文化の違いは大きい

どんな任務にも必ず報告書を書かねばならない

それがヤシロに1番の難色を示していた

フエゴレオンが少しずつであるが文字を教えてもずっと付きっきりという訳にはいかない

フエゴレオンに教えられた言葉を思い出しながら報告書に向かうが一向に書き終える気配はない

任務よりもこっちの方が難しいじゃないかとため息をつく

行き詰まった所でドアのノック音が聞こえた

返事をして扉を開けに行くとそこに居たのは初めて会う女性

誰だろうと首を傾げた


「私はテレジア、アンタがフエゴレオンが言っていたヤシロって子かい?」

「ヤシロは私ですけど・・・何故?」

「まだ文字の読み書きが出来ないから様子を見て欲しいって頼まれたんだよ」

「ありがとうございます」


テレジアを中に入れると早速件の報告書をみてもらう

フエゴレオンの教え方がいいのかある程度は書き終わっているが所々分からない言葉や文法があり穴あき状態だ

別の用紙にテレジアの見たことの無い言葉で何か書いてあるのを見るに日ノ国の言葉で一度書いたあと分からないところを聞こうとしていたのだろう

かなりのスペルミスも気になるがそれも直していけば問題ないはずだ


「よし、じゃあさっさとやってしまおうかね」


テレジアがそう言って笑うとヤシロもうなづいてペンを持った

***

書き直しでぐちゃぐちゃになった紙を新しいのに変え清書し、後は団長に提出すれば終わり、という所までできた

物覚えはいいようだったのでテレジアも時間が空いている時は文字を教えるとにこやかに伝え、そして今日2人とも時間があるのでそのまま勉強に付き合ってくれることになった

一度一服でもしようとヤシロがお茶と茶菓子を用意する


「このお茶は不思議だね、苦味の中に仄かな甘味を感じる、それに緑色だ」

「フエゴレオンも美味しいって言ってくれたんですよ」

「フエ坊がねぇ・・・何処で買ったんだい?」

「茶葉だけ買って作ったんです、まだあるので差し上げますよ」

「作った?本当かい?」


そんな雑談をしているとふと、部屋の隅に干してある洗濯物に気づく

自分でやっているのか、と余りみないようにしたがふとある物が無いことに気づいた

フエゴレオンも出入りするようだし気を使って隠しているのかと思いもしたがその場合洗濯物その物を別の場所に干すだろう


「ヤシロ、こんなこと聞くのもあれだけどアンタ下着は干さないのかい?」

「・・・下着?」

「ショーツとかブラジャーだよ」

「しょーつ、ぶらじゃぁ」


首を傾げたヤシロをみてテレジアは固まる

そういえば男女共に風呂に入っても平気な文化を持っているとフエゴレオンが言っていた


「ヤシロ、服の下に何か着ているかい?」

「服?いえ、これだけですよ?」


フエゴレオンもメレオレオナも余りにも常識的過ぎて気にもとめてなかったのだろう

そして自分のことは自分でやっていたから誰も気づかなかった

そう、文化の違い、仕方がないこと

テレジアはそう判断し立ち上がった


「ヤシロは文字より先に知らないといけないことが山ほどありそうだね」

「え?そうなんですか?」

「とにかく買い物に行くよ!」

「え、はい、えぇ?」


何を買うのか分からないがテレジアに引っ張られ部屋を出る

丁度会ったフエゴレオンが何事かと聞き、買い物と知ったら共に行くと着いてきた


「時間大丈夫なの?」

「あぁ、今日は休みだ」

「先に言っとくけど着いて行っても楽しくないと思うよ」

「荷物持ちに男手が増えたと思ってくれ、その代わり今度屋敷に来い、レオポルドが会いたがっている」

「まだ1ヶ月も経ってないよ?」

「1週間は経っただろ?」


元々ヤシロを誘いに来たのだからこのまま着いていった方がいいと判断したのだが、それが間違いだったと認識するの目的の店にたどり着いてからだった

***

「て、テレジア!聞いてないぞ!こ、こんな!」

「だからつまらないっていっただろう?」


顔を真っ赤にして店の前で狼狽えているフエゴレオンを他所に窓ガラスから見える商品をみてヤシロはテレジアに声をかけた


「テレジアさん、あれって水着ですよね?」

「何で下着を知らないで水着は知っているんだい」

「メレさんが前に持ってきました・・・にしても服の下に水着を着ると下着になるんですか?」

「水着と下着は素材が違うんだよ、兎に角こっちにおいで」


テレジアに引っ張られ中へと連れていかれるヤシロを見送り店の外でフエゴレオンはため息を吐いた

***

女の買い物は長いと言うが下着の一つや二つ買うのに30分もかかるとは全く思っていなかった

ぐったりとした様子のヤシロを見ると文句を言うことが出来なくぐっと押し黙る

そもそも着いていく言ったのは自分なのだ

次は服だね、と歩き出したテレジアを見てそう言えばヤシロは何時も同じ服だと思い出した

洗濯をしていない、という訳ではなくただ同じ服を着まわしているという意味だ

だが女人にそれは余りにも辛いものだろう

気づけなかった自分が恥ずかしい

フエゴレオンはヤシロを支え直し何かプレゼントしてやろうと意気込む


「何か好みの物はないのか?」

「そうだなぁ、帯が矢絣柄だといいな」


帯とはなんだ矢絣柄とはなんだ

いきなり出鼻をくじかれた

その上布屋は何処にあるのかと聞き始めたのだから頭が痛い

テレジアもフエゴレオンと同じことを思ったのだろう、久々に困ったような表情をしていた


「ヤシロ、アンタは自分で服を作るのかい?」

「日ノ国ではそうでしたよ、この国は作られたものが売られているのですか?」

「よし分かった、文化の違いだな」


風呂を共に入るぐらい衝撃的な事はない

大丈夫、受け入れられるぞ

深呼吸しながらフエゴレオンは自身を落ち着かせる

ヤシロはこの国では衣服は作られて状態で売られている事を伝え、服屋へと移動した


「何が良いのか分からないからこの服と似たのでいいですよね」

「ダメだよ、私が選んでやるからこっちへ来な」


肩を捕まれ再びテレジアに連れていかれるヤシロに手を振りながら小物用品の方へ向かう

ヤシロには自分達のワガママで共に行動して貰っているのだ、何か礼を・・・

そう思いながら小物を吟味すべく手を取った

***

ヤシロの部屋まで荷物を運び、団長が戻っていると聞いたのでフエゴレオンと二人で報告書を提出しに行く

それも無事に終え、今日はもう休もうと部屋に戻る時フエゴレオンに呼び止められた


「これを」

「?」

「まぁ、日頃の礼だ、受け取って欲しい」

「礼をされる事なんて何も・・・それに礼を言うのは私の方だ」

「だがこれは女物だからヤシロが受け取ってくれないと捨てるしかなくなるんだ」


だから貰ってくれ、と押し付けられ包を受け取る

開けてみろと嬉しそうな顔を見せるのでヤシロは封を開け中身を取り出した


「綺麗・・・」


袋から出てきたのは櫛と手鏡だ

持ち手は装飾品で彩られた紅色のそれに見とれてしまう


「女性だしよく使うだろう?今は使用人達が貸しているそうだがこういうのは自分のがあった方が・・・どうした?」


いきなり顔が赤くなったヤシロに驚き話を止めて顔を覗き込むと、ヤシロの視線が右往左往とフエゴレオンを見ないようにしている

気に入らなかったのだろうか、綺麗と言っていたのに

不安になり手を差し伸べがするりと躱され距離を取られる


「と、とても嬉しい!ありがとう!」

「なら何故距離をとる!?」

「気のせいだ!!」


気のせいと言いながらじわじわと離れていくヤシロに若干傷つくが様子からして嫌われてはいないはず


「とても嬉しいのだがあまり日ノ国の人間に無闇矢鱈と櫛は渡さない方がいいぞ!!私ですら他意はないと分かっていてもこうなのだから勘違いされる!!」

「他意?何の話だ?」

「いいから!!もう私は寝る!!おやすみ!!」


慌ただしく廊下を駆けていくヤシロを呆然と見ながら、でもきちんと受け取ってくれたと安堵する

きっとこの先も日ノ国の人間に贈り物はヤシロ意外に居ないと思うが次渡す時は別なものをあげよう

それにしてもまだ日が暮れたばかりなのに寝るのだろうか

寝るのが早いな、と思いながらフエゴレオンはその場を後にした

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