光り輝く女
魔導書を開くが"魔"が宿ることはない
自身に対しての焦りとヤシロと離れたことによる心配がフエゴレオンを襲った
何とか合流しないといけない、と上へと続く道を探した
"穢らわしい人間が愛し子に触れるな"
まるで何百年も生きているような老婆の声にフエゴレオンは足を止める
これも魔宮の一部なのか
どんなに探っても人の気配も"魔"もない
あるのはヤシロと先程会うまで感じていた禍々しい魔宮から発せられる"魔"だ
愛し子とはヤシロの事なのか、ならヤシロが日ノ国出身というのは嘘なのか
疑問だらけだが、フエゴレオンは兎に角この状況を打破するべく声を荒らげた
「ヤシロは何処だ!!愛し子とはヤシロの事なのか!?」
返事はない
その代わりにとフエゴレオンの足元が揺れ、地面が割れ、また、盛り上がる
割れた先は見えないし、盛り上がった所は上を貫く
魔導書が使えない今、己の身体能力のみでこれを回避しないといけないのだから、必死である
外にいるだろう姉や弟、先に来ていた魔法騎士は無事だろうか
姉はもしかしたら中に入ってきているかもしれない
戦うことが好きなメレオレオナのことを考え、また不安になる
あの姉が魔宮なんかで簡単にやられるとは思わないが、今回のは他の魔宮と訳が違う
そう考え事をしていると、横から突き出てきた岩に気づくことが出来なかった
先端は鋭くなっている、当たったら致命傷は免れない
ぎゅ、と目を瞑った
「当たってないか?」
襟首を何かに捕まれ、攻撃を免れたらしい
そっと目を開けるとはぐれたはずのヤシロがいた
「何故ここに・・・」
「これ、勝手に光って勝手に案内してくれた」
何も描かれていない真っ白の魔導書を見たヤシロ
ヤシロの周りには一匹の光る天道虫が飛んでいた
フエゴレオンの周りを一周したら、役目を果たしたかのように消えていく
「魔導書・・・持ってんじゃないか」
「いや、さっき見つけた」
見つけたばかりで魔導書が使えたことも、そもそもこの中で使えたことも謎だが、ヤシロと合流出来たのならとにかく出よう
フエゴレオンはヤシロの肩に手を置き、出口を探そうと促す
"愛し子に触れるな!"
ヤシロが光の蔓によってフエゴレオンから離されると、鋭利な刃物のようになった岩がフエゴレオンに襲いかかる
防御に入りたくても、魔導書は使えない・・・
無惨にもフエゴレオンへと当たった
「あぁ、会いたかった、私の愛し子、私の子孫」
「無事か!!?」
女の声を無視してフエゴレオンに叫ぶ
ピクリとも動かないフエゴレオン
腹部辺りで血がながれている
フエゴレオンを心配し、近寄りたいが何故か光り輝いている女により抱きしめられ、身動きが取れない
女一人程度の力なら簡単に振り解けるだろうが、蔓の拘束により力が上手く入らないのだ
日ノ国でみた書物、神が出てくる神話の話で見たことのあるような衣装を纏う女はうっとりとした表情でヤシロの頬に手を添えた
「もう何も傷つく必要はない、ここにいればいい」
「そんなことよりフエゴレオンだ、意識がないように見える」
「そんな穢れた人間を構う必要などないだろう」
「そうはいくか、彼は私に良くしてくれている、意識がないならせめて出来ることをしてやらないといけない」
「聞き分けの悪い子だ」
女の声に怒気が含まれた
ぎゅぅ、と締め付けられる蔓に苦しさを感じ、顔を顰める
息もまともに出来ない
「可哀想に、人間のせいで悲鳴を上げることもできなくなって」
苦しめているのはアンタだろ、という言葉は声にならない
苦しさに意識が遠のく中、女はふふふ、と笑う
「大丈夫よ、殺したりしないは・・・これは躾、起きてごめんなさいが出来たら許してあげるわ」
体に力が入らなくなり、意識が落ちると思った
「愛し子などと言っておきながら随分な扱いだな」
手に纏った炎で蔓を焼き切り、ヤシロを女から引き離す
息を肺に吸い込み、感謝を述べるとフエゴレオンは苦笑いを零した
「これで貸し借りはなしだ」
「?」
「分かってないならいい」
魔導書は使えなくとも"魔"は使える
炎を纏ったフエゴレオンはヤシロを背に庇うと女を睨んだ
「その子から離れなさい、穢れし人間」
「貴様が手を出さないと約束するなら退いてやる」
「離れろ」
若い女の声がだんだんフエゴレオンが聞いていた声に変わっていく
あまりの迫力に、フエゴレオンもヤシロも足をすくみそうになるが、何とか耐えた
声とともに揺れる洞窟内
パラパラと砂が落ちてくる
「私がこの国に来て一番最初に優しくしてくれたのはこの人の姉だ」
「!」
「そして末の弟と彼が私に普通に何の嫌悪もなく接してくれた、だから私はこの人達と仲良くしたいとは思っている・・・出来るかどうかは別として」
カチャリ、と音を鳴らし刀に手をかける
「そもそも彼には手助けしてもらった恩がある、仇なすなら斬るぞ」
殺意と殺意のぶつかり合い
こんなに重たい空気を感じたのは父が怒りを露わにしている時だろう
年下だろうヤシロは、いつからこんなことを出来るようになったのだろうか
視線で、空気で押しつぶしせそうな技術など、フエゴレオンは持ち合わせてはいない
「・・・いいだろう、そこまで引くつもりがないなら今回は見送る」
老婆のような恐ろしい声ではなく、普通の女の声に戻った
女が手をフエゴレオンの方に伸ばすとフエゴレオンから光が溢れ出す
「そのままじっとしていればそのうち傷も治る」
フエゴレオンに魔法を掛けると女はもう目を向けるとこなくヤシロをまっすぐ見つめた
すると直ぐにヤシロの元に跳び、ヤシロの頬に手を触れる
「お前が愛しいのは変わらない、ずっと見守っている」
コツン、とおでことおでこをくっつけ、そのまま女も光となって消えていった
「・・・なんだったんだ?」
「知らない・・・そうだ、怪我は?」
「治ってる」
バクバクとうるさい心臓を落ち着かせ立ち上がる
心配そうに見るヤシロに怪我していたはずの腹部を見せ、傷すら無いことを確認させる
それを見てヤシロはほっ、と息を漏らした
「理由はわからないが私のせいだ、すまない」
「いや、お前のせいではないだろう・・・あれはお前の身内だったのか?」
「いや、まったく心当たりがない」
「愛し子と言っていたが・・・」
「そもそも私はこの国の人間ではない、無理がある」
確かにそうだ
女の戯言なのかなんなのか、それでも何処か心に引っかかった
まぁ、それでも、とフエゴレオンはヤシロの手元を見る
手に入った魔導書はヤシロの手の中で、とにかくこの世界で生きるには必要な物が手に入ってよかったと安堵すた
その後メレオレオナの叫び声で二人の会話は中断されることとなる
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