発熱と父親
「38.9、完全に風邪かぁ」
撫子はガックリと肩を下げる
季節も六月、梅雨に突入した
時期が時期で、季節の変わり目の温度差にやられたのだろう
仕方ない、今日は休むか
だが体がうまく動かない、どうしようか
「おはようございます城戸さん!もうそろそろ支度をととのえないと遅刻してしまいますよ?」
「・・・」
え、何これ怖い
率直な感想はそれだった
「えー、と?律?さん?」
「律でいいですよ!」
「なんで」
「もっと皆さんと仲良くなりたくて皆さんの携帯に潜り込んでみました!」
何でもありか、この同級生は
撫子ははぁ、とため息をつく
「律、私熱あるから学校休むって先生に言っといてもらえる?」
「了解しました、放課後になりますが何か持ってきてもらえるようみなさんに伝えてみますか?」
「手を煩わせるわけにはいかないよ、何かそんな話になったら来なくていいって言っといて」
一応自身の手で狭間に連絡をいれ、寝るからと律もこれないように電源を落とす
暗い部屋に一人分の荒い息だけが聞こえた
家にいると笑顔がなくなるから嫌だ
家にいると独り言がふえるから嫌だ
家にいると寂しいから嫌だ
「馬鹿みたい」
ゆっくりと瞼を閉じて、意識を手放す
玄関の扉が開いたような気がした
***
撫子が眠りについてから数時間
次に目を覚ますと時計の長針が1を回っていた
朝とは違い、空腹感も感じる
何か作ろうと部屋からでると、扉の横にお盆に乗った小鍋があった
蓋をあけるとお粥が入っている
いったい誰が
一通り家を周り、洗面所に父親の洗濯物の存在を確認する
あぁ、帰ってきていたのか
声をかけてくれればいいのにな、とほんの少しため息をついた
仕事のカバンがリビングのソファーにあるということはまた戻ってくるだろう
洗濯物を洗濯機に放り投げ、回し、自室に戻る
折り畳みのテーブルを引っ張りだし、そこに盆をのせ器にお粥をよそう
見た目は普通だ
一口食べる
しょっぱい
もう一口食べる
こんなの食べたら余計体が悪くなりそうだ
塩の量はおかしいのかやたらとしょっぱい
卵も梅も何も入っていないのならいっそのことご飯と水だけで良かったのに
心の中で文句は言うが黙ってもくもくと食べる
食べ終わり、口の中が乾いてきたので食器を片付けるついでにと台所に向かう
コップに水をいれたところで玄関の扉が開いた
「起きたのか」
「お父さん」
「寝てなくて大丈夫なのか?」
「今は平気」
「そうか、ゼリーとアクエリアス買ってきたから後で食べなさい」
冷蔵庫に適当に詰め込み、バタバタと家から出ていく父親の背中をぼーっと眺める
あぁ、仕事に行ってしまうのか
ぎゅっ、と服の裾を掴んだ
「撫子?」
「え、あー・・・ごめん」
ぱっ、と手を離し謝る
「今日はここにいるか?」
「大丈夫だよ、子供じゃないもん」
「・・・そうか」
じゃぁ、行ってきますと父親はバタンと扉を閉める
もし側にいてと言ったらどうなったのだろうか
「バカみたい」
困らせるのはダメだ
あの人にはいるべき場所があるんだ
そう言い聞かせて部屋に戻る
数時間後、気持ち悪くなって吐いたのは父親の作ったお粥のせいではないとまた自分に言い聞かせるのだった
前へ|次へ
戻る