大切な話
「ヤシロ!」
フエゴレオンは森に来ていた
特に任務もない普通の休日
ふと、ヤシロの事を思い出し探しに来たフエゴレオンは、川の前で座っているチェス盤の様な模様の服を見つけて声をかけた
「フレゴレオン」
「フ"エ"ゴレオンだ」
わざとなのか素なのか、フエゴレオンにはわからないが訂正をいれておく
すまない、と一言言うあたり素のようだ
何をしているんだ、と聞いたら魚釣りと短く答えた
「棒と糸で釣るのか?」
「釣竿って言うの、この国にはないのかな?」
バケツの中に数匹泳いでいる魚を見て、結構釣れるものなんだな、と関心した
初めて見る魚釣りというものにフエゴレオンは興味津々だった
「・・・ねぇ」
「ん?」
「これ持ってて」
渡された竿を受け取るとヤシロはフエゴレオンから離れ火をおこし始める
どうすればいいんだ、と聞いたフエゴレオンはヤシロに大人しくじっとしててとだけ返された
パチパチ、と火が燃える音が聞こえ始めた頃、竿がくいくい、と引っ張られた
「お、おいヤシロ!」
「そのままゆっくり引き上げて」
「ひきっ!?こ、こうか?」
魚に負けじと引っ張るが、フエゴレオンが力を入れ引っ張ると釣り糸に引っ張られた水面から飛び出した
「お見事」
魚に触ることも出来ず、ただ地面につかないように魚を宙に浮かべているとヤシロが魚を器用に取った
「初めて自分で釣った魚、食べてみたい?」
パチパチと音を立てる焚き火の方を指差し、ヤシロは聞く
フエゴレオンはコクリととうなづいた
***
焼けた魚を頬張り、熱々の肉に感激する
子供のように目を輝かせたフエゴレオンを見てヤシロも笑った
「魚とはこんなにも美味い物だったんだな」
「そりゃぁ、美味しいもの」
「あんなにも力強い物だったんだな」
「そりゃぁ、死にたくないもの」
死にたくない
その一言にハッとしてフエゴレオンは今食べている魚を見た
「生きてたんだ、生きてるものの命を食べるんだから美味いに決まっている」
「生きてる・・・」
「生きたかったろうに、人間の我儘で死ぬんだ、ならせめて私たちは美味しいと言いながら命を奪うのが償いだろう」
「そう言われると、随分と食とは重たいものだな」
「だから、命を頂くから、私の国では食べる前に"いただきます"って言うんだ」
両手を合わせ、いただきますと呟くと焼けた魚を取って一口食べた
「命に感謝をしているんだな」
「そうだね、命がないと生きていけない」
「この国にも食事前には神に祈りを捧げたりするが、食べ物に捧げはしないな」
「神なんて居ないものに捧げるなら奪った命に捧げなよ」
「神は信じないのか?」
「神が居るならここに私はいない」
そういう事なのだろうか
フエゴレオンは納得出来ないが、そうかとだけ応えた
「もう神への祈りは風習と言った感じだろう」
「そう」
「たが、今晩からは奪った命にも感謝したいと思う」
「・・・そう」
何となくヤシロの雰囲気が柔らかくなった気がして、フエゴレオンは嬉しくなった
トクトクと鼓動が早くなった気がして、相手は男だと首を振る
不思議そうに見てきたヤシロに咳払いを一つし、当初の目的を思い出して話を変えた
「あぁ、そういえば今日は話があってここに来たんだ」
「話?」
「まず、歳はいくつだ」
「年齢の話をしにここにわざわざ来たのか?」
「大事な話だ」
「去年15になったよ」
「そうか、ならちょうどいい、五日後迎えに行くから朝ここに居てくれ」
「は?何で」
「言ったら嫌だと断られるから言わないでおく」
「嫌だと言うと予想できる事をしようとしないでくれ」
「だが、この国・・・この場で生きていくにはこの先必要になるものをお前も持つべきだと思うんだ」
必要なもの・・・
それをあえて自身の懐からヤシロが見えるように見せるとあぁ、と理解する
理解はした
「いらない」
「そう言うな、きっとこれから必要になる」
「ならない」
「いくらお前が強いとはいえ、その剣では太刀打ち出来ない相手はこれから出てくる、殺されるぞ」
「その時はその時、甘んじて死を死を受け入れるよ」
「俺は、もっとお前と仲良くなってみたい、だから死んでほしくない」
「勝手なことを言わないでくれ!!」
先日の戦いでも思ったが、結構な激情タイプだと思った
睨む姿は怖くなく、淡々とこちらの主張を進めていくのに戸惑っているようにも見えた
未知の物を受け入れたくないと言ったいいのだろうか
魔法がなかったのならきっとその力は得体の知れない奇術なのだろう
だが、それを受け入れてもらいたいとフエゴレオンは思ったのだ
「とにかく、俺はお前が来るまで待っているからな」
「勝手にしろ」
消えかかっていた焚き火にバケツの水を掛け足で蹴散らす
そのまま釣竿を持って森へと消えていくヤシロの後ろ姿を黙って見送るフエゴレオン
来ても来なくても一日待っていよう、そう決めたのだった
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