触れない魔導書

「き、君が件の魔導書の持ち主かな?」

「まぁ・・・はい、一応」


ムス、とした表情でユリウスの前に立つ少女に困ったなぁ、とユリウスは頬をかく

断じてユリウスのせいで不機嫌になっている訳ではないのだが、ポーカーフェイスを投げ捨てここは両隣に立つヴァーミリオン家の者に迷惑を掛けてやろうと不機嫌を隠さずにいるのだ

何を不機嫌になっているのかわからないメレオレオナは何を不貞腐れてるんだとヤシロの肩を肘でつつく

不機嫌の理由は分かっているが止める気が無かったフエゴレオンは苦笑いをユリウスに見せた


「初めまして、私はユリウス・ノヴァクロノ、君は?」

「・・・ヤシロです」

「えーっと、早速で悪いんだけど君の魔導書を見せてもらってもいいかな?」

「はぁ、どうぞ」


ユリウスに魔導書渡そうと取り出し差し出す

ユリウスも手に取ろうと魔導書に触れた

バチッ

静電気の様な感覚だった

手に感じた痛みで魔導書から手を退けるとヤシロもメレオレオナもフエゴレオンも不思議そうにユリウスを見つめている

気のせいだろうか

ユリウスがもう一度、今度はしっかりと魔導書に触れると今度は白い雷の様に手から体全身へと伝わっていく


「ユリウス殿!!」


慌ててユリウスへ近寄るフエゴレオンに支えられ、何とか膝をつかないようにする

ヤシロをみるとびっくりしたように魔導書とユリウスを交互に見ていた

自分以外の人間が自分の魔導書に触れないなど聞いた事がない

態度から見るに、故意に攻撃した訳ではないようだ


「特に問題なく触れるがな」


ぺたぺたとヤシロの魔導書に触るメレオレオナ

レオポルドも触れていたはずだと今朝のことを思い出す


「お前も持ってみろ」


ぽい、と投げられた魔導書を掴み、メレオレオナに雑に扱うなと一言言おうとした時だ

ユリウスと比べ物にならない雷がフエゴレオンを襲う

魔導書がフエゴレオンの手から離れると雷はおさまったが、立てないほどの威力に腰をついてしまった


「大丈夫か?」

「あ、あぁ」


ヤシロは手を差し伸べるか迷って、結局手を引っ込めてしまう

フエゴレオンは何となく雷を受ける対象が分かった気がした


「うーん、とりあえずその魔導書は君を選んだみたいだし、君が持っていたらいいと思うよ」

「はぁ・・・」

「で?どんな魔法を使うんだい!?」


ワクワクとした表情を隠さずヤシロに顔を近づけるユリウスに「あぁ、こういう人だった」と苦笑いを浮かべる

生粋の魔法オタクである彼が得体の知れない魔導書の魔法に興味が無い訳がなかった

キラキラと瞳を輝かせながら見せて見せてと子供の様に振る舞う姿にヤシロは困ったような表情を見せた


「使い方、分からなくって」

「え?」

「この前たまたま勝手に魔法?が出てくれて・・・でも、使い方わからないんです」


ご期待に添えず申し訳ない、と謝ると無理強いしたい訳ではないんだ、と慌てて弁解する

そういえば勝手に光って勝手に出たみたいな事を言ってたな、とフエゴレオンは思い出した


「ヤシロの魔法は光っていたから光魔法とかかもしれませんね」

「光魔法!?それって凄くレアじゃないか!!初代魔法帝や王族以外なら初じゃないかなぁ!?」


再びワクワクとした表情を作りやっぱりみたい!と言い始めたユリウスに余計なことを言うのではなかったとフエゴレオンは思う

どうしよう、とページを開くが全て字が全く読めないからどうすればいいのかわからない

するとまた勝手に魔導書が光り出す

魔導書だけではない、ヤシロの腰にある刀も光出したのだ

おおっ、とユリウスが声を上げる

刀と魔導書が勝手に浮くと、刀が魔導書の中に入っていく

それを呆然と眺め、魔導書がヤシロの手元に戻ってくると刀が描かれているページを見て驚いた


"椿丸"


そう刀の絵の下に書かれた文字をそっとなぞる

日ノ国の文字で書かれたそれは、メレオレオナもフエゴレオンもユリウスも読めない


「何て書いてあるんだ?」

「椿丸、この刀の名前だ」

「刀に名前があったんだな」

「あぁ、この刀は父が私の為に打ってくれた刀なんだ」

「なら、これなら取り出すことが出来るんじゃないか?」

「・・・」


ちらり、とメレオレオナの方を見るが頭を振るだけ

フエゴレオンも同じだった

出し方はお前次第だ、と


「つ、椿丸・・・?」


手を翳してみるが出てこない

椿丸のページを開いて振ってみても出てこない

え、どうしよう


「椿丸がない私なんて道端のゴミ寄りも弱いのに・・・」

「いや、そんなことないだろう」

「気をしっかりしろ」


ヤシロの落胆ぶりに何とか宥めるが仕方ない事のようにも見えた

今まで魔法に触れてこなかったから出し方などわからないのだろう

これは今後教えればいいな、と思いながらフエゴレオンは時計をみる

灰色の幻鹿団団長である彼は多忙である

そろそろ出よう


「ユリウス殿、我々はそろそろ」

「え?もう?残念だなぁ・・・あ、ヤシロ!また魔法使えるようになったら見せに来てね!!光魔法見てみたいから!!」

「え、あ、はい」

「あと!魔法騎士団に入る予定はないのかい?君の魔法次第になるけど、是非うちに来てほしい・・・」

「ヤシロは紅蓮の獅子王に入るので其方には入らん、諦めろ」


メレオレオナが間に入ると、2人の間に火花が散る

お顔を止めないユリウスと睨むメレオレオナは対極的筈なのに、どちらも冷気を纏っているように見えた


「紅蓮の獅子王・・・こう言ってはあれだけど平民下民なんて以ての外みたいな団に異国人を入れるとは思えないなぁ」

「貴様こそ、どのような力があるかわからない奴を勧誘とは騎士団団長としてどうなんだ?」

「君達がここまで気に入るって事はかなりの実力があると思うんだけど・・・違うのかな?」

「それを貴様に伝える筋合いは無いな」

「そうか、教えたくないぐらい強いんだ」


ニコニコ、バチバチ

そんな効果音が付きそうである


「これ、魔法騎士団?に入る予定ないって言ったらおさまる?」

「勧誘が酷くなるだけだと思う」


それはフエゴレオンも含めて、だ

入りたくないのならヤシロの意志を尊重するが、今現在では"魔法騎士団がどういうものなのかわからないからやりたくない"が正しいと思う

なら仕事を説明して紅蓮の獅子王に引き釣りこんでしまいたい


「・・・まぁ、あのよくわかんない女の人に言った手前、貴方達と一緒にいるのは悪くないと思ってるよ」

「女・・・あぁ、そうか・・・」


仲良くしたいと思ってる、と言ってくれた

今ここで大人しくしてくれているのはきっとそういうことなんだろう


「でも、友人の家にずっと世話になるのはやっぱり抵抗あるし、家を探したい」

「それは気にしなくてもいい、どうせ部屋は有り余っている」

「うーん、でも」

「それとも、昨日の返答への時間稼ぎか?」

「・・・いや、それは関係ないよ」


すっ、と魔導書をなぞる


「語るには簡単だけど、話すまで私の中で整理というか、覚悟というか、そういうのが必要なだけ」

「・・・難しい話なのか?」

「簡潔でいいのならすぐだけど、説明するならとても難しいこと・・・私の中ではね」

「ならまず簡潔に話せ、説明が必要で、お前が話したいと思うなら聞かせてほしい」

「・・・そうしたら、君は私を嫌いになってくれる?」


綺麗に笑ったヤシロを見て、フエゴレオンは息を飲む

嫌いになる、とはどういうことだろうか

現時点でヤシロに対して好感はある

それを覆すようなことをヤシロは今までしてきたのだろうか


「・・・わから、ない」


想像が出来なかった

確かに躊躇いもなく人を殺せるような人物であるが何よりも優しい心の持ち主だと思ったいた

だから、本当に、わからないのだ


「そっか」


ヤシロは悲しそうに笑うだけだった

前へ次へ
戻る