話をしよう

「ヤシロ、少しいいか?」


ドアをノックしてから声をかける

夕飯は一緒に取らなかったが何か食べたのだろうか

一応軽食にとパンを持ってきたが気に入ってくれるだろうか

もう一度ノックをしたが返事はない

ドアノブを回して鍵が開いているのを確認し、開けるとソファーから足が伸びていることに気づく

音を立てないように近づくと寝息を立てて眠っているヤシロの姿があった

こんな所で寝ていたら風邪を引くだろう

そう思いベッドへ運ぼうとヤシロに手を伸ばす

視界は一転した

ソファーの上で眠っていたヤシロを見ていたはずなのに、今は天井を背景にヤシロが見える

首元にナイフのような物を突きつけられ、鋭いヤシロの目に一瞬だが物怖じする

直ぐに何もするつもりなどなかったと分かってもらうよう両手を上に上げた


「落ち着け、眠っていると思ったからベッドに運ぼうと思ったんだ」

「・・・そう」


小さくごめんと呟き、ゆっくりとフエゴレオンから離れる

そういえば、これが初めてのヤシロからのスキンシップではないかと思ったフエゴレオンは少しだけ顔を緩めた


「痛いところない?」

「え?あぁ、大丈夫だ」

「何で笑ってんの?」

「いや、初めて俺に触ったなと思って」


何言ってんだコイツ

そう思ったことを隠しもせずにフエゴレオンを睨むとフエゴレオンは話をそらすように包み紙を見せた


「夕飯は食べれたか?クロワッサンというパンを持ってきたんだ、気に入ってくれるといいんだが」


手渡すとテーブルに置かれる

そのまま取り出す様子はない

感想を聞きたかったがうん、仕方ない

ソファーに座ったフエゴレオンを暫く見つめ、キッチンへと向かっていく

メレオレオナが前々から準備していたこの部屋には簡易であるが料理が出来るスペースがある

ヤシロが好きだと知っていて用意したのだ


「何をしているんだ?」

「よく分からないけど居座ろうとしている人に何も出さない訳にもいかないだろ」

「見た事ない飲み物だな、なんなんだ?」

「嫌味も通じないのか・・・座ってて」


緑色の温かな飲み物をヤシロの顔を交互に見る

特に砂糖等を入れてない様なのでフエゴレオンもそのまま口つけた


「おぉ!!」


少々苦味が強い気がするが、後から感じる甘みは不思議な感じだ

味からして紅茶の類いだろうが、砂糖を入れていないのに甘味を感じるというのはどういうことだろうか

不思議とは思うが、気に入ったので今はただ黙って飲む


「どう?」

「美味い、なんて言う紅茶なんだ?」

「紅茶ではなくて、茶葉は一緒なんだけど作り方を日ノ国のやり方で作ったんだ」

「日ノ国の茶は緑色なのか」

「うん、本当はもっと甘みのあるのにしたかったんだけど・・・蒸し方が足りなかったのかな」


もっと甘みが出てくるのか、とフエゴレオンは驚く

砂糖を入れないと甘くならない紅茶と違いこのままでも充分感じれるのは不思議だ


「あぁ、そう言えば話をしに来たんだ」

「・・・昨日のこと?さっきのこと?」

「両方だ」


フエゴレオンが真っ直ぐに見据えると、ヤシロは視線を逸らしてしまった


「無理に話してほしい訳では無い、それに話を聞いてお前の事を嫌う事が出来るかどうかもわからない」


ゆらゆらと揺れる緑の液体を眺めながら、フエゴレオンはヤシロの言葉を待つ

深呼吸をするように息を吸い、吐き出すとヤシロは言葉を紡いだ


「ずっとずっと、小さい頃からの話になるよ」


あぁ、やっぱり笑うのか

悲しさを誤魔化すような笑みを浮かべたヤシロを見て、フエゴレオンはただ黙ってうなづいた

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