悪い人
雪だ
目を見開いて子供のように心を踊らせる
そんな死人から奪った物を使うな
そうフエゴレオンから言われたヤシロは、そのフエゴレオンが持ってきた毛布に包まり窓から外を眺めていた
窓を開けて顔を出すと、息を吐くと同時に白くなる息に目を輝かせる
雪国出身だったヤシロはいそいそと身支度を整えると外に出た
薄らと積もった雪では何も遊べないだろうが、何者の足跡も着いていない雪の上を歩くのはヤシロの好きなことだった
ざっ、ざっ、と音を鳴らして跡をつける
このまま近場にある天然の温泉で雪見風呂もいいなぁ、等と考えているとまた雪が降ってきた
ふふふ、と楽しそうに笑うと「ヤシロ!」と呼ばれ顔を上げる
「メレさん」
「久しぶりだな!どうだ、調子は!」
何処から持ってきたのか狩ってきたのか、肉の塊の入った包をヤシロに渡す
メレさんと呼ばれた女、本名はメレオレオナ・ヴァーミリオンと言うがヤシロはちゃんと発音することが出来ずメレさんと呼んでいる
出会いはメレオレオナが死にかけている所にヤシロが出くわすという奇妙なものだったが割合しておく
それ以来メレオレオナはヤシロを気に入り時々こうして様子を見に来てはクローバー王国で暮らして魔法騎士団に入らないかと勧誘してくるのだ
今日もそんな感じだろうと思ったのだが違うらしい
ヤシロに肉だけ渡すと片手を上げて「ではまたゆっくり会おう」とだけ言って振り返る
振り返った先で、メレオレオナが脇に抱えている子供に気づくと同時に目が合った
既に泣き疲れたのか声は出さないが、まだ涙は流していた
「・・・メレさん?」
「何だ?」
「その子は?」
「私の弟だ!少し歩くが向こうに崖があってな、突き落としに行くところだ!」
そこからこヤシロの行動は速かった
メレオレオナが目を見張る速さで子供を奪い取りヤシロの後ろに隠した
「何のつもりだ!」
「そっちが何のつもりですか!こんな幼子を崖にって!!」
「貴様知らないのか!?獅子の子は子を崖から突き落とし、這い上がった子だけを育てる!」
「そんな迷信信じないでください!!」
誰だかはわからないが、横暴な姉と口論出来るぐらいには頼りになる自身を庇うその人に、子供はグズグズと鼻を啜りながら足にしがみついた
その様子を面白くなさそうに見つめるメレオレオナはふん、と鼻を鳴らした
「崖から落としたら死んでしまいます、獅子が子を殺す時は群れを奪い取ってメスと交尾するために前の王の子を殺す時です」
「やけに詳しいな」
「以前書物で読みました、もっと詳しく獅子の説明をしましょうか?」
「いやいい、気が変わった、ヤシロに免じて崖から落とすのは止める」
「それはよかった」
「その代わり一戦交えないか?」
「お腹が空くので嫌です」
「そと肉を食べればいいだろう!」
「この肉を一気に食べたら冬越せないです、少しずつ頂きます」
「ならもっと肉を狩ってくるから家で待っていろ!」
「え、ちょっと!?」
森の奥深くへと駆けて行ったメレオレオナを追いかける余裕などなく、ヤシロは呆然とメレオレオナの背を見つめた
足にはまだ子供が引っ付いている
「ん?」
くいくい、と裾を引っ張られ視線を子供に合わせるようにしゃがむ
「さむい」
「そうだね、寒いね」
よいしょ、と持ち上げると子供はヤシロの首に腕を回す
子供の顔は鼻水と涙でぐしゃぐしゃで、既にヤシロの首と服はそれで汚れていた
「私はヤシロ、君は?」
「・・・レオポルド」
「れおぽりゅど、れお、ぽ、るど、れ、れお」
「レオ」
「・・・レオくん、一緒に温泉入りに行こうか」
「・・・おんせん?」
「うん」
「・・・いく」
ぎゅー、とそろそろ首が締まりそうだなーなどと考えながら一度肉を置くためとレオポルドが使う為のタオルを取りに家へ戻った
***
「わぁ!!」
外にある風呂を見たのは初めてなのか大はしゃぎのレオポルドを捕まえ体を洗ってから風呂へと入れる
ヤシロが体を洗うの大人しく待ち、ヤシロが入ってきたら抱きつく
そして今、ヤシロの手を握ってバシャバシャと音を立ててバタ足をしてた
「ヤシロは姉上と仲がいいのに怖くないな!」
「そうかなー、どうかなー」
レオポルドにとってメレオレオナは怖いのか、と思いながらそろそろ上がろうと湯船から出る
レオポルドを着替えさせ、自身も着替え終わると家へと歩き始めた
「ヤシロはなんでこんな森の中に住んでいるんだ」
「凄く悪い人だからだよ」
「わるいひと?」
「そう、悪い人」
"悪い人"がどういう意味なのか、レオポルドは気になったのだが、ヤシロが強く抱きしめたので口を閉ざす
幼いながらに聞いては行けないと察したのだ
結局その話題はメレオレオナと合流しても口にすることはなかった
***
「遅い!」
「すみません、お風呂行ってました」
「今度は私も連れて行け!!」
「はーい」
メレオレオナは何処で見つけたのか鹿肉を玄関先に置くとレオポルドを来た時とは顔の方向は逆だがまた脇に抱えた
ぎゅ
服の裾を捕まれヤシロが首を傾げる
「ヤシロはクローバー王国には来ないのか?」
「うん、行かない」
「・・・そうか」
悲しそうにしゅんとするレオポルドの頭を撫でてやるとメレオレオナはニヤニヤと笑う
「何ですか?」
「酷い奴だな、クローバー王国王族ヴァーミリオン家の長子と末っ子がこんなにも来いと言っているのに」
「私は」
「いい、いい、わかってる、だが諦めてはいないからな」
そしていつものように「また来る」とだけ残して今度こそ去ってくメレオレオナとレオポルドを見送る
レオポルドの足がプラプラしているのを見て笑ってしまった
バタン、と扉を閉めて息を吐く
「肉・・・どうしよう」
ヤシロは肉の塊を見て頭を抱えるのだった
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