恋よ、前進せよ 08

マキネッタからデミタスカップにコーヒーを注ぎ、それを持ってロマーノはリビングへ足を向けた。ソファに座ってのんびりとテレビを見ていたヴェネチアーノの前に、持ってきたカップをひとつ置く。するとヴェネチアーノは驚いたように目を丸め、隣に座ったロマーノを見て嬉しそうに笑った。
「俺の分も淹れてくれたの? ありがと兄ちゃん!」
「フン。ありがたく思えよちくしょーめ」
大量の砂糖をカップに落としながら、ロマーノは得意気な様子で鼻を鳴らした。同じように砂糖を投入しつつ、ヴェネチアーノは機嫌が良いロマーノを眺める。基本的に家事も仕事もしない兄であるが、機嫌がいいと料理関係であれば率先するのだ。
「なんかいいことでもあったの?」
濃い苦みを一口飲み干して、ヴェネチアーノは何の気なしに尋ねた。まるでそれを待っていたかのように、ロマーノはによによと嬉しそうにヴェネチアーノを見る。
「スペインコノヤローがヤキモチ妬きやがったんだ」
「へえ。スペイン兄ちゃんが?」
あまりイメージがわかず、ヴェネチアーノは驚いたような声を上げた。イタリア兄弟の前では基本的に鷹揚な姿を見せることが多いスペインなので、嫉妬している姿が結びつかない。しかしお国柄、情熱的な一面もあることは無理からぬ話であり、好きな相手に対しては嫉妬のひとつやふたつはしてしまうのだろう。
「それが嬉しいんだ?」
「う、嬉しいって訳じゃ……!」
慌てて否定して、ロマーノは顔を逸らした。しかし赤くなっている耳の淵を見て、ヴェネチアーノは笑みを深める。
「浮気するなって必死になってるあいつが、面白かったって話だろ!」
「よかったねえ、兄ちゃん」
「何がよかっただ! カッツォ!」
顔を赤くして怒りながら、ロマーノは熱いエスプレッソをぐいっと煽った。そんなわかりやすい照れ隠しは、ただヴェネチアーノの気持ちを喜ばせるだけだ。
ヴェネチアーノは随分と長い間、兄であるロマーノの片想いを見守っていた。スペインに対して特に心を許していると知ったのは、統一前である。あの頃から特別な感情を抱いていたかは定かではないが、統一した頃には既にそうであった。ロマーノは決して口にはしなかったが、切ない視線をスペインに向けていたことを、ヴェネチアーノは知っていた。ずっとそばで見ていたのだ。
見ていることしか出来ないもどかしさは辛かった。しかし人一倍傷つきやすいロマーノが、諦念を浮かべる横顔を見るのが、一番堪えた。いつも大声を上げて泣くロマーノがそれすらしなかったのは、スペインを想う故だったのか、ロマーノ自身のプライドだったのか。
しかしそんな二人にもようやく春が来た。フランスは惚気話を聞かされる度うんざりしている様子だったが、ヴェネチアーノはいつも嬉しかった。大好きな二人の幸せを願っていたのだから。
「だからもう一回浮気してやる」
「……だから?」
聞き間違いかと、ヴェネチアーノは目を瞠った。しかしロマーノは得意気な様子で頷いた。
「おう。今度浮気したら、本気で怒るんだってよ。あいつ」
「ええっ、ダメじゃんか」
「ダメじゃねえんだよバカ」
「なんで? 怒られたいの?」
「そりゃあ、お前……」
話していたロマーノは急にハッと我に返り、しばらく固まった。その間に顔がどんどん赤くなり、ゆっくりとヴェネチアーノから視線を逸らした後、意味もなくカップの淵を指で撫で始める。
「べ、別に……期待してる、とか、そういう訳じゃ……」
「期待……?」
今の話の流れのどこに照れる要素があったのか。ヴェネチアーノは困惑したように眉を下げつつ、首を捻った。
先ほどの様子を思うと、ロマーノはスペインが嫉妬したことを喜んでいる。その気持ちは、ヴェネチアーノにも少しわかった。特別な気持ち、独占欲がなければ生まれない感情である。わかりやすい恋人の好意に喜ぶのは、相手がスペインであれば尚のことだろう。
だからわざと浮気して相手を怒らせよう、というのはあまりに短絡的な考えである。ヴェネチアーノは頭を抱えてため息をついた。
「まあ、あいつが……どうしてもっていうなら、俺は、その……」
「ダメだよ、兄ちゃん」
「えっ……」
驚いた様子で振り返ったロマーノは、絶句してヴェネチアーノを見ていた。ヴェネチアーノも珍しく真剣な面持ちで見つめ返すと、ロマーノは居心地悪そうにそっと目を逸らす。
「で、でも……いつかは、踏むステップじゃねえか……」
「ええ!? 浮気が!?」
「あ、そっちか……」
「それ以外なにがあるのさ」
ヴェネチアーノが首を傾げると、ロマーノは「何でもない」と言って、慌てて首を横に振った。ロマーノの反応がいまいちに腑に落ちないものの、ヴェネチアーノはカップをテーブルに置き、ロマーノの手を取った。
「ダメだよ、兄ちゃん。気持ちを確かめたいってのもわかるけど、浮気なんかして本当にスペイン兄ちゃんに愛想つかされちゃったら、どうするの」
「スペインが俺を……?」
「兄ちゃんが好きでいてくれたから、スペイン兄ちゃんも好きになってくれたんでしょ? なのにいざ好きになってみたら、兄ちゃんはナンパばっかりしてるんだよ。話が違うってなって冷めちゃうかもしれないよ」
流石にスペインに限って、そんな理由で恋が冷めるとは思えないが、ヴェネチアーノは脅すようにロマーノに告げた。
しかし恋をしているスペインというものを、ヴェネチアーノはよく知らない。何が嬉しくて、何が気持ちを冷めさせるのかなんて、判断がつかない。ロマーノのナンパが恋のスパイスになっていればいいが、そうでないならあまりにも悪手である。
「……どうしよう」
呆然とした様子でぽつりと零したロマーノは、残り少なくなったコーヒーを見つめていた。心なしか顔色まで悪くなっており、ヴェネチアーノは妙な罪悪感にかられる。間違ったことは言っていないはずであるが、ロマーノは目に見えて落ち込むので、ヴェネチアーノはよくこういった心境に陥った。
「両想いの見込みもないのに無謀にも告白した時の情熱を思い出してよ兄ちゃん! その勢いでいっぱいアピールしないと! 飽きられちゃうよ!」
「バカにしてんだろこの野郎!」
「だってさ、兄ちゃん……最初に告白した時、ちゃんとアピールしてたの?」
突然のヴェネチアーノの問いに、ロマーノはきょとんと目を丸めた。二人が上手くいったようで、ヴェネチアーノは無粋かと思い口にしなかったが、いい機会だと口を開いた。
「告白ってさ、一発逆転の切り札じゃないでしょ」
「は?」
意味がわからないような声をロマーノが上げる。そんなロマーノに、ヴェネチアーノは詰め寄った。
「それまでにいっぱいデートして、お互いの気持ちを確かめ合って、もう確実に両想いだなと思って初めて、好きですって伝えるもんだよ」
「な、な……何を……?」
「今までずっと一緒に暮らしてた子分からいきなり好きってだけ言われたって、それをいきなり恋愛と思う方が無理な話だよ。相手が鈍感なスペイン兄ちゃんってことを差し引いても、それは難しいよ。気付いてもらえなかったのは兄ちゃんのアピール不足だよね。むしろ鈍感だからこそ、もっとがんばらなきゃ」
スペインは鈍感として有名である。そんな相手だからこそ、正攻法で想いが通じるはずもないのだ。
それを百も承知で、アプローチの仕方を考えなかったロマーノが悪い。勇気を出して二度も告白し、玉砕した姿は可哀そうで同情もするが、だからこそヴェネチアーノは今度こそ二人に、幸せになってもらいたかった。
「で、でも二回も……!」
苦し紛れに、ロマーノは自身の苦しい思いの日々を口にした。それにヴェネチアーノはビシッと指を差す。
「そうだよ! 二回も言って伝わらないなんて、ひどすぎるよ! どんなアプローチしたの?」
どんどんと追い詰められ、ロマーノはソファの上をじりじりと後退した。しまいには背がソファのアームレストに当たり、逃げ場がなくなってしまう。
「それで浮気しようとしてるなんて、ダメだよ! 本当に飽きられちゃうよ!」
正論をぶつけられ、ロマーノは唇を噛みしめて黙り込む。イタリアの男はチャラいだ浮気性だと世界で噂されているが、浮気が良くない文化だという認識はもちろんあるのだ。綺麗な女性を見かけてナンパしないなんてイタリア男の風上にも置けないが、だから浮気してよいという話ではない。
スペイン人の全体の話はさて置き、あくまでスペイン個人となれば、浮気はしないだろう。今まで散々遊んできただろうが、少なくとも恋人がいればその相手を大事にする。スペインはロマーノが恋人になるなら、全力でロマーノを愛するだろうし、意識的に他の誰かを誘うことはないはずだ。無意識的に人を誑かすことはあるだろうが。
「でも次、浮気したら……!」
そこでロマーノははっと、我に返って口を噤んだ。それにヴェネチアーノは怪訝な様子で首を傾げる。
「怒られるんでしょ?」
途端、ロマーノの顔が真っ赤に染まった。
「お、お前に関係ねーだろ! ヴァッファンクーロ!」
大きな声で罵って、ロマーノは逃げるように二階へ上がり、壊すのかと思う勢いで部屋のドアを閉めた。恐らく自室に閉じこもったロマーノを、ヴェネチアーノは見送る。ロマーノの触れてはいけない部分に踏み入ったので、こうなることは予測出来ていた。
機嫌を損ねてしまったロマーノを思ってため息をつく。ロマーノが残していったコーヒーの残りを飲み干し、底に残った砂糖の塊をスプーンで掬い上げる。まるでカラメルのようなほろ苦い甘さを飲み込んで、さっきまでロマーノが座っていた空白の隣を見る。
「……うまくいくといいけどなあ」
そうひとりごちて、残りひと掬いの砂糖をヴェネチアーノは全て食べきった。



閉じこもったロマーノは、物で溢れかえった部屋の中を慣れた様子で歩き、ベッドに腰かける。その表情はひどく切迫感があった。
「……どうしよう」
ロマーノの頭の中で、先ほどヴェネチアーノが放った言葉がぐるぐると回っている。
「今更あいつが俺に愛想をつかすなんてこと……」
ない、と言おうとした口が止まった。そうしてまたしても、ロマーノは緊張した表情で悩み始める。
ロマーノは昔から不器用だった。体が大きくなって、昔よりは出来ることも増えたが、それでも不器用な部分は変わらない。今まで散々周りから嫌味を言われてきて、器用な弟と比べられてきた。
それ故にロマーノの性格が捻くれたとも言えなくはないが、色んな要因からかわいくないことばかり口にするロマーノを、最初はスペインも面倒くさそうに接していたはずだ。二人の仲は、決して最初から良好だった訳ではない。
かわいくない、ヴェネチアーノと取り替えろと言ってたスペインだったが、少しずつ二人の距離は近付いた。おねしょをして、家具や食器も壊して、大して働かない子分のままだったが、スペインはそんなロマーノを受け入れてかわいがったのだ。
そんなスペインが今更、たかだかナンパや浮気程度でロマーノに愛想をつかすだろうか。そう思う反面、ロマーノは恋人としてのスペインを知らない。情熱的なスペインはもしかしたら独占欲の塊で、嫉妬に狂って浮気するなら別れるとなる可能性もある。ロマーノからすればあまり想像できないスペインではあるが、長い付き合いのある二人でも、恋人という関係は初めてなのだ。
「そもそもまだ付き合ってねえな、俺たち……」
主にロマーノがそう言っているだけで、スペインはもう恋人気分であるのだが。
前回、ナンパしていたロマーノに怒ったスペインが、次にしたらロマーノにエッチなことをすると宣言した。ロマーノはそれが嘘でないか、確かめたいだけなのだ。スペインが本気でロマーノのことが好きなら、当然ロマーノに興奮するはずである。それが本当であるなら、いよいよロマーノはスペインの言う「好き」を信じられる気がするのだ。
しかしまたロマーノがナンパしているところを見て、怒るどころか呆れられ、どうでもいいと言われたらどうすればいいのか。そう考えると、コーヒーを飲むまで浮かれていたロマーノの気持ちが、しおしおと沈んでいく。
「……そもそも俺はスペインの好意を試してるんであって、この程度で愛想つかされるならその程度ってこと、だろ? そう、そうだ。そうだよ、な……?」
自問自答するが、それでも胸のもやもやは晴れない。一度不安に思うと、本当にヴェネチアーノの指摘通りになりそうで、一気にスペインから愛されている自信が揺らぎ始める。
「いや、今回は結構自信あったんだぞマジで……あいつスゲー触ってくるし、キスしまくってくるし、外でも遠慮ないし……」
ぶつぶつぼやいていたロマーノはふと、日本のことを思い出した。落ち込んでいるロマーノを見かねて、スペインの好意を確かめてみればいいと提案したのは、日本である。
ここ最近、休みが合えばスペインと会ってばかりいて、日本に勧められたゲームに全然触れなくなった。それに伴って日本と通話することもなくなり、しばらく穏やかな日本の声を聞いていない。
それにやっと気付き、ロマーノは自身がなんて薄情な男なのだろうと痛感した。ロマーノが落ち込んでいるからと気晴らしにゲームに誘い、ロマーノが強くなるまで惜しむことなくゲームを手伝ってくれていた日本のことを、今の今まで忘れていたのだ。ましてや相談までしておいて、スペインとうまくいった後の話をすることすら忘れている。何かに熱中し始めると、他のことが疎かになるのは、ロマーノの悪い癖だった。
ロマーノは慌てて携帯を取り出し、すぐさま日本に通話をかけた。コール音が数回鳴ってようやく時差のことを思い出し、ロマーノは舌打ちする。自身の気の回らなさが嫌になるのは、こういう時だった。
『ロマーノくんですか?』
切ろうか迷っているうちに、日本が電話をとった。ロマーノははっととして、慌てて携帯を耳に押し当てる。
「に、日本……! 寝てなかったのか?」
ちらりとロマーノが時計を確認すると、三時を過ぎたあたりだ。日本だとすっかり眠る時間帯である。真面目な日本であれば、寝ていてもおかしくない時間であった。
『寝る支度をしていたところです。そちらではシエスタの頃合いですかね』
「ああ……ちょっと前に起きたばっかだ」
『いいですね。いつかご相伴に預かりたいものです』
眠気もあるのか、普段より更におっとりとした口調で、日本は話を続けた。なんだか申し訳なく思い、ロマーノがやはり電話を切ろうと思ったところで、日本がロマーノの名前を呼んだ。
『何かありましたか?』
「あー……えっと、その……」
言葉に迷っていると、日本がくすくすと静かに笑った。
『ゆっくりで構いませんよ。久しぶりにロマーノくんと話せて、嬉しいので』
優しい声色に、ロマーノは自然と肩から力が抜けた。急にゲームを疎かにし始めたロマーノを、日本が怒っている様子はない。日本が怒る姿も想像できなかったが、だからこそロマーノは更に不安だったのだ。
「……いつでもかけてくればいいだろ、コノヤロー」
やっと調子を取り戻したロマーノは、悪態までついた。それに怒る素振りもなく、日本は「ではお言葉に甘えて」といつも通り、控えめな返答である。
「最近、全然ゲーム出来てなくて……その、悪かったな……」
謝罪の部分は小さな声になってしまったが、なんとか伝えたかったことを言葉に出来た。それにほっとしているロマーノをよそに、日本は「えっ」と短く驚愕の声を上げた。
『気にしてくださっていたんですね……』
「そ、そりゃあ……! 一応、勧められたやつだし……」
『ゲームはしたいと思った時にすればいいんですよ。無理してすることではありません』
ロマーノからするとありがたい言葉だったが、一番ゲームにのめり込んでいた時期は、二人して期間限定イベントの為に連日徹夜していたのだ。無理しまくっていた日本からそう慰められたところで、ロマーノは微妙な面持ちになる。
『でもまたゲームがしたくなったら、声を掛けてくださると嬉しいです』
「お前からも誘ってこいよ!」
『おや。良いのであれば遠慮なく』
まるで友人のようなやり取りに、ロマーノは気恥ずかしさを感じながらも、嬉しかった。ゲームに誘ってくれたのは、気落ちしていたロマーノを励ますためであって、いわばそれば元来からある日本の優しさである。ロマーノが友人と思っていても、相手がどう思っているかはわからなかった。
けれどゲームのための通話ではなくても、日本は楽しそうに話を続けてくれている。何でもない話が続くことが新鮮で、ロマーノは電話をしてよかったと、やっと思えた。
『しかしゲームをする暇もないとなると、ついにスペインさんと恋人になられたのですか?』
「えっ……あ、それは、その……」
突然にスペインの話を振られ、ロマーノはあからさまに動揺した。そもそも最初に相談したのはロマーノで、それっきり何の報告もしていない。日本からすれば、その後が気になって仕方ないだろう。
ロマーノは今までの出来事、そして今の新しい悩みのあらましを話した。生々しい話はぼかしつつ全て話し切ると、日本はなるほどと頷いて見せる。
『浮気すればよろしいのです』
ヴェネチアーノと真逆の意見を、日本はきっぱり言い切った。
「……愛想つかされねえかな」
『スペインさんに限ってそれはないかと……。それに恋というのは、振り回されるほど燃えるというものではありませんか』
随分と玄人な言い方に、ロマーノはしばしば沈黙する。ロマーノが一方的に恋愛の話をしていたが、思えば日本からそういった浮ついた話は聞いたことがない。真面目一辺倒のイメージがあったので、色恋とは遠くかけ離れた存在でもあった。
「……日本ってもしかして、恋人いんのか?」
『えっ!? い、いえ、まさか。こんな爺に恋人なんていません……』
「でもそんだけ生きてんなら、色んな経験したんだろ?」
『わ、私の話はともかく……』
話を遮る様に、日本はわざとらしく咳払いをした。ロマーノは日本からもっといろんな話を聞きたかったが、全てを遮る様に日本が口早に話し出す。
『殿方は手の上で、こうっ、転がさなければ』
こうと言われてもロマーノからは何も見えない。ロマーノは呆れたようにため息をついた。
「俺も男なんだけど……」
『ええ、ええ。わかっていますとも』
「ほんとかよ……」
そんな中身のない話を続け、あっという間に日本が寝る時間になり、やっと二人は通話を切った。通話が終了した画面を、どこか浮ついた気持ちでロマーノはしばらく眺める。不思議と電話前にあった胸の不安は、薄らいでいた。
本当に浮気をするかどうかは別として、ロマーノはスペインのことを少しだけ前向きに考え始める。ベッドサイドにあるバラの花を見つめ、ロマーノはつんっとガラスドームを指で突いた。初めてデートした記念に贈られてから、ずっとロマーノのベッドサイドを彩っているバラを見ていると、スペインの笑顔が頭に浮かんだ。
思い出すとすぐに会いたくなって、ロマーノはまた携帯を操作し、多く残る着信履歴の中から、スペインの名前を選ぶのだった。