少女誘拐事件

「今日は私と城下町の見回りだ、よろしく頼んだぞ」

「フエゴレオンとの任務は実は初めてだよね、よろしく」

「最近この近辺で女性の行方不明者が多発している、その警戒が今日の任務だ」

「行方不明・・・」


そんな会話をしながら街を歩いていく

色んな者がフエゴレオンに挨拶をしていく様子を見て慕われているのだと実感する

そんな様子でフエゴレオンが足止めされているのを遠目で見ながら周りを見渡しているとふとボーッとしながら歩いている少女が目に入った

虚ろな目でフラフラとしながら路地裏に入っていく姿は異様なものに見える


「フエゴレオンっ」


追いかけようとフエゴレオンを呼ぶが未だ足止めされている様子のフエゴレオンに舌打ちを零した

あの集団の中フエゴレオンの元に行くのは難しい

ヤシロが右腕を真っ直ぐ伸ばすと鴉が飛び乗った


「あの女性を追いかける、フエゴレオンを連れてきてくれ」


カァ

まるで言葉がわかったかのように返事をすると鴉はヤシロの腕から飛び立つ

真っ直ぐフエゴレオンの方へ飛んだと思うとヤシロは振り返り不審な動きの少女の方へ走り出した

***

「すみません、少しよろしいですか?」


少女に追いつき肩を掴んで声をかけるがヤシロに気づいた様子は無くそのまま何処かへ行こうとする

明らかにおかしい

すみません!ともう一度大きな声を出すがピクリとも反応がない

原因はなんなのか探ろうと少女の周りを見てみると真っ直ぐ伸びた複数の線・・・糸だ

糸が少女に絡みついている

魔導書を開き愛刀・椿丸を抜くと糸を切った

とたん、かくんと力が抜けた少女を抱きかかえゆっくりと覚醒していくその人に声をかける

少女は最初異邦人であるヤシロに驚き突き飛ばしたが、今自分がいる場所が全く知らない場所であることと、少女曰く意識が途切れる前まで一緒にいた男が居ないことに気づき冷静になってくれた


「その男とは一体何を・・・?」

「道を聞かれただけよ、なのになんでこんな所に」


怯えだした少女の背を擦りながらとにかく路地から出ようと提案し大通りの方へ歩き出す


「させないよ」


楽しげに笑う不気味な声が聞こえた

***

「いっ、何だ?鴉?」


カァ、と鳴く鴉がフエゴレオンの頭を啄く

鴉は先程までいたヤシロの方へ少し移動するとくるりと回った

ヤシロがいない

しまった、はぐれてしまったと群衆から離れヤシロのいた場所へ走った

カァ

バサバサと羽を羽ばたかせヤシロの走った方へ飛んでいけばフエゴレオンはじっと鴉を見つめた


「案内してくれるのか」


カァ

この鴉はやはり人の言葉が分かるのだろうか

とにかく今は合流しないといけない

フエゴレオンは鴉を信じて飛んでいった方へ走っていった

***

ある路地裏で鴉が留まり覗くと光る渦のようなもので出来た球体の中で尻餅を着いている少女がいる

少女は涙を流しながら助けてと何度も言うだけで酷く脅えている様にも見える


「何があった!!」


フエゴレオンが声を掛けたとで漸くフエゴレオンの存在に気づいた少女はなんとか言葉を紡いだ

意識のない少女を追いかけ助けようとしてくれた魔法騎士団の人が糸に絡まり壁の向こうへと居なくなってしまったという

魔法騎士団の人というのはヤシロの事だろう

壁の向こうと聞いて壁に触れてみたがすり抜けることは出来ない

空間魔法か何かで連れていかれたのだろうか

この少女を護るように張られている防御魔法は恐らくヤシロのだ

まずは壁を壊してみるかと魔導書を開く

すると壁から1人飛び出してきた


「!?」


飛び出てきたものを受け止め確認すると意識のない女だった

最近騒がれている女性の行方不明

もしやこれは・・・


「こちらフエゴレオン、応答を願います」


通信魔道具を使い魔法騎士団本部へと連絡を入れる

その間にも壁の中から人がポンポンと出てきた

***

「なんなんだいったい」


不気味な声と共に絡まってきた糸に取り込まれ壁へ引き摺り込まれたのは覚えている

共に居た少女は魔法で護れたのだろう、ここにはいなかった

連れてこられた黒い空間の中には糸に巻かれ意識を失っている女性達が沢山いる

ヤシロの体も糸に巻かれようとしていたので刀で斬っておいた

刀で糸が斬れるのを確認すれば後は女性達に巻きついている糸を斬ればいい

一番近くにいた人の糸を全て斬ったらパッとその人も消えた

糸が斬れるとあの路地裏、もしくは元いた場所に戻るのかもしれない

自分はまだ絡まっていないから戻ることは出来ないようだが条件は分かった

ざっと数えて30人あまりの女性達をとにかくここから出してしまおう

そう思い刀を振り下ろす


「させないよ」


先程と同じ声だ

糸がヤシロに絡みつこうとしてきたので魔導書を開き渦上の光で防御する

"光渦の衛鞠"

先程の女性にも使ったものだ

光渦の衛鞠を眠っている女性達にも使い傷がつかないようにする


「なんで邪魔をするんだい」

「魔法騎士団だからだよ」

「異邦人なのにおかしな事を言うね」

「異邦人でも魔法騎士団だ」


パラパラと魔導書が捲られまた魔法を繰り出す

"光風乱舞"

光る小さな刃が女性達に絡みつく糸を切り裂いていく

それを止めることは光渦の衛鞠によってできない


「随分と魔力コントロールが上手いんだね」

「これぐらいの人数しか出来ないから上手ではないよ」


腹立たしい異邦人だ

どこにあるのかも分からないくらいの細さの糸を簡単に避ける洞察力と身のこなしだ、謙遜にも程があるだろう

だがこの暗い世界では無闇矢鱈と動くことは出来ないはずだ・・・


「まずは明るくしてしまおうか」


パッ、と急に視界が明るくなり思わず目を閉じる

と、同時に腹部に痛みを感じ胃液が口から出る


「このまま気絶しておけば手荒な真似はしないよ」


死にたくは無いだろう

薄れ行く意識の中不気味に笑うその姿は恐ろしく見えた

***

カタカタと震える糸魔法の魔道士を引き擦りながらタイミングよく出てきた空間魔法の出口から出ると安心したようにフエゴレオンが出迎えてくれた

どうやら空間魔法の魔導師はフエゴレオンが倒したらしい

他属性の魔法と複合することで空間魔法の魔導師が倒されても連れ込んだ女性達を開放出来ないようにしていたらしいがヤシロが乗り込んだことにより失敗に終わった

今まで攫ってきた女性達は裏で人身売買されてしまい、今から魔法騎士団の本部で取調べが行われるらしい

もうヤシロとフエゴレオンに出来ることは何も無い

救い出した女性達に感謝されているフエゴレオンを遠目に見ながら漸く安堵の息を吐いた


「あ、あの・・・」


ヤシロが触れることは嫌がるだろうからと他の団員に任せていたのが悪かったのだろうか

級に声をかけられ肩をビクッと震わせる


「・・・何か」

「さっきはありがとうございましたっ!」


ばっ、と頭を下げられ困惑してしまう

あぁ、そういえばこの子は一番最初に追いかけた子だ

異邦人に声をかけるなんて怖いだろうにきちんと礼を言うなんてなんていい子だろうか


「怪我はない?」

「は、はい」

「ならよかった」


安心したように笑ったヤシロをみて少女は顔を紅く染める

具合でも悪いのだろうかと聞いたらブンブンと勢いよく顔を横に振られた


「ヤシロ」

「はーい」


フエゴレオンに呼ばれ少女に他の魔法騎士の方に行くよう促し駆け出す

少女は小さく声を漏らすがぐっ、と言葉を飲み込んだ

だがその漏らした声はヤシロに聞こえたようで振り返った


「あ、あのっ」

「ん?」

「お名前は、その・・・」

「私の?」

「はいっ」


手をもじもじさせ視線をウロウロとさ迷わせる少女に怖いなら聞かなければいいのにと思いながら律儀な子だなぁとヤシロは苦笑いを零す


「ヒノワ・ヤシロ」

「っ!!」

「じゃぁ、そろそろ行くね」


フエゴレオンに駆け寄るヤシロの後ろ姿を呆然と眺める少女

その頬は紅に染まったままだ


「ヒノワ・・・ヤシロ、様」


少女、リリー・アクアリア

生まれて初めての感情に困惑するばかりだった

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