魔法騎士団入団試験

パンパンと花火が上がる

とうとう魔法騎士団入団試験当日である

受付の時点で異邦人が受けると嫌な顔をされたが肩にしがみついているレオポルドの存在により通ることができた

受付の時にレオポルドを連れて行けという指示はフエゴレオンのものだ

差別主義の多いこの国では異邦人が魔法騎士団の試験を受けるなどということは決して受け入れないだろう

だが、王族であるレオポルドが懐いていると言うだけで充分相手を抑えることはできる

勿論それで試験での審査の目は厳しくなるだろうが、ヤシロなら大丈夫だろうと踏んでのことである

会場に入りレオポルドを控えていた女中に渡す

離れる時一言「頑張ってください」と言われ驚いたが会釈は忘れなかった

会場のなるべく端で待機しようと思ったが大量の鳥に群がられうろちょろと動き回る

そんなヤシロを見て他の試験を受ける者達は小馬鹿にするように笑った

***

「ええい!何をしているのだアイツは!!」

「姉上、落ち着いてください」

「あんな無様なところを見せられて落ち着いていられるか!何鳥相手にしどろもどろしている!!そもそも何故アンチドリが群がっているんだ!!!」


苛立ちを隠しもせずヤシロを見ているメレオレオナに、気持ちは分からないでも無いが落ち着くように宥めるフエゴレオン

その様子を王族シルヴァ家長男、ノゼル・シルヴァが訝しげに眺める

ここは各団長達とその付き人できた者達の控え室といったところだ

団長達が座る椅子から少し離れた場所に2人は立っていた

だがノゼルにはその2人が何故異邦人等に興味を抱いているのかが分からなかった

ヴァーミリオンが異邦人を目に掛けているという話は本当だったのか、とため息を付いた


「貴様等、いい加減にしろ」

「ノゼルか」

「異邦人を囲うだけでなく魔法騎士団にまで入れると言うのなら今ここであの女の息の根を止めるぞ」

「ノゼルには無理だ、止めておけ」


ノゼルの言葉にメレオレオナが返す

ノゼルは眉間のシワを濃くし、メレオレオナを睨んだ

メレオレオナはというと全く興味が無いのか餌を与え始めたヤシロにブツブツと文句を言っている


「フエゴレオン」

「ヤシロが強いのは確かだ、それにヤシロの受験は父上の意向でもある」

「なんだと?」

「あれはよそに野放しにするくらいならそれこそ囲っておいた方がいい、あぁ、でも野放しのままにした方が思う存分殺し合えるか?」

「ヤシロは基本回復魔法の使い手ですよ姉上」

「だがアイツは魔法が無くとも強い、充分殺し合える」


「殺し合いはダメです」


強い者にしか関心を持たないメレオレオナがここまで言うのだから余程強いのだろう

だが、異邦人で年下で話を聞く限り攻撃魔法もろくに使えなさそうな者にこんなに優遇していいのか

ノゼルは不満気に2人を見る

王族としての自覚が足りなさすぎる2人に苛立ちが隠せないのだ

だが、誰も異邦人など認めないだろう

そう思い一旦怒りを鎮め式が始まると呼ばれ、立った団長の後ろに直ぐにつき歩き出した

***

「よぉ、テメェが噂の異邦人さんか?」


細身の長身の男が物珍しさにヤシロに近寄る

ヤシロはその男を見て向き直る


「噂?」

「最近王貴界を騒がしてる盗賊の頭が異邦人が異邦人って話だぜ」

「それは私ではないかな」

「カカカ、別人かよ」

「だがもし私と同じ国の者がその様な不逞な行いをしているのなら殺す」

「物騒だな、なに?そう言うことしたいから魔法騎士団入んのか?」

「・・・入らないとやはり取り締まることはできないか?」

「あ?そりゃそうだろ、つかお前魔法騎士団に入るつもりじゃねぇのか?」

「まぁ、ここに居るのは理由があって、でも・・・」


バサバサバサ、とヤシロにとまっていた鳥が一斉に羽ばたいたことにより会話が途切れる

周りがざわざわとし始め、視線が上に行っているのを見てヤシロも見上げる

魔法騎士団団長が此方を見下ろしていた

フエゴレオンとメレオレオナといるのが1週間前にいきなり攻撃してきた男と気付き視線を逸らす

ヤシロは嫌われていると勘違いしているままだからか気まずいのだ

そのまま知らない団長達を流し見し、1人知っている男を見つけて視線を止めた

ユリウスだ

ユリウスはヤシロが見ていることに気づくと嬉しそうに笑顔を作り小さく手を振る

だが当の本人は後ろに知り合いでも居るのだろうかと振り返る

勿論だが誰も反応している者はいない

再び視線を戻すと悲しそうに項垂れていた


「お前団長とか知らねーだろ、説明してやろうか」

「いや、大丈夫」

「連れねー奴」


連れない、と言いながらもカカカと笑うので別に機嫌は悪くはなってはいないようだ


「そろそろ試験始まるけどよ、お前面白そうだからまた話ししようぜ」

「・・・いいのか?周りの目とか」

「ンなもん気にして面白ぇことできっかよ!」


再び愉快そうにカカカと笑う男に、この国の人間は思いの外寛大な者も多いのかもしれない


「私はヤシロだ、よろしく」

「俺はジャック・ザ リッパー、まぁ落ちねぇよう頑張んな」


差し出された掌にやはり少し戸惑うが、握り返した

***

魔法騎士団の試験が始まり数時間

箒で空を飛ぶ

ある程度の硬さのある石板を破壊する

不規則な動きで移動する紙に魔法を当てる

己の"魔"のみで何か形を創成するetc

様々な試験を終え中には既に疲れを見せている者もいる

その中涼しい顔をしているヤシロを見てノゼルは舌打ちをした

今の所ヤシロの成績は"魔"で創成する以外良好どころか今期トップの実力だ

短期間とはいえフエゴレオンやメレオレオナが稽古を付けていたのだ、何も不思議な事ではないが気に食わないのは確かだ


「気に食わないという顔だな」

「異邦人ごときに後れを取るなど情けない」

「お前も勝てるか危ういぞ?」

「巫山戯るなメレオレオナ、私があの程度の者に後れを取るなど有り得ん」

「ノゼルはまだヤシロの実力を見ていないだろう、決めつけるのはまだ早い」

「先程からそれの一点張りだな、実力も何もアンチドリを何びきも乗せてるある程度出来るだけの異邦人にこの後何が出来る」

「アンチドリに関しては俺も謎だがアイツは強い、少なくとも今期の試験を受ける者の中ではな」


あれだけの高魔力を所持しながらアンチドリが近くどころか平然と肩に頭に乗っているのは本当に謎ではある

何よりヤシロは本気を出せていない

魔力のコントロールがまだ上手く掴めていないヤシロは出す火力量が極端なのだ

以前壁を崩壊した威力を小さな石版一つに当てるとなると周りに被害が及ぶ

少量を数多くあてる、という方がコントロールは難しいのだがヤシロはそちらの方が楽なようだった


「ふん、だがどれだけ秀でていようと実戦で使い物にならなければ意味ないだろう」

「実戦なら問題ない、私と互角だ」

「・・・魔法を使わず勝ったとして、誰が受け入れるのだ」


この国では魔法が全て

魔法を使わなければ意味が無いのだ


「今から模擬戦だ、そこできちんと見定めればいい」


何処か楽しそうなフエゴレオンを横目に視線をヤシロに戻す

ヤシロは次の試験内容を行うべく戦う相手を探していた

***

「よぉ、相手はみつかったのか?」

「まだ、それどころか誰も目を合わせてくれない」

「カカカ!異邦人も大変だなぁ!じゃぁ俺と・・・」

「おい、そこの異邦人」


ジャックの言葉を遮り、怒気を孕ませ話しかけてきたのは何時ぞやに会った貴族だった

ちなみにヤシロ自身は男が貴族ということも以前会ったことがある事も知らないし覚えていない


「貴族の坊ちゃんがなんの用だ」

「平民風情が口の利き方もわからないのか」


ジャックの睨みを一瞥し、これ以上関わりたくないのか無視をしてヤシロに向き直る


「異邦人、貴様の相手をこの私がしてやろう」

「え、でもさっきジャックが」

「貴族の私の言うことが聞けないのか!」

「あ、いや、貴族とかそういうの異邦人だから分からないので仲良くしてくれそうなジャックとやりたい」

「カカカ!マジか!よし、俺と殺ろうぜ!」


2人1組になりそのまま試合の審判の元へ歩いていく2人を見ながらワナワナと怒りを露わにし男は"魔"を高めていく


「巫山戯るなー!!」


魔導書を開き魔法をヤシロとジャックの方へ乱射させる

その乱射は2人だけに留まらずその場にいた者達にも攻撃を向けていた


「おい、まだ試験は始まっていないぞ!」


審判が止めに入るが話を聞くことをせず乱射を繰り返す

フエゴレオンとメレオレオナが動こうとした所を紅蓮の団長が止めた


「無駄だ」


何が無駄なのかフエゴレオンは分からず凝視する

先に身を乗り出していたメレオレオナはククク、と小さく笑いだんだんと声を大きくしていく


「舐められたものだなぁ!ヤシロ!団長レベルの者がこの程度の攻撃避けられないとでも思ったのか!!」


巻上がる砂埃よりもっと手前側

良く目をこらすと微かに光る透明なバリアのようなものが張っている

砂埃が薄れていくと蹲る男を見下ろす影があった


「・・・」

「何だ、返事でもしたらどうだ」


バリアが薄れていき完全に無くなるとメレオレオナはヤシロに近寄りに行く

フエゴレオンは遠くからそれを眺めているがどうやらヤシロは手で口を抑えメレオレオナにもう片方の手で待ったをかける

動作から見て咳き込んでいるようだ

砂埃でも吸ったのだろう、あまりの咳き込み用にメレオレオナも背を摩っていた


「お前もバリアの中に入れば良かっただろう」

「私まで入ったら攻撃を止められないでしょう」

「で、攻撃魔法を使えないお前がどうやってあれを止めたんだ?」


蹲る男を見ると今だ顔を上げず、何なら嘔吐したような形跡もある

蹲る程では無かったが昔メレオレオナも体験した事のあるこの様に答えはなんとなく分かっていた


「あ、腹パンしました」


右手でジェスチャーをしながら「どうだ、凄いだろう」と表情を作る


「・・・応急処置でもしておけ」


担架を持ってきた魔道士にそう伝えメレオレオナは全くもってらしくない己の行いにため息をつく

だが、鳩尾に食らったあの激痛はメレオレオナとて顔を青くするのだから少しばかり同情してしまう

メレオレオナ心情を知らないフエゴレオンもノゼル達は大層驚いた

だが忘れてはいけない

ヤシロはメレオレオナの髪の毛を引っ張り連れていくという雑な扱いをしても彼女は一言も文句を言わないどころか黙って(多少語弊はある)ついて行ったのだ

まだ何か騒いでいるメレオレオナを宥めるこの女は気弱な女ではない


「これは決まりだな」


紅蓮の団長がニヤリと笑った

前へ次へ
戻る