ちゃんと言うこと聞けてえらいなあ」
空いた手でロマーノの頭を撫で、スペインは優しく笑った。その表情は普段ベッドで見せているものと変わらず、ロマーノはほっと息をついて肩から力を抜いた。首を噛んだだけで、おしおきは終わっていたのかもしれない。そう思ってロマーノが安心していると、スペインは血が滲んだ首の傷を辿るように舌で舐めた。
「いっ……」
噛まれたときほどではないが、それでも傷に触れられると痛い。ロマーノは顔を顰めたが、構わずスペインは傷口を舐める。まるで怪我をした時の犬のように、一心に傷口を舐められて、ロマーノは熱のこもった息を吐く。痛みから生まれるはずの熱さではない。
「……ふっ、ぅ……ん……」
唇を噛んで、声が漏れるのを抑えた。これでは痛みで興奮しているように見えてしまう。ただでさえ敏感な首元を舐められているせいでこうなっているんだと、誰に聞こえる訳でもないのに、ロマーノは心の中で必死に弁解した。
しばらくして、スペインは傷から口を離した。唇に残る血を舌で舐めとり、赤い顔をしてスペインを見上げるロマーノを見て、満足そうに笑う。
「でもなあ……やっぱり嫌やわ」
「……え?」
突然話し始めたスペインに、ロマーノは怪訝な表情を浮かべた。何がでもなのかわからない。
「何がだよ」
「お前がDomに触られとったのが」
顔を歪めて言うスペインの声に、嫌悪感が混じっていることに気付き、ロマーノはまたしても緊張が体を駆け抜けた。おしおきなどないのだと一度安心したが、まだ始まってもなかった。なにせ、ロマーノはまだ四つん這いの命令を解いてもらっていない。
固まるロマーノに、スペインは顔を近付けた。緑の目しか見えないほどの近さで、鼻先が触れる。ロマーノは顔を背けることが出来なかった。
「なあ……もう俺以外の誰かを、パートナーにしようとかせんといて」
ロマーノだけを真っ直ぐに見つめる緑の目に、懇願が浮かんでいるのが見えた。ロマーノはそれを見て、戸惑ってしまう。ロマーノには、スペインがそこまでしてロマーノのパートナーでいたい理由がわからなかった。
更に困惑を深めたロマーノは、ただ固まっているだけで、スペインの言葉に応えられない。なんと言えばいいのかもわからない。そうしているうちにスペインの顔は離れていく。ロマーノは視線だけでそれを追いかけた。
「スペイ……」
呼びかけて、ロマーノの声は途中で止まった。視線の先にあるスペインが、辛そうに顔を歪めているのを見て、ロマーノは言葉を失った。何か言わなければいけない、そう思うのに特に何も思い浮かばなくて、結局ロマーノは固まったままだった。
まるで言葉を待つように、じっとロマーノを見ていたスペインは、ふいに目を閉じた。そしてそのまま、勢いをつけてロマーノの尻をぶった。
「いっ……!」
ぱあんと、肌をぶつ音がしたのと同時に、ロマーノの体に痛みが走った。目を見開いて振り返ると、スペインは叩いた状態で固まっている。
「な、なに……? スペイン?」
「……おしおきやって、言うたやろ」
顔を歪めたまま、スペインはまた手を振り上げて、ロマーノの尻を叩いた。
「ひっ……! や、やめろ、スペイン!」
また振り上げた手を、スペインは止めた。来ると思った衝撃が来ず、ロマーノは恐る恐る、後ろへ振り返る。スペインは変わらず苦しそうに顔を歪めて、震えるロマーノの背中を見つめていた。
「やめてほしいんやったら、言うて」
「な、何を……」
「俺以外をパートナーにせえへんって、言うてや」
ロマーノは驚いて、目を見開いた。わかったと言うだけで、この痛みから解放される。きっとスペインだって、叩きたくて叩いている訳じゃないのだろう。そうでなければ、こんな苦しそうな顔はしない。頷くだけで互いに辛くなくなるなら、そうしてしまおうか……。
首を縦に振りかけたロマーノの脳裏に、ルシアが浮かんだ。ここで頷いてしまったら、一体何のためにスペインから離れようとしたのか。自身の醜い欲と、腐りきった恋心と、捨てようもない甘えで、スペインを縛り付けるのを終えようと、ロマーノは確かに思ったのだ。それは決してルシアの為ではない。卑怯な自身に嫌気が差しただけのこと。
けれど今、ロマーノはもうスペインしかいないと思い始めている。スペインから離れて、早く新しいパートナーを作ろうと思ったのに、スペイン以外に対して嫌悪感を抱くようになっていた。
心が決まらないロマーノは、手放すことも、受け入れることも出来ない。そんなロマーノの態度に、スペインは更に顔を歪めて、またロマーノの尻を叩いた。
「いっ、た……」
「言わなやめへんで」
無慈悲なスペインの言葉に、ロマーノの目に涙が滲んだ。ヘタレなロマーノだから、痛いぐらいならすぐ頷くと思ったのかもしれない。しかしロマーノは頑なで、涙を散らしながら首を横に振った。体を支える手が、震えている。スペインはそんなロマーノを見て、また尻を叩く。
「やあ……! やめろよ……!」
「なんで? 俺がパートナーなんはそんなに嫌なん?」
「うっ、うぅ……」
叩かれるたび、ロマーノは歯を食いしばって耐えた。腹が立ったし、悔しかったし、悲しかったが、振り返った時に見えるスペインの表情があまりにも苦しそうで、ロマーノはただ耐えるしかなかった。
「なんで俺じゃあかんの!」
叩かれる痛みが麻痺し始めたロマーノは、手から力を抜いて顔を枕に預けた。尻だけ上げた状態で、溢れてくる涙を枕に染み込ませる。嗚咽が漏れないように必死で我慢しながら、ロマーノは震える唇を開いた。
「わ……っか、んねえよ……」
小さな声だったが、スペインは聞き逃さなかった。ずっとその声を待っていた。手を止めて、ロマーノの声に耳を傾ける。声はかわいそうなほど震えていた。
「お前の、考えてること……全然、わかんねえ……」
「……何がわからんの」
ちゃんと顔を見て話がしたくて、スペインはロマーノの腰を引いて体を起き上がらせようとしたが、ロマーノは首を横に振って嫌がった。仕方なく、スペインはロマーノの震える背に手を置いて、宥める様に撫でた。
「お前が、俺のパートナーでいたがる理由が……」
おしおきと言って尻を叩かれているのは、ロマーノがスペイン以外の誰かを選ぼうとしているからだ。それはわかった。けれどなぜそこで怒るのかが、わからないのだ。
「なんでやと思う?」
「わかんねえっつってんだろ……!」
「見当もつかんの?」
呆れたようなスペインの言い方に、ロマーノは更に涙を溢れさせた。けれど背中を撫でるスペインの手つきは優しく、さっきまで叩いていたのと同じ手なのに、覚えのあるあたたかさに安心を覚える。
「だって、お前からしたら、俺のパートナーでいて、良いことなんて何もないだろっ。なのに……!」
「良いこと……」
少し驚いた様子で、スペインはロマーノの言葉を繰り返した。そんなことをロマーノが考えていたとは、全く想像もしていなかった。
「逆にロマーノのパートナーでおって、良くないことってある?」
スペインからすれば、それが単純に不明だった。スペインはロマーノと一緒にいると楽しいし、幸せだと思える。生意気で腹が立つことも言うが、一周回って何をやっていてもかわいいとすら思えるのだ。それは長い付き合いだからこそで、ロマーノ以外の者がやれば許せないことも多々あるので、結局スペインの特別はロマーノだった。
そんなロマーノと一緒にいて、スペインにとって都合の良くないことなどあるのだろうか。たまに勝手に財布を盗まれて金を使われていることもあるが、そんなこと程度でロマーノの存在を疎ましく思うはずもなかった。
「いっぱいあるだろ! お前、俺といると、ベッラの恋人も……作れ、ねえんだ、ぞっ」
「別にいらんわそんなん」
「お前がベッラのこと、好きになっても、俺のせいで……」
「好きにならんから気にせんでええよ」
「わかんねーだろ!」
「わかる。やって俺、恋人にしたい子、もうおるもん」
サラッと告げられた事実に、ロマーノは耳を疑って、あれほど頑なに上げなかった顔を上げてスペインへ振り返った。枕に押し付けていたロマーノの顔は涙で濡れ、鼻水まで出ていて、想像通りの有様にスペインは苦笑しながら、サイドチェストにあるティッシュをケースごと手繰り寄せた。数枚ティッシュを引き抜き、それでロマーノの顔を拭いていく。
「えらい泣いたなあ。男前が台無しやん」
泣かせたのはスペインなのだが、そんなことを棚に上げて、呆然としているロマーノの顔を綺麗にしていく。水分を綺麗にふき取れて満足し、スペインは丸まったティッシュをゴミ箱に放り投げた。その様子を眺めながら、ロマーノやっと綺麗になった頬にまた涙を零した。
「だめ、じゃねえか……」
「え? って、ああ……また泣いて」
またティッシュを抜き取って、零れるロマーノの涙を吸わせながら、スペインは「なんて?」とロマーノに聞き返した。呆然としていたロマーノは、くしゃりと顔を歪めて、更に涙を溢れさせる。
「なら、なおさら、俺のパートナーじゃ、だめじゃねえかぁ……!」
叶う訳ないとわかっていても、ロマーノは自身が失恋したことを思い知り、声を上げて泣き喚きたくなった。想いが届かないことと、相手に想い人が出来て諦めることは、意味が違う。ロマーノは今まで、スペインに恋人が出来ないことに、どこか安心していた。その間は好きでいられる、諦めないでいられると。
けれどついに、諦めなければいけない日がきた。顔を手で覆って泣くロマーノを、スペインは複雑な表情で見つめている。
「あかんくないねん」
「なんでだよぉ……! もう訳わかんねえ……!」
意味の分からないことばかり言うスペインに、ロマーノはただ泣き言を垂れるしかない。スペインはそんなロマーノに苦笑しつつ、手を伸ばして泣き続けるロマーノの頭を撫でた。
「恋人にしたいのは、お前やもん」
「なん…………」
またしてもサラッととんでもないことを言ったスペインに、ロマーノは目を見開いて顔を上げた。スペインという男は、驚くようなことを、何でもないことのようにあっさりと口にする。そのたびいつもロマーノは振り回されてばかりだ。
「なん、だって……?」
「せやから、ロマーノの恋人になりたいねん。わからんかった?」
「わからんかった……」
混乱しているロマーノは、さっきまでの怒りや苦しさをどこへやったのだと思うほど、普段の表情に戻ったスペインに、ただ茫然と頷いた。何が起こっているのか、うまく呑み込めていない。
「ほんまに? じゃあなんで俺がお前のケツ叩いてると思ってたん?」
「怒ってるのかと……」
「いや、確かに怒ってたけどな……その理由わからんと大人しくしとったん? それはあかんわ〜もっとちゃんと怒らな」
「そ……いやお前がやったんだろうが!」
勝手なことばかり言うスペインに腹が立ち、ロマーノはスペインの肩を殴った。大して痛そうにしていないスペインは、へらへらと笑っている。驚きで涙が引っ込んだロマーノは、ひとまずごちゃごちゃになった頭の中を整理すべく、疑問に思ったことを口にした。
「お前、恋人にしたいって……それ、それは……俺のこと、好きって、意味か?」
「うん。せやで」
あっさりと頷くスペインにムカつくのに、ロマーノの心臓は途端にドキドキと動きを速めた。これは両想いということなのだが、スペインがいつも通り過ぎて、ロマーノは全く実感を持てていない。それでも逸る心臓を抑えるべく、ロマーノは一度、深く息を吐いた。
「それは……恋愛って意味なのか?」
「え? もちろん。他にある?」
いちいち神経を逆なでする答え方をするスペインを一度睨みつけ、ロマーノはパートナーになってからの今までを思い返していた。確かにここ最近は、まるで恋人に接するような態度をスペインが取っている気がすると思っていたが、それも間違いではなかったのだろう。きっとスペインは、意図してロマーノへそういう態度をとっていたのだ。
「いつから……?」
ぽつりと呟いたロマーノの言葉を、スペインはうまく聞き取れなかった。なんて、とスペインが聞き返す前に、ロマーノは顔を上げて、泣きすぎて充血した目でスペインを真っ直ぐに見つめる。
「お前、パートナーになった時は、俺のこと好きでもなんでもなかっただろ」
「ええっ、好きやったよ」
「そういう意味じゃなかった!」
言い切ったロマーノに、スペインは意表を突かれたように目を丸めた。ロマーノには自信があった。パートナーになったあの夜まで、スペインはロマーノのことを、親愛以上の感情で見ていなかった。向けられる愛情が嬉しいはずなのに、求めているものとは違って、それに悔しくて泣いたことは何度もある。だからこそ言い切れるのだ。
スペインはしばらく固まっていたが、観念したように息をついて、目を閉じた。
「せやね。お前の言う通りや」
目を開いたスペインは、優しく笑った。ベッドのシーツを引き寄せ、素っ裸のままだったロマーノの体をそれで覆う。驚きばかりで裸でいることも忘れていたロマーノは、シーツ越しに肩を摩られて、体が冷えていたことに気が付いた。
「あの時は、お前のこと意識してへんかったわ」
スペインは少しでもロマーノの体に自身の熱を移すように、優しくロマーノの体を撫でた。ロマーノは嫌がることもなく、されるがままになりながら、スペインの言葉に耳を傾けている。
「俺、ただでさえ鈍いって周りによお言われるけど、たぶんお前のこと、そういう風に見ようと思ったことないねん。大事な子分やからって、考えやんようにしてた」
語られるスペインの言葉は、ロマーノの予想を大きく裏切ることはない。だから落胆することはないけれど、それでも今まで何一つ相手に伝わっていなかったのだと言う事実は、心を虚しくさせた。
「でもなあ、仮に他の子分が同じような状態になったら、ロマーノの時みたいにパートナーなるって言うやろかって考えてんけど……まあ普通に考えて、言わへんわな」
驚いたように目を開くロマーノに、スペインは苦笑した。何も驚くことではないのだ。誰だって、性行為は特別なものだ。これからも関係を続けていかなければならない相手に対して、性行為を含むパートナーに軽々しくなろうだなんて、思えない。
「子分以外の相手でも……身近な相手やったらフランスとか、それこそイタちゃんとかな。考えたけど、どう考えてもそんなん言わへんわ。他にその子を大事にしてくれる人おらんのかなって、探す手伝いならいくらでもするけど」
もしあの時、スペインにもっと他にいいパートナーがいるはずだと、積極的に違う相手を探されていたら、ロマーノはどうしただろうか。今考えてもゾッとするような話だが、そこまでくるといい加減絶望して、スペインへの恋心を諦めていたかもしれない。
「なら、なんで……」
おそらくあの夜の時点では、スペインはまだロマーノのことを好きだと思っていなかった。なのにどうしてパートナーになろうと思ったのか。その疑問を受け、スペインは少し言い辛そうに眉を下げながらも、口を開いた。
「俺なあ……あの時お前が、他の誰かのパートナーになるって考えたら、許されへんかった」
ロマーノの隣は、スペインのものだった。それは自他共に認める事実で、ロマーノ本人だって否定しない。そこはスペインだけが許された、特別な場所だった。
「嫌やってん。他の誰にも、お前を……触らせたくなかってん」
ロマーノは、スペインにとっての特別だった。
そばにいてほしいと思わせる人は、たくさんいた。かつての子分たちもそうであれば、同じ時間を生きられない人間に対しても、そう思うことは幾度としてあった。
ロマーノは、初めてスペインに離したくないと思わせた存在だった。スペイン自身、ロマーノの何がそうさせているのか、わかっていない。見目だけなら、秀でている者は他にもいる。ロマーノより素直で器用でかわいげのある存在など、それこそたくさんいただろう。
それでもスペインの特別になったのは、ロマーノだけだった。何が他と違ったのかと言われたら、手がかかるからこそかわいいかったのだとか、助けを呼ばれることがたまらなく嬉しかっただとか、理由はいくらでもあった。そんな理由がたくさん生まれるほど、長くそばにいたというだけなのだ。ただそれだけが、他の誰にも出来なかった、スペインの特別なのだ。
「お前はずっと、俺の特別やったよ」
「スペイン……」
「自覚なかったけど、俺はきっとお前のこと、ずっと好きやったんやろなあ」
優しく笑うスペインに、赤くなったロマーノの目に、また涙が浮かんだ。いい加減泣きすぎて痛みを生んでいるが、それでもロマーノは今の夢のような瞬間に、涙を抑えることなど出来なかった。
「遅いんだよっ」
震える声でロマーノが言うと、涙がぼろぼろと零れ落ちる。それを手で拭っても追い付かず、大きな滴となってシーツを濡らしていく。
「俺はもうずっと、何年も前から、お前のこと……」
その先を言葉にすることに躊躇って、ロマーノは唇を噛んだ。今までずっと胸の内に秘めていた、一生誰にも告げることがないと思っていた想い。それを口にするのを迷うのは、あまりに馴染みのないそれを表に出すのが、まだ恐ろしいからだ。
「ほんまに?」
そんなロマーノの気持ちを察したのか、スペインは言葉にせずともロマーノの気持ちに気が付いた。目を丸くして、涙に濡れたロマーノの顔を覗き込むスペインは、本当に驚いた様子で、ロマーノの気持ちに今まで全く気付いていなかったのだと悟らせた。
「俺、ロマーノに好きになってもらおうって……ほんまの恋人になろうって、がんばってたとこやってん」
少し照れた様子で頬を掻くスペインの今までを振り返ると、確かに恋人にするようなことを、ロマーノにしていた。ロマーノは期待しないようにしていたので、当然それらはスペインの距離感がおかしくなったのだと思っていたが、違ったらしい。全ては、本気でロマーノの恋人になるためのことだった。
「俺たち、とっくに両想いやったんやなあ」
嬉しそうに目を細めるスペインを見て、ロマーノは「うぅ……」と声を出して泣いた。子供のようなその泣き方が恥ずかしくてたまらないのに、もうどうしようもなかった。少しでも見られるのを避けようとロマーノが顔を伏せると、スペインがロマーノの頭を撫でる。スペインは泣くロマーノを見て、その目に懐かしさを浮かべながら、撫でていた手を動かして、ロマーノの濡れた頬を撫でた。
「ロマーノ。顔見せたって。泣かんとって」
優しい呼びかけに、嗚咽を漏らしながらゆっくりとロマーノは顔を上げた。涙で濡れたひどい顔を、スペインは愛おし気に見つめて、眦に唇を寄せた。ロマーノの涙で濡れた唇で、今度は頬、口の横と移動する。どこに触れても涙の味しかしなくて、スペインは思わず笑ってしまった。
「好きやで、ロマーノ」
真っ直ぐにロマーノを見つめて、スペインは笑った。ロマーノは震える手を、ずっと欲しかったものへと伸ばした。肩にかかっていたシーツが滑り落ち、ロマーノはまた裸になったが、そんなことも気にせず、あたたかい体に腕を回す。すぐにロマーノより少し太い腕が、その体を包んだ。
「俺もっ、お前の、こと……」
「うん」
「ずっと、好きだったんだぞ、ばかぁ……!」
やっと口にした言葉に、ロマーノの体は震えた。喜びでもあったし、恐れでもあった。口にしてしまった以上、もうその想いをなかったことには出来ないし、逃げることも出来ない。ロマーノはスペインの肩に顔を預けて、泣いた。スペインはそんなロマーノを抱きしめて、涙が収まるで頭を撫で続けた。
しばらくしてロマーノ涙が落ち着いたのを見計らって、スペインはそっと抱きしめていたロマーノの体を離した。目も頬も赤くなっているロマーノに苦笑しつつ、スペインはロマーノの手を優しく握った。
「俺はDomやないけど、ロマーノのそばにおりたい。またパートナーになったって」
触れる指先があたたかくて、ロマーノはほっと息をついた。おしおきされたり、告白されたりと色々なことが一瞬の間に起きて、ロマーノは息をつく暇もなかった。
ロマーノはただ、この手だけに触れられていたかった。たとえ本物のDomが目の前に現れたとしても、もうロマーノはスペインの手以外を取ることは出来ないだろう。
「俺には、お前だけだ」
握られたスペインの手を引いて、ロマーノはスペインにキスをした。ロマーノからしたのは、これが初めてだった。
「……責任とれよ、こんちくしょー」
顔を離したロマーノの目に映ったのは、目に涙を溜めているスペインだった。ロマーノは一瞬面食らったが、すぐに破顔する。揺れるエメラルドの瞳から、涙が零れるのを見るよりも先に、ロマーノはスペインに引き寄せられて、深く唇を重ねた。ロマーノは目を閉じて、スペインの涙を追うのを止め、与えられる熱に身を委ねることにした。



「ひっ、あ」
甲高い声を上げてしまい、ロマーノは思わず口を片手で覆った。喘ぎ声を気にするなど今更の話なのだが、行為に没頭してそれ以外考えられなくなるまでは、やはり羞恥が生まれる。
「痛い?」
声を出させた原因のスペインは、赤くなっているロマーノの尻から手を離して、様子を窺った。ロマーノはまたベッドに手をついて、顔だけ後ろに振り返って、スペインを睨む。ロマーノはまたしても、ベッドで四つん這いになっていた。
「痛くない訳ねーだろこのやろーが!」
「せやんなあ。ごめんやで」
スペインが散々叩いたロマーノの尻は赤くなっており、痛々しく腫れている。謝りながら優しく尻の表面を撫でるスペインの手の動きですら、ロマーノはびくりと反応して、ひりひりとした痛みに耐えた。泣き喚くほどではないが、痛みはまだ引かない。ロマーノは小さく舌打ちをした。
互いの誤解が無事に解け、両想いになった二人は、その勢いのままベッドになだれ込んだ。最初はいつも通り、仰向けになったロマーノにスペインが覆いかぶさる形で進めていたが、シーツに尻が擦れるたびに痛みが生まれ、仕方なく二人はバックの姿勢を取った。スペインはロマーノの顔が見えないからあまりこの体勢は好きではなかったが、尻を痛める原因が自身の為、素直に従うしかなかった。
「も、いいから……」
余裕のないロマーノの声を聞き、スペインは笑って頷いた。ローションを手に垂らし、後孔の周りを濡らしていく。そのたびロマーノは息を詰め、期待に体を震わせた。はやく、と声が出そうになった瞬間、スペインの指がゆっくりと中へ入ってきた。
「あ、ぁぁ……」
スペインに慣らされた体は、指一本程度なら、もう抵抗もない。中を探る指の動きに、ロマーノは体を支える手で、シーツをきゅっと皺が出来るほど強く握りしめた。
「もう一本いくでー」
「う……はあ、んっ」
二本の指が、中を広げる様に開かれたり、抜き差しされるたびに、ロマーノの声が漏れる。ロマーノが気持ちよくなる場所を的確に避けて、じわじわと近付いてくるのが、たまらなかった。
「あ、あー……や、あっ!」
ロマーノがよく感じるところに、スペインの指が触れた。一層声が大きくなり、震えるロマーノの背中を見ながら、スペインは笑う。初めてロマーノの中に触れた時、強姦されているかのように怯えて震えていたのとは違う、確実に快感によって引き出されたそれに、スペインは満足感を得ていた。間違いなくロマーノの体を変えたのはスペインであるし、今のロマーノなら、スペインに何をされてもよがり狂うのはわかっている。
スペインは中で指を動かしつつ、赤く腫れた尻にキスをした。
「ひゃ! な、なに……!?」
困惑した声を上げながら、ロマーノは後ろに振り返った。スペインはそれを上目で確認しつつ、柔らかい尻をいたわる様に舐めた。途端にロマーノの体に、鳥肌が立つ。
「あ、あ、あ……やめ、スペインっ……やあ!」
指は的確に中の硬いしこりを撫でつつ、スペインは舐めた部分に柔く歯を立てる。首を傷つけた時ほどの強さはないけれど、腫れている部分に歯を立てられたのだから、当然ロマーノには強い刺激が走った。しかしそれが痛みなのか、快感なのかはもうわからない。
勝手にロマーノの目からは涙が溢れ、逃げる様にベッドヘッドへと手を伸ばす。けれどそれを許さないスペインが、ロマーノの腰を引き寄せて、更に強く中を嬲った。
「やああ! も、スペイ、あっ、う、うぅ……!」
腰を引き寄せているスペインの腕に、硬く勃ち上がったロマーノの性器が触れ、スペインはロマーノの尻を舐めるを止め、そこを覗き込んだ。性器の先から透明の液が出ていることに気付き、スペインは腰を支えていた手で性器を握り込む。
「わ、ああっ……!」
軽く握っただけでも、予想外のことにロマーノは頭を反らし、声を上げた。がくがくと体が大きく震える。そんな痴態を見て、スペインは自身の性器が痛いぐらい反応しているのに気付いていたが、構わずロマーノの性器を扱いた。
「ま、あ、まって、まっ、て……!」
片手で性器を扱き、片手で後ろをかわいがられ、ロマーノはもう息を詰まらせながら喘ぐしかなかった。腰を支える腕がなくなったことにより、ロマーノは震える腕と足でなんとか四つん這いの姿勢を保っていたが、そろそろ限界だった。
「あう、あっ、ああ、あ、やぁ」
「ロマーノ、腰上げてや」
「あああっ……!」
たしなめる様に、スペインの指がぐりっと前立腺を強く押すと、ロマーノはシーツを強く掴みながら腰を震わせた。それを見てスペインが両方の手の動きを止めると、びくびくと体を震わせつつ、ロマーノは言われた通りに下がった腰をゆっくりと上げ、赤い尻をスペインに突き出した。
普段なら無茶なことを言うなだとか、お前が支えればいいだろと文句も言えたが、今やロマーノは何も考えられない。何かに頭を支配されているみたいに、体はスペインの言葉に応じようとする。
「うん……ええ子やね」
優しい声でそう言いつつ、スペインはロマーノの背中に口づけた。玉のように浮かぶ汗を舐めとりつつ、震える背にキスを落としていくと、ロマーノは熱のこもった息を吐く。ゆるゆるとスペインが性器を扱くと、物足りないというように、ロマーノの腰が前後に動き出した。
「はっ……あ……あ、ぁ……」
スペインは手を動かすのを止め、ロマーノが腰を動かすのを眺めた。顔も体も赤くして、快楽を追うように必死に腰を動かす姿に、スペインは内心たまならくなる。今すぐ指を引き抜いて、中に自身の性器を突き立てたい衝動を必死で抑えた。
「自分でイけそう?」
スペインの手に性器を擦りつけるロマーノにスペインが尋ねると、ロマーノは涙を散らして首を横に振った。
「むり、むりだ……! もう、はやくっ……!」
涙を滲ませた目をスペインに向け、懇願する言葉を口にするロマーノは、ついに腰の動きを止めてしまった。中はスペインの指を離さないように締め付け、それがまるで誘っているようだ。早く中に欲しいなのか、早くイかせてほしいなのか、スペインには判断しかねる。けれど求められ答えない訳にもいかず、スペインは誘われるがまま中の指を動かした。
「ああっ……! あ、あ、んっ、あ」
中をいじる指も、性器を扱く手も激しく動かすと、ロマーノは待ちわびていたように震えた声を上げた。止まらない先走りが滑りを良くして、いやらしい水音が止まらなくなると、ついにロマーノは上体を支えきれなくなって、ベッドに突っ伏した。
「あ、あっ……も、イ、イク、もうっ……!」
だめ、むり、イクと繰り返して頭をシーツに擦りつけ、ロマーノは悶えている。それを見て、スペインは手の動きを止めた。指を中から引き抜き、性器を扱いていた手を離す。途端に奪われた快感に、ロマーノは裏切られたような表情でスペインへ振り返る。
「もう俺も我慢出来へんわぁ……」
スペインは汗が滲むシャツを脱ぎ捨て、ベルトのバックルを外すと、ズボンとパンツを纏めて脱いだ。途端に飛び出してきたスペインの性器は、パンパンに膨らんで硬くなっている。ロマーノはそれを見て、ごくりと音を立てて生唾を飲み込み、期待に足を震わせた。スペインはベッドに転がっていたローションのボトルを取り、ロマーノの痴態で育った性器に塗りたくる。
「挿れんで」
そう声をかけ、ひくひくと動くロマーノの後孔に、スペインは性器の先端を当てがった。ロマーノは答える余裕もなく、腰を両手で固定するスペインの指の力強さに、熱い息を漏らす。
「……っう、ロマーノっ」
少しずつ中へ入って来るスペインの性器を、ロマーノは無自覚ではあったが、強く締め付けた。スペインは歯を食いしばって、中の締め付けに耐える。阻まれているように締め付けてくるのに、それは間違いなくスペインを歓迎して、迎え入れていた。
「……あ、ああ、あ」
ロマーノは言葉を失くしたように喘ぐ。スペインは中の締め付けに耐えきれなくなったように、顔を歪めて思い切り中へ進めた。
「あうっ……!」
ぐっと腰を深くつき込むと、ちょうどロマーノの良いところにスペインの先端が当たった。ごりっと抉られたその衝撃で、ロマーノは頭の中が真っ白になり、声を上げることも出来ずに息を詰まらせた。
「……ひっ、―――……っ」
搾り取る様に中が締め付け、ロマーノの腰ががくがくと震える。まるで達しているようなその姿に、スペインはロマーノの性器へ手を伸ばした。その指に、精液がかかった。ロマーノの性器はとろとろと勢いのない射精を繰り返していて、ロマーノが確実に達していることを表していた。
「触らんとイッたん、初めてやなあ……」
手にかかった精液を指で伸ばしながら、まだ射精の余韻にがくがくと震えているロマーノを見て、スペインは笑った。どんどんロマーノの体が作り変えられている。いっそスペインがいなければ、射精出来ないような体になりそうなその姿に、スペインは確かに充足感を味わっていた。ロマーノが心も体も、スペインなしでは生きていけないというのは、恐ろしくもあったが、間違いなく愛おしさが強かった。
スペインは上体を倒して、ロマーノの背中に覆いかぶさった。シーツを握る震える手に自身の手を重ね、ぴったりと体を重ね合わせて、腰を動かしていく。
「ひゃ! ……ま、まって、あっ、ん! イ、イッて……!」
「……うん?」
たまらないといったように声を上げたロマーノに、スペインは惚けたように答え、赤い耳に舌を這わせた。それだけで、ロマーノは震えて喘ぐ。
「イッて、る、から……あっ、あぁぁ……!」
スペインが構わず腰を動かすと、ロマーノは涙を零して、シーツに頭を擦り付けた。性器はスペインが突き上げるたびに精液を零して、シーツは既にびちょびちょになっている。
「せや、なあ……えらいでっ、ロマーノ」
「やあぁ……!」
突き上げつつ褒めると、中が更にスペインを締め付けた。スペインはぺろっと唇を舐め、腰の動きを速める。叩きつけられるその強さにロマーノは体を支えきれなくなり、完全にベッドへ突っ伏した。スペインが動くたびに、ロマーノの性器がシーツを擦れ、気持ちよさが増幅する。ロマーノはもう何も考えられなかった。
「あぅ、あ、いいっ、きもち……あ、ああーっ!」
スペインが、ロマーノの奥まで突き入れた。ロマーノの尻にスペインの体が触れ、全てが中に収められたのだと理解する。その事実に、ロマーノは大きく目を見開いて、体を震わせた。
ロマーノは、奥までこられるのに、慣れていなかった。セックスはすっかり慣れたが、奥まで突かれることは、これで二回目だ。初めて奥まで開かれた時、ロマーノが怖がって泣いたので、それからスペインはロマーノの奥まで入れることはなかった。
「あ、あ……? あ、まて、まって……」
「痛い?」
ロマーノは首を横に振る。痛みはなかった。初めて奥まできたときも、そうだった。ただ恐ろしさだけがある。
「こわい……」
「痛いことないのに、何が怖いん?」
何がと問われても、ロマーノにも正確な答えはわからなかった。ただ漠然とした恐怖が、確かにある。そんな深くまで入り込まれたら、もう一生スペインの性器が抜けなくなるのではとすら思えた。
「こ、壊れるっ……」
「大丈夫や。俺がロマーノを壊す訳ないやろ」
「う、ううぅ……」
恐怖と、受け入れたい気持ちとが綯交ぜになって、ロマーノは嗚咽を零した。ぽろぽろと零れる涙を見て、スペインは苦笑を浮かべる。慰める様に頬へキスを贈るが、決して奥から抜いてやることはない。
ロマーノとスペインは、恋人同士になった。それ故に、スペインはもう遠慮するつもりはない。自身の全てを受け入れてほしいし、ロマーノが抱く恐怖心を全て取り除いて、怖いことなど何もないのだと知ってほしい。
キスをしながら、スペインはゆるゆると腰を動かして、奥を刺激した。ロマーノは擦られるだけで生まれる快感に戸惑って、更に涙を溢れさせる。まだ知らないはずのそこを、少し突かれるだけで声が抑えられない。それが怖いのに、スペインはそれが怖い事ではないのだと言う。
「も、いい……」
嗚咽を漏らしながら、ロマーノは重ねられているスペインの指を強く握った。
「もう、いいから、はやくしろよっ……」
怖くてたまらないのに、ゆっくりと動かれるのがたまらない。早く中をスペインの性器で強く突いてほしい。
「……愛しとるよ、ロマーノ」
「ひっ、あああ……!」
大きく腰を引いて、勢いよく中へ突き入れた。尻を叩かれていた時のような、肌を打つ音がして、ロマーノは痛みと気持ちよさに目を見開く。スペインが腰を動かすたび、腫れた尻に肌がぶつかり、忘れていた痛みを思い出させた。
「いっ、いた、あ、スペイ、やぁ」
痛みを訴えても、スペインは止まらなかった。擦られすぎて泡立つローションのお陰で、スペインは遠慮なくロマーノに腰を叩き込む。痛いと喚いたって、本気で痛がっていないことなどスペインはわかっていた。
「ああ、あっ、スペイン、や、スペイ……」
「ロマーノ……好きやで」
泣きながら名前を呼ぶロマーノに応えたくて、キスがしたいと強く思ったが、完全にベッドに体を押さえつけている状態では、ロマーノの口まで届きそうにない。スペインは代わりに耳元で名前を呼んで、淵にキスをしながら、何度もロマーノの奥を突いた。
「あああっ、あ、あっ、あ……!」
「ロマーノ、はっ……ほんまに、好きやっ」
「んっ! ああー……あ、ああ……」
耳元でスペインが愛を囁くたび、ロマーノは強くスペインの性器を締め付けた。今までセックスの最中、スペインに愛の言葉を告げられたことは一度もない。どれだけかわいがられても、それだけはなかった。
「スペ、んっ、かお……かお、が……」
尻が痛いだろうと頑なにバックの姿勢を取っていたが、スペインはロマーノの途切れ途切れの要求を、きちんと理解した。自身もそうしたいと思っていたから、それにすぐ気づけた。スペインはすぐ性器を引き抜くと、ベッドにぐったりと身を預けているロマーノの体をひっくり返し、仰向けにした。
やっと顔を合わせることが出来たロマーノは、涙も鼻水も流し、口からはよだれまで垂れてひどい状態だったが、スペインはそれでもひどく興奮した。ずっと見たかった。言葉もなく、スペインはロマーノに勢いよくキスをする。
「んっ……」
激しく息と舌を絡ませながら、ロマーノはスペインの髪に指を通した。キスもしているのに足りなくて、もっと近づきたくてたまらない。もっともっととせがむロマーノに反して、スペインは一度ロマーノから体を離した。
「スペイ……」
「ちょお、待って……」
余裕のないスペインの声がして、ロマーノは驚いていた。珍しく眉間に皺を寄せ、必死に何かに耐えている様子のスペインは、赤くなったロマーノの膝をぐっと開いて、性器を後孔に擦り付けた。そのまま、ロマーノの中へと戻っていく。待っていたように、ロマーノの中は抵抗なくスペインを受け入れ、締め付けた。
「あっ、ああ……ん、んんっ」
入れてすぐスペインは動き出し、そのままロマーノにまたキスをした。口を塞がれ、くぐもった声で喘ぐロマーノは息苦しくてたまらなかったが、離れようとはしなかった。スペインは投げ出されているロマーノの手も握り、ベッドに縫い付ける。触れていない部分があるのが許せないように体を擦り付け、ロマーノの性器も腹で扱いた。
「んっ、ん、ん、んー……!」
息苦しそうにしているロマーノに気付き、スペインはすぐ口を離した。けれど体を離すことはなく、鼻先が触れるほどの近さのまま、スペインは動きを止めない。
「ああ、あっ、スペイン、あ、スペイン……!」
目を閉じて快感に震えるロマーノを見ていると、スペインは自身の限界を悟った。ぐっと噛み締めつつ、ロマーノの奥を突く。
「も、あかんわっ……!」
切羽詰まった声を出し、スペインは強く腰を打つ。ロマーノを気遣ってやる余裕などもうどこにもなかった。ベッドが軋む音を立てるほど激しく動くと、ロマーノは悲鳴のような声を上げた。
「ひ、ああああッ! も、むり、やあ、ああっ!」
「うっ、あ……!」
強いロマーノの締め付けに、スペインはついに中の奥深くで、射精した。直接中を濡らす感覚に、スペインはたまらなくなって、全て出し切るまでまだ腰を揺らした。ロマーノもがくがくと体を震わせて、達しているようだった。
「んあ……あ……あぁ……」
ゆるゆると動くスペインの動きに合わせて、ロマーノの声が漏れる。スペインは全てを出し切って、荒い息を整えながらロマーノを見下ろした。ロマーノもスペインと同じように肩で息をしながら、ぼんやりとスペインを見上げている。しかしその目の焦点が合っていないように感じて、スペインは気怠い体を動かして、ロマーノの頬に触れた。
「ロマーノ、大丈夫か?」
「あ、ぅ……」
スペインが頬に触れただけで、ロマーノはぴくりと体を震わせた。スペインの声に応えず、未だぼんやりとしているロマーノを不審に思い、眉を潜めた。
「ロマー……あれ?」
上体を起こそうとして、スペインはふと、腹にあたるものに視線を奪われる。さっきまでスペインの腹で扱いていたロマーノの性器は、未だ硬さを保ったまま、震えていた。ロマーノの腹を見ても、透明な液体で濡れているのはわかるが、射精をした様子はなかった。
「もしかして、イッてないん?」
問いかけても、ロマーノは答えない。中の締め付けや、体の震えを思うにロマーノも達していたのだろうとスペインは安心していたが、性器を見るに射精はしていないようだった。スペインは戸惑いつつ、まだうねる中から性器を抜いた。
「んっ、ぁ」
それだけで鼻にかかった声を出すロマーノに、スペインはとあることを思い出した。ロマーノとパートナーになった時、ロマーノほどではなかったが、スペインも男同士の知識は乏しかった。なので色々と独自で調べていた時に、耳にした言葉がある。
「これ、ドライってやつちゃうん……!?」
滅多にそういう現象になることはないらしいが、稀に射精せず中だけの快感で達してしまうことがあるらしい。そうなると何をされても気持ちが良いのだと聞いた。いつかそんな風に、ロマーノのことを気持ちよく出来ればいいなと思っていたので、スペインは嬉しくなって、ぐったりとしているロマーノに抱きついた。
「すごいやんかロマーノ! 今日だけで触らずにイッたし、奥もいけたし、ドライも出来たんやなあ! やっぱりお前は自慢の子分やわ!」
「や、やめ……」
「あ、でも俺もちょっとすごない? ロマーノの為に勉強しててよかったわあ!」
「あんっ、やめ……!」
「あん?」
嬉しくなって、ロマーノに抱きつきながらスペインがその体をまさぐっていると、ロマーノはそれにも感じているのか、目を閉じて体を震わせていた。
「あああごめん!」
スペインは慌てて体を離し、まだセックスの余韻が抜けていない様子のロマーノを見て、どうしようと頭を悩ませた。どう考えてもロマーノの体力は限界なので、これ以上するわけにはいかない。けれど萎える様子のないロマーノ性器を、このまま放置しておくことこそかわいそうだった。
聞いた話によると、ドライで達してしまったら、ずっとイキっぱなしになって、とても辛いらしい。聞いてる分には気持ちよさそうでええやん、とスペインは思うが、何事も過ぎると良くないことはわかっている。それを証拠に、ロマーノはとても辛そうに眉を寄せて、目を閉じていた。
「ごめんな。あともうちょっとだけ、がんばってや」
聞こえているかもわからないロマーノにそう言って、スペインは張りつめているロマーノの性器に手を伸ばした。
「ひ、あぁ……」
先走りで濡れた性器を掴んで、スペインは遠慮なくそれを扱いた。辛いのなら、出来るだけ早く楽にしてやりたい。片手で竿を扱きつつ、もう片方の手は先走りに滲ませる先端を指先で刺激した。
「ああっ! や、いい、スペイ……スペインっ」
意識がはっきりとしていなくとも、体に触れているのがスペインなのだとわかっているらしい。それがついさっきまでセックスしていたからなのか、それとも体を許しているのがスペインしかいないからなのか、理由はわからない。それでもスペインは、後者であればいいと願う。
「そやで。お前のことが好きなスペインやで」
本当はキスでもしたかったが、両手で性器を扱いていると、顔がロマーノまで届かない。仕方なく扱くのに専念していると、ロマーノは喘ぎながら体をよじり、座っているスペインの足に顔をすり寄せてきた。
「スペイン……あっ、スペイン……」
「いや……かわええなあ……」
今すぐロマーノを抱きしめてかわいがりたかったが、スペインは扱く手を止めない。長引かせるのもかわいそうなので、フェラでもしようかと顔を近付けたところで、ロマーノがひときわ大きな声を上げて、体を震わせた。
「あっ! イ、イク、イクっ」
「ええよ」
「あ、ああ……あー……」
声が届いたのか、スペインの言葉の後に、ロマーノは体を震わせて性器の先から白い液体を溢れさせる。ゆるやかな射精なのか、ロマーノは何度も「あー……」と間延びした声を出しながら、スペインの足に縋り付いている。射精する量な少なく感じたが、出し切るまでスペインが扱いていると、手の中でロマーノの性器は徐々に硬さを失っていった。
「もう大丈夫か?」
スペインがそう声をかけたが、反応はない。心配になって顔を覗くと、ロマーノは完全に意識を飛ばしているようだった。無理をさせた自覚はある。赤く腫れているロマーノの目に浮かんだ涙を拭い、スペインはため息をついた。
「……はあ、どないしよ」
ロマーノは収まったが、今のロマーノの痴態を見て、今度はスペインの性器が反応してしまった。あまりにロマーノがかわいかったので、こうなるのも仕方ない気もするが、だからといって意識を飛ばしている相手の体を使うなんて以ての外だ。
「寝てる恋人の横でオナニーとか、寂しすぎるわあ……」
そう言いつつ、スペインは性器に手を伸ばした。トイレにでも行って済ました方がいいのはわかっていたが、手は出さないので、かわいいロマーノをおかずにぐらいはさせてほしい。スペインは心の中でそう言い訳をして、眠っているロマーノの顔だけを見つめた。