魔導書授与式
詳しく時間は決めていなかったが、朝早くに来て居なかったから帰った等と言われては困るので日が昇る前から指定の場所に来ていた
これで来なかったらまた来年、今度は無理矢理連れいけば良いと思った
ゆくゆくは魔法騎士団に入団し、共に戦ってほしいものだが、と考えた所でフエゴレオンは頭を振った
そこまで望むのはあまりにも貪欲すぎる
ヤシロは異国人で、どこの国にも属していないのだからフエゴレオンと共に魔法騎士団に入る必要などないのに
自嘲気味に笑いながらヤシロを待つ
既に3時間は経っていた
そろそろ来てもらわないと間に合わないが、まぁこの際来てくれればそれでいい
懐から懐中時計を取り出し時間を確認すると後ろから木の枝が折れる音がした
「ヤシロ!・・・!?」
ヤシロが来た
そう思い振り返ると確かにヤシロがいた
そしてもう一人、思いもよらない人物がヤシロを脇に抱えて立っていたのだ
「フエゴレオンか?」
「姉上!?」
何故ヤシロと居るのか
何故ヤシロと待ち合わせているのか
兄弟だからなのかなんなのか、理由は分からないが目的は同じだと察した二人はただ黙って歩き出した
「二人は知り合いですか?」
「弟だ」
「姉だ」
「わぁ、息ピッタリ」
ヤシロは元々ここに来るつもりはなかった
ただ、待っていると言われた手前行かなければずっと待っていそうだと思いもう一度断るために行くか悩んでいたのだ
その時勢いよく部屋の扉が開き、メレオレオナが入ってくる
一言二言話すとそのまま担がれた
どこかに連れていこうとするメレオレオナに、待ち合わせがあるから一緒に行けないといったのだが、ならそれを断りに行こうとなり、連れてこられたのだ
姉弟だという二人に驚きつつも確かに似てるなの納得する
「何の待ち合わせだ?」
「ヤシロを授与式に連れていこうと思いまして」
「なら私と同じだな、なんだヤシロ、やはり魔導書が欲しかったか」
「いらないです下ろしてください!」
「暴れるな落とすぞ」
「ええ是非落としてください!」
暴れ出すヤシロを抱え直しメレオレオナは箒に跨る
それを見てフエゴレオンも箒を手に取った
「ヤシロは箒にまだ乗れないか?」
「今度指導してやろうと思う」
「遠慮します」
「遠慮するような間柄ではないだろう!行くぞ!」
急に上がった箒に驚きメレオレオナにしがみつくとメレオレオナは満足げに笑い、そしてスピードを上げる
その斜め横を置いていかれないように追いかけるフエゴレオンの耳に入ったのはヤシロの小さな悲鳴
注意深く聞かなければ気づかないだろうそれに、フエゴレオンはもう少しの辛抱だと心の中で応援した
***
魔導書授与式の行われる会場に着くと、ヤシロは腰を抜かしたのかへたり込む
情けないと言うメレオレオナに睨みながら(若干涙目ではある)「母国には空を飛ぶなんてことなかったんだ、仕方ないでしょう」と反論する様子をみて怖いもの知らずというのだろうかと冷や汗をかいていた
何とか立ち上がったヤシロを支えてやろうと手を伸ばす
「で、ここで何をするんですか?まさかここで魔導書ってのを?」
キョロキョロと当たりを見渡すヤシロ
本が壁の棚に敷き詰まっているように見える
ここが魔導書とやらを受け取る所なのだろうか
もっと偉い人みたいなのが配るものだと思っていた
予想とはまったく違う様子に驚きつつも、ヤシロは周りの視線を鬱陶しく思う
異邦人と王族が共にいるだけでも異様だろうに、自国のテリトリーにいるのだから不快に思うだろう
ヤシロ自身、同じことが起こったら・・・と考え止める
日ノ国で仕えていた頃の主はむしろここに連れてきた王族タイプだからきっとどこに居ても奇異に見られる側だ
一気に疲れが襲ってきてため息をついた
「大丈夫か?」
「早く帰りたい」
「そういうな、ここまで来たら貰っていけ」
損する物でもない
隣を陣取るフエゴレオンが近すぎると感じたが、逆側の隣にいるメレオレオナにぶつかる為離れられない
王族のパーソナルスペースはこんなにも近いのか
居心地の悪いまま、天井から絨毯のようなもので降りてきた老人が淡々と魔導書授与式を初めて行く
「魔導書授与!」
その言葉を合図に本棚の所々が光りだし、勝手に棚から出てくると授与されるだろう者達の元へ飛んでいく
その様子に呆気に取られている間に、授与式が終わる
ヤシロに魔導書が来ることは無かった
「・・・何故だ?」
「別にヤシロに"魔"が無い訳では無いのだが・・・」
「私クローバーの人間じゃないからじゃないの?帰っていい?」
「いや、お前はとりあえずこの後我が屋敷に行きレオポルドと遊ぶという仕事があるからダメだ」
「勝手に私の予定決めないでください」
二人の間から抜けて出口へと向かう
少しヤシロが離れて直ぐ、雷のような弾丸がヤシロに向かって行くのが見えフエゴレオンが手を伸ばす
ドゴン、という音がし、土煙がたった
「メレオレオナ様!フエゴレオン様!目をお覚ましください!何故あのような異邦人を気にかけるのですか!!」
恐らくヤシロに攻撃を仕掛けただろう男が二人の前に立つ
貴族の中でも上位にいる所の長男だった気がする
他に居た面々もそうだそうだとヤシロを批難し始めるが、メレオレオナは興味無さそうにしていた
異国の者がここに居ただけでこの対応
フエゴレオンは少しばかり悲しくなる
「メレオレオナ様!!」
「アレくらいのことでヤシロが傷を負うはずないだろう、文句を言うならあれに怪我の一つでも負わせてから言え」
メレオレオナの冷たい視線に貴族の男は言葉を飲み込むも、何とか吐き出す
「あんな魔導書も手にすることの出来なかった者に何故そんなに執着を!!」
「お前達は知らないだろうが、あの者は面白いぞ」
そう言ったのはメレオレオナではなくフエゴレオンだった
さてと、もしかしたら衝撃で気を失っているかもしれない
まだたつ土煙の近くまで歩き、ヤシロが居るだろうそこを見るが、誰も居なかった
「・・・ん?」
「・・・おい貴様、ヤシロを何処にやった」
雷を帯びていた様だったが、もしや空間魔法の使い手だったのか・・・
授与されたばかりだからと油断した
舌打ちをしつつメレオレオナが魔導書を構える
流石にそれはやり過ぎだ
フエゴレオンが止めに入ろうとした、が・・・
「はいはい、レオくん待ってるんですよね?行きますよー」
メレオレオナを止めたのは居なくなったと思ったヤシロだった
ヤシロはメレオレオナの髪を躊躇無く引っ張り出口へと向かっていく
その姿を呆然と眺めるフエゴレオン他その場にいた面々
フエゴレオンが我に返り二人を追いかける姿に、貴族の男は顔を歪ませる
「なんて非礼な・・・」
既にヤシロはいなくなった出口をまるで射殺さんばかりに睨む姿に、気づくものは誰も居なかった
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