転校生の女の子
修学旅行が終わり、新しいクラスにもなれてきた頃
なんと転校生が来ると烏間から連絡がはいったのだ
「転校生だって」
「どんな子かな?」
「まぁ、十中八九・・・」
殺し屋関連、という言葉は教室に入ると同時に消え去った
「え、何あれ」
「デカイ箱?」
窓側の一番後ろの席にある縦長の黒い箱
既に複数クラスメイトがいたが誰もその箱の正体はわかっていない
そして
「皆さんはじめまして、私は自律思考固定砲台です、よろしくお願いします」
何の感情もない声と同じように、箱の上の部分にある小さな画面から、何の感情も感じられない女の子の顔が表示されたのだった
烏間曰く、政府がよこした殺し屋
烏間先生も大変だなぁ、とクラスの誰もが思った
だが、その同情も一瞬だ
授業が始まると自律思考固定砲台は何度も続けて発砲を連射する
どうやら箱内部に対殺せんせー用の素材が内蔵されているようだ
そして名前の通りの自律思考により、毎時間ごとに自律思考固定砲台の射撃は精密になっていく
だが、それと同時に生徒の不満も募っていった
毎時間行われる射撃の後片付けは生徒の役目
あの大きな箱は動かせないのは一目瞭然で、掃除機能はない
そしていくらE組生徒とはいえ今年受験生の生徒にとって、授業の妨げになる暗殺は迷惑でしかない
「何やってんの?」
放課後、寺坂率いる面々しかいない教室
撫子は寺坂に声をかける
「コイツ、ウゼーから射撃できねーようにすんだよ」
手に持っていたのはガムテープ
撫子はその様子をただボーッと見ていた
「止めないんだ」
「止める理由がないじゃん」
「へー」
「私受験生だから殺せんせーの授業必要だし、それにこの子が先生殺したらお金私達もらえないでしょ?私お金必要なんだもん、この子いらないよ」
「そーいや意外にも城戸は暗殺に積極的だよな」
「なんか理由あんのかよ」
吉田と村松が聞いてくる
撫子はニッコリと頬をあげる
「秘密」
その笑顔はどこか悲しそうにみえた
***
翌朝、自律思考固定砲台が起動すると外側からの圧迫により中から銃器が出せない
教卓にいる殺せんせーに向かい、生徒への暴行だと抗議する自律思考固定砲台に声を荒らげたのは寺坂だった
授業の迷惑でだという発言に正直お前が言うのかという驚きを隠せないクラスメイトをさらに驚かせたのは「何故?」という自律思考固定砲台の一言に返した撫子だった
「今年受験でこの先生の授業が大切で必要なのに貴女に邪魔されたら迷惑でしょ?それが迷惑なんだけど貴女のパパは教えてくれないのね可哀想に、それに貴女が先生殺すっていうのもこっちには迷惑なの、邪魔しないでくれる?」
笑顔で言い切った撫子
普段優しい人が怒ると怖いというのは本当だったのか
クラスメイトどころか殺せんせーや烏間も撫子を見ていた
狭間を除いては、だ
「じゃぁ殺せんせー、授業始めて下さい」
ニコリと笑う撫子に、あ、はいと応え授業を始める殺せんせー
横にいるカルマは面白いものをみたように目を輝かせている
撫子はそれに気づかないようにして黒板に目を向けていた
「アンタ、何してんのよ」
「何が?」
「今朝のことよ、今朝のこと」
放課後、帰宅している時口を開いたのは狭間からだった
「何かあったわけ?」
「べっつにー」
「アンタ明らかにピリピリしてたでしょ」
「そうだった?」
白を切っている撫子だが、狭間は原因に心当たりがあった
今月、三門市で配られた三門市市民便り
三門であるイベントやちょっとしたコラムが載っているそれに、三門市のヒーローであるボーダーの記事が乗らないわけがない
そして、今日、そこに書かれていた内容
ボーダー初、小学生隊員入隊という記事
その小学生隊長は子供らしい文面ではあったがこれからボーダーでどうがんばっていきたいか少しだが心意気が載っていた
何故、中学生で娘の自分が入れなくて小学生の子供が入れるのか
父親に認められていないようで気に食わないのだろう
「撫子」
「なぁに?」
「あまり気に病まないでよ」
「・・・はーい」
今日もまた、警報が鳴り響く
***
「皆さんおはようございます!素晴らしい朝ですね!」
今度はいったいどうしたんだ
撫子の笑顔が固まる
昨日までは小さな画面だったはずだが今は箱の一面をでかでかと使った画面に等身大の女の子がいる
昨日に比べ表情豊かで声も無機質なものではない
どうやら殺せんせーが昨日一晩のうちに改良したようだ
自律思考固定砲台自身が授業の妨げになる発砲はしない
あくまで自分は暗殺のサポートに回ると言う
それでも信用がまだできていない
撫子が口を開くと寺坂が「また授業邪魔すんだろーが、信用ならねーよ」と先に言い切った
「寺坂さんの気持ちもよくわかります、その事に関しては私、なんとお詫びをすればいいのか」
「あー、寺坂泣かしたー」
「ダメだよ寺坂くん、二次元の女の子泣かせちゃー」
「誤解を招くような発言やめてくんねーか!?」
「いいじゃないか2D、女子はDを1つ消してから始まるんだ」
「おちつけー、竹林」
カオスな状況に口元に笑顔を残すもののげんなりとした表情になる撫子
すると自律思考固定砲台の体がぐるんと回り、撫子の方を向いた
「私、城戸さんにも謝らないといけないですよね」
「謝る必要ないよ」
「でも、」
「いいよ、私も言い方キツかったしゴメンね」
ヘラリとした表情をみた自律思考固定砲台は安堵のため息をつく動作をみせる
自律思考を備えているとはいえまだ人間の細かな感情に疎い彼女は撫子の本心などわからないだろう
結局まだ、撫子の心情は荒れているのだ
自律思考固定砲台のあだ名が律になったこと、内蔵された特殊な素材でいろんな物を作れる等の話しているクラスメイトを見ながら狭間は思う
これはまずい
この状態で、仮に個人情報を調べたこの自律思考固定砲台もとい律は何食わぬ顔で悪気もなく今の撫子の地雷を踏んでくるだろう、と
そしたら迷わず撫子は律を壊しにかかる
それは別に構わない
構わないがその壊したことによっての被害額はきっと自分の計り知れない額だろう
狭間も鬼ではない、それは流石止めておこうと思い放課後、撫子の父親とその周囲に関することは絶対に口にするな、情報を晒すなと釘を刺したのだった
そんな苦労をした翌朝
律が最初のように戻っていたのだ
「またあの地獄が始まるのかよ」
「仲良くなれたと思ったのになー」
烏間曰く、殴る蹴るは勿論、ガムテープで縛るなども故障の原因として賠償責任を追わせるし、改悪どころか改良も禁止と上から通達されたとのこと
授業開始のチャイムが鳴り、教室に緊張が走る
案の定固定砲台の中から銃器を取り出す律
そして銃声が鳴り響く────
と、同時に舞い散る花弁
「花を造るという約束をしていました」
律は語る
昨晩、暗殺に不要とみなされた機能をすべて取り外されたのだが、自身が必要だと判断した殺せんせーのつけた機能をインターネット上にバックアップをとり、気づかれぬように逃がしたのだと
初めての親への反抗
「先生、律は悪い子ですか?」
その問に殺せんせーは「親に反抗するのも大切なことですよ」と◎を顔に浮かべていた
どんなに反抗したところで眼中になければ意味無いのにな
幼稚な考えの自分に、撫子はため息をついた
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