動物園

「今日は陽向の心のケアをしようと思います!」

「心のケアって」


結局お母さんが帰ってくるまで家に居座り、昼食も平らげ(ちなみにミートソースのスパゲティだ)漸く帰ると思ったらそんな宣言をいきなり始めドヤ顔で私を見つめてきた

え、本当になんなの


「あらー、ミリオくんがついてるなら安心ねー」

「お母さん!」

「ってことで陽向借りていきますね!」


着替えて着替えて!と私の部屋に押し込んで外行きの服に着替えるよう促しはじめる

このまま部屋にこもって寝てしまおうと思ったが、ミリオの事だ、強制的に連れ出されるのは目に見えるから大人しく着替えようと服を脱ぐ


「陽向!寝てても俺が起こすから意味無いから・・・ね・・・」

「・・・」


部屋のドアから"個性"を使い顔だけ出してきたミリオ

私はジーンズを履いてはいたが、下はブラのみ

こいつとうとうやりおった


「ミリオ」

「はい」

「何か言うことは?」

「おっぱい小さいね!」

「死ね!!」


ベッドの上の枕を思い切りミリオに投げつける

いた!くない!と叫んで顔を引っ込めるミリオ苛立ちを隠さずにやれ変態だのバカだの文句を言いながら服を着る

アイツ本当に信じられない


「あ、可愛くなったね」

「今更ゴマすっても意味無いから」


焦りを見せながら私に謝るミリオに、怒りはおさまらないまま玄関まで行き靴を履く

お母さんのいってらっしゃーいという気の抜けた声に返事をし、玄関のドアを開ける


「いつまで突っ立ってんのよ」

「え?」

「どっか出かけるんじゃないの!?」


強い物言いになったのはミリオが悪い、と自分を納得させて先に家を出る

待って待ってとバタバタと慌ただしく靴を履いて私の隣に並ぶと先程の焦りはどこに行ったのかと思うぐらい嬉しそうだった


「何ニヤニヤしてんのよ」

「ニヤニヤしてた?ニシシー」

「何その変な笑い方」

「だってさ」


ニヤニヤとした表情はそのまま、ミリオは私に言う

私はというと恥ずかしくなって顔を赤くしながらそらすしかなかった

あー、くそう

仕方ないじゃないか


「どんなに怒っても俺と出かけてくれるんだね」

「うるさい」

「どこいこっかー」


手を握られればもう私は何も言えない

子供みたいに繋いだ手をブンブンと振りながら嬉しそうなミリオをみて、笑顔になるのが分かる


「動物園行きたいな」

「動物園ね!!わかった!!」


駅に向かいながらどんな動物が好きか話をする


「俺知ってる!陽向の好きなのあれだよね!うさぎ!!」

「犬」

「ま!じ!か!」


やられたぜ!と1人楽しそうに笑うミリオに釣られて笑う

ミリオが犬は動物園にいないことに気づいたのは動物園前に着いてからだった

***

「うさぎ可愛い」

「うさぎと触れ合ってる陽向が可愛い」

「はいはいありがとー」


犬でなくても動物は好きだ

だから割と楽しみだったのだが隣で落ち込んでいる男に正直うんざりしている


「ミリオは楽しくない?」

「めちゃくちゃ楽しい」

「ならいいじゃない」


ライオンをみて興奮するあたり子供だなぁ、と思う

近くにいる子供と一緒に騒いでいるから尚更大きい子供みたいだ


「陽向はいつになく楽しそうだよね!」

「そうだね」

「お?今日は素直」

「アンタが父親になったら子供と一緒に大騒ぎで大きい子供の世話もするハメになりそう」


きっとその時には私も隣に・・・、と思ったところで足を止める

私は何を口走った

いや、これは別に深い意味はない

そう、別にミリオの世話をするのは私じゃない

うん!そう!


「みり」

「陽向さん」

「はい!!」

「急にそういうのは反則では無いでしょうか」


顔を真っ赤にして視線を彷徨わせるミリオにやってしまったと思う

全て言葉の意図が伝わっている


「ち、違う!!違うの!!」

「でも陽向顔真っ赤」

「真っ赤なのはアンタでしょうが!!」


ばしばしと背中を叩けば痛い痛いと笑いながらも受け止めてくれる

何回か叩いたらミリオが振り返り叩く手を取り、ぎゅ、と大きい手で包み込む


「そろそろ痛い」

「・・・ごめん」

「いや、俺こそごめん・・・陽向の愛を受け止めきれなかった」

「次そういうこと言ったら股間蹴りあげる」

「今めっちゃ心臓潰れそうになった」

「そう」

「というか女の子が股間とか言うなよ!あと、ちんちん蹴られるとスッゲー痛いんだよ!!」

「女の子に堂々とちんちんとか言うなよ・・・ってかアンタ・・・何その顔」

「いや、陽向がちんちんって言うとなんかこう」

「小学生か」

「小学生はムラムラしな痛い!」

「殴ったからね」


頬に構わずグーパンを入れ、涙目のミリオを置いて売店コーナーまで向かう

そろそろ小腹が空いてきた


「陽向ー何食べるのー?」


凝りもせず追いかけて、また手を繋いでくれるミリオに、私も馬鹿だなぁなんて思いながら握り返す

このままヒーローなんかにならないで、ゆっくり時間を過ごせばいいのになんて思っても

きっとそれは叶わないんだろうな

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