何も無い魔導書
フエゴレオンが目を覚ますと既に魔宮内のようで、そこかしこで"魔"が漲っていた
腕の中を確認すると魔宮の中へ入る前に庇ったはずのヤシロが居らず、慌てて辺りを探す
暗くて何も見えない
炎を掌から出し、辺りを見渡す
洞窟のようになっているようで、よくよく見ると壁に家具等が埋まっている
本当にヤシロが住んでいたようだが・・・
立ち上がると自分の体から何か落ちた感覚がし、足元を見るとチェス盤のような柄の羽織があった
ヤシロのものだ
先に起きたのか元々無事だったのか
まずは探そう、とフエゴレオンが炎を灯したまま立ち上がる
「っ、」
勢いよく振り返り、真っ暗な空洞を見つめる
殺意にも似た禍々しい"魔"に息が詰まりそうになった
この家は何なんだ
魔導書を手に取り警戒を強める
「あぁ、起きた?」
「うわぁ!?」
突如背後から聞こえた声に悲鳴を上げ振り返る
驚いた顔のヤシロがいた
「ヤシロ・・・」
「私を庇って気を失ったから・・・気分はどうだ?」
「・・・声を上げた分スッキリした」
咳払いを一つし、ヤシロの持っている灯りに目をやる
「それはどこから?」
「埋まっていたのを引っ張った、火をつけるものは元々持っていたから、何とかなったよ」
ゆらゆらと揺れる灯を見せながら、ヤシロは奥へ行こうと促す
背後から感じた禍々しい"魔"は無くなっていた
***
「何もないね」
前を歩くヤシロの後ろに着いて行きながら、フエゴレオンは顔を顰める
おかしい、先程まで禍々しい限りの"魔"を感じていたはずなのに
歩みを進めながら疑念を抱きつつ、せめて直ぐにヤシロを庇えるようにと距離を縮めるが、何分ヤシロが歩くのが早く、距離が出てくる
負けじと足を早めるが、そうするとヤシロも早くなる
これはおかしい
試しに走ってヤシロの隣までいくと、スピードを上げて走り出した
「おい!待て!」
「嫌だ!」
追いかけるが、相手が早く追いつかない
こんな岩肌のある道ですら身軽に走るのだから日ノ国はきっと洞窟の中にあるに違いない
とにかく追いつこうと必死に走ると、ヤシロが不意に止まった
行き止まりだった
「行き止まりか・・・」
「引き返す?」
ヤシロが岩肌に手をつけているのを横目に、岩に何か細工がないかとフエゴレオンも両手を岩肌につけた
すると岩肌の割れ目が光りだし、ボロボロと崩れていく
驚き手を離したヤシロと、このままでは危険だ、とヤシロに向けて手をヤシロに向けた時だ
何処から出たのかわからないが、先程ヤシロをこの中に引きずり込んだものと同じ蔓のようなものが、体に巻き付き下へと落とされる
「!?」
落ちるフエゴレオンに驚くが、ヤシロ自身も蔓に巻き付かれ、その場から動けないでいた
足場の無くなった場所から、先程まで岩のあった所の奥へと連れていかれる
光る何かに目を細め、敵か、と刀に手をやる
「・・・本?」
光がヤシロの目の前まで浮かんでくると、みるみるうちに本の形になる
つい数時間前まで、自身が貰えなかった魔導書が、そこにある
その魔導書の表紙にも、背表紙にも、模様もクローバーのマークも、何も無かった
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