容赦なき攻防

「結局殺れなかったじゃねーか」

「まさかあれで終わるとは思ってなかったんだよ、ゴメンね」


結果発表となり番号が呼ばれるまで待っていると既に合格したジャックが片手を上げて戻ってきた

小言を一言言うとヤシロの隣に立ち、ヤシロの番号が呼ばれるまで無駄話に鼻をさかせる


「何処に行くの?」

「蟷螂」

「蟷螂かぁ、強そうだね」

「そうかぁ?虫けらだぞ」

「虫いいじゃん、しぶとそう」

「蝿蚊と一緒にすんじゃねーよ」


軽く小突かれ少しだけ頬を緩める

ジャックも楽しそうに笑った


「次会う時は絶対勝負しろよ」

「次かぁ、次があったらね」

「あ?あんだろ、魔法騎士団に入るんだから」

「いやだから私は・・・」


話している途中で番号を呼ばれ慌てて前へと出る

冷たい視線が集中する中ヒソヒソと声が聞こえる

静粛に、という言葉で声は止まったが視線はそのままである

この試験は各団長が欲しいと思った人材に挙手することで決まる

ゆっくりと顔を上げ挙手している団長を確認するとただ黙って見つめてくる紅蓮の団長と対照的ににこやかに手を振っているユリウスだった

魔法騎士団で昨年1位を取った紅蓮の獅子王と時期魔法帝と謳われるユリウス率いる灰色の幻鹿

周りから歓声が上がる


「・・・これ、どうすればいいの?」

「あ?聞いてなかったのかよ、選べ」


近くまで様子を見に来てくれていたジャックに質問し、あまりにも適当な返しが来たから、という訳では無いのだがヤシロは困った顔をする

紅蓮の団長とユリウスを交互に見てから「質問いいですか」と挙手をした

それを快諾するとユリウスは「なんだい?」と首をかしげた


「この場合団長方が挙手した時点で合格となるのでしょうか?」

「え?うーん?うん、そうだね!君は合格だ!」

「そうですか、ありがとうございます」


ユリウスに頭を下げると紅蓮の獅子王の方に体をむけるので予想通りとはいえユリウスは落胆する

ヤシロはきっと紅蓮の獅子王に入るのだろう

ヴァーミリオンの3人もどことなく嬉しそうである

ヤシロは黙って頭を下げると下げたまま口を開いた


「大変お世話になりました!本日をもってお屋敷の方からは出ていきます!あと魔法騎士団には入りません!森に帰ります!長い間お世話になりました!」


久々にヤシロの大きな声を聞いた、等と笑っていられる事態ではなかった

目を見開く団長に顔をゆがめるメレオレオナ

フエゴレオンは魔導書を開くと拘束魔法でヤシロを拘束した


「落ち着けヤシロ」

「1番落ち着かないといけないのはフエゴレオンだろう」

「いや、大丈夫だ、俺は落ち着いている」

「落ち着いてたらこんなことしない」

「お前が変なことを言うからだろう」

「よし、そのままにしていろフエゴレオン」


ボォッと拳に炎を灯しヤシロに殴りかかろうとするメレオレオナを紅蓮の団長が止める

メレオレオナ曰く殴って記憶を消して入団させるらしい


「こえーな、王族」

「そこで笑い転げてる暇あるなら抜け出すの手伝ってよ」

「おもしれーからやだ」

「使えない」


自力で抜け出そうと試みるが猫の手を模したような拘束魔法はきつく抜け出せないで

あの顔でこんな可愛い魔法使うとか何なんだよと心の中で悪態つきながらフエゴレオンを睨んだ


「猫の手みたいな可愛い見た目のくせに抜けにくい魔法使ってさ、いい加減離してよ」

「猫ではない獅子だ!!話して欲しければ紅蓮の獅子王に入れ」

「いやだ」


猫基獅子の手がヤシロを逃がさないようにと強く捕まえる

待機させていた侍女からレオポルドを渡してもらいヤシロに預ける

状況はよく分かっていなかったようだがフエゴレオンの「居なくならないよう一緒にいてあげろ」でレオポルドはコクンとうなづいてヤシロの服の裾を掴んだ

そこで漸く魔法を解いてフエゴレオンが戻っていく

その様子を眺めながら近づいてきたジャックはやはりまだ笑っていた


「めちゃくちゃ執着されてんじゃねえか、女の方は拳構えてたぜ」

「何をそんなに構う理由があるのか分からない」

「俺としては王族がここまで執着するってだけでスゲェ気になるけどな」


ずい、と顔を近づけてきたジャックの顎に炎の玉が激突する

「いつい」と熱いと痛いが合わさった謎の単語を吐きながら元凶のレオポルドを睨むとレオポルドも負けじと睨んでいた

ヤシロの手助けながらよじ登り抱っこの形になるとヤシロの頬に頭を押し付け、だがやはりジャックは睨んだままである


「ヤシロは紅蓮の獅子王だからダメだ!!」

「んだとゴラァ餓鬼!!」

「ジャックごめんって落ち着いて!」


謝りなさい、と怒るヤシロに「悪くない」の一点張りでジャックを睨みつける

もう一度名を呼ぶとギューッとヤシロにしがみついている手を強く握り口を開いた


「コイツがヤシロを連れていくから一緒に居ろと言ったのだろう」

「は?」

「ヤシロは父上達の団に入るのだからお前とはどこにも行かないんだからな!!ヤシロは一緒に帰るんだ!!」


そうか、このガキも王族か

見ず知らずの男、しかも自他ともに認める怖めの顔つきの為かレオポルドは既に涙を目に溜めている

王族との間に何があったかは知らないがここまで執着されるヤシロという人間に興味を持った

やはりここは何処でもいいから魔法騎士団に入ってもらい戦場で出会いたいものである


「悪かった、連れていかねーよ」


両手を上げて降参のポーズを取りながらなんと言ってヤシロを魔法騎士団に入れさせようか考えていると・・・


「レオポルド、私は魔法騎士団に入らないし一緒に帰らないからそろそろ降りてくれないか?」


容赦ないヤシロの言葉にレオポルドは大泣きした

***

試験も終わり、ヤシロとレオポルドの居る所に急いで向かっているとレオポルドの泣き声が聞こえてくる

慌てて声の方に行くとなんとも言えぬ状況につい身を隠してしまった


「おい、何をしている」

「あ、姉上・・・少し状況整理を」


後ろに着いてきていたメレオレオナは訝しげにフエゴレオンを見ていた

サッと状況を説明すると、何故か大泣きのレオポルドが何故か正座しているヤシロをポカポカ叩き、何故か試験中何かとヤシロを気にかけていた男に怒鳴られている感じである

本当に何があったのだろうか

有難いことに男、ジャックの声は大きかったので聞き取ることは容易かった


「ギャン泣きじゃねぇか!」

「だが事実を言わないと後が辛いだろう」

「事実にするなよ!魔法騎士団に入って一緒に帰ってやれよ!!」

「変に希望を与えるよりはいい」

「うわあああ!ヤシロのばかあああ!!」


心底ジャックに同情する

真顔で居なくなろうとするヤシロを止めながらお前のせいだと叫んでくるレオポルドを宥める

周りからの視線に耐えられないのか「保護者ぁ!!」と叫んでいた

正直出づらい

フエゴレオンが様子を眺めているとメレオレオナがしびれを切らし3人の元へ行く


「何をしている」

「メレさん」

「あねうえええ」


先程騒いでいた王族だと気づきジャックは大きなため息を吐く

仕方なく後ろから続いたフエゴレオンをみてレオポルドは大泣きしながら「あにうえええ」と駆け寄って行った


「ヤシロが!!出ていくと言うのです!!レオはダメだって言ったのに!!ダメなのに!!」

「メレさん言ってなかったんですか?」

「魔法騎士団入れば会える頻度などあまり変わらんだろ」

「入らないですけどね」

「入れ莫迦者 」


俺そろそろ行くからな、と一声掛けて居なくなるジャックにまだいて欲しい気持ちが無くもないが、彼にも彼でこれから魔法騎士団アジトへ向かわないといけないのだ

ヤシロはそれ所ではないのだろうが、メレオレオナに抑えられながら手を上げるあたり律儀ではある


「あーいたいた!」

「ユリウス殿!」

「いやー、どういう状況?あ!ヤシロ!さっき目が合ったから手を振ったのに後ろ向くなんて酷いじゃないか!」

「すみません、私ではないかと思って・・・ユリウスさんは何故こちらに?」

「ほら、ヤシロは保留なんだろ?なら同じく手を挙げた私の所に来ても可笑しくないはずだよ」

「ヤシロは我々紅蓮の獅子王が貰い受ける」


何時ぞやで見せた火花がまた散り始める

気づけば隣にいたフエゴレオンが困ったような表情をしていた

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったレオポルドの顔を拭いてやり、抱き上げる

小さくヤシロを呼び、近づいたヤシロの服をギュッと握った


「そもそも何故そこまで頑なに嫌がるんだ」

「これ以上お前達の世話にはなれないだろう、今まで世話になった分だけでなく仕事まで見てもらうなんて」

「別に獅子王団に入ってまで面倒を見る訳では無い、今目の前に入れる仕事があるなら入っていいと思うが」

「だが・・・」


うーん、と悩み出すが一向に首は縦に振らない

ヤシロからしてみればこれ以上世話にはなりたくないのが本音なのだ


「とにかくだ、どういう仕事なのかまず聞いてくれ、その上でやりたくないというのなら俺は本当に無理強いはしない」

「・・・話を聞くだけなら」

「よし、ならまず父上の所に行こう」


一先ず納得してくれたヤシロの腕をとり歩き出す

ユリウスの相手はメレオレオナに任せよう

ヤシロが一緒に来ると分かったレオポルドは嬉しそうに笑った

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