プール開き

ミーンミーン、と鳴り響く蝉の声

夏がやってきた

E組生徒は体育の授業にも関わらずダラダラと森の中を歩いていた


「今日ってプール開きだよね?」

「なんで本校舎の方行かないのよ」


そう、今日の体育は水泳なのだ

本来なら山からおり、本校舎にあるプールを使うのだが何故か森の奥の方に向かっている


「さぁ!つきましたよ!」


バン!と効果音でも付きそうな勢いで殺せんせーがドヤがる奥に・・・


「わぁ!!」

「すげー!!」


森に流れる川を使いためた天然のプール

どうやら殺せんせーが夜なべして作ったらしい

長々とどのように頑張ったか話してる殺せんせーを無視し、全員が着ていた体育着を脱ぎ下に忍ばせていた水着姿になりプールに飛び込んだ

この日は初プールということもあり、授業らしい授業ではなくほとんどが自由時間

それぞれ好きに泳いだり遊んだりしている

撫子も撫子で、みんなの邪魔にならないよう泳いでいる時だった

ピッピー!!

笛の音が聞こえ、その場で立ち上がる


「木村君!プールサイドでは走らないでください!危険ですよ!」

「狭間さん!貴女は本ばかり読んでないで泳ぎましょう!!」


ピッピピッピと笛を鳴らしては「どちらが長く水の中にいられるかの競争は心配になるからやめろ」だ「泳ぐスペースと遊ぶスペースを分けないと危ない」などと喚き出す


「あー、いるよな、自分のテリトリーだとやけにうるさいやつ」

「いるいる、有り難さが半減するやつね」


生徒の目が若干白けてきた時だ


「そんな怒らないで殺せんせーも一緒に遊ぼうよー」


ぱしゃ、と倉橋が殺せんせーに水をかけたのだ


「いやん!!」


なんだ今の声は

さっきまで騒がしかったはずの声が、音が止まった

わたわたとごちゃごちゃ言い始める殺せんせー

つまり要約するに「別に水が苦手というわけではない」という明らかに強がりな発言

その場にいる全員の瞳が怪しく光る


「あのタコ水が苦手だ!!引きずり込め!!」

「水鉄砲部隊!!やれ!!」

「こっちこいや!!」


生徒が殺せんせーにかかっていく

わーわーと再び騒がしくなるプール

撫子はふと当たりを見渡す

ほとんど一緒に行動している彼の姿が見当たらないのだ


「ねぇ、綺羅々ちゃん、寺坂くんは?」

「さぁ、サボりじゃない?」


サボるならサボるで一言行ってくるし、何より吉田や村松も連れていくだろうに

撫子は首を傾げる


「ほら!!ぼーっとしてないで城戸さんも!!」


水鉄砲を持って応戦している岡野に急かされ、意識が殺せんせーに戻り、殺せんせーに水を掛けにいく

結局全てかわされることになるのだが

後で様子見に行こう

撫子は心の中で思った

***

寺坂は校舎裏にいた

今はどうやら村松と一緒にいたみたいで声をかけようとすると突然寺坂が怒鳴ったのだ


「お前!!ヌルヌル行ったのかよ!!」

「いやだって、本当に成績上がったんだぜ!?」

「俺らはヌルヌルは絶対に行かねーって約束しただろうが!」


ヌルヌル、とは殺せんせーが放課後開催する勉強会のことだ

そういえば最近村松くん行ってたな、と撫子は思う

どことなく嬉しそうに撫子に成績が上がったことを報告してくれた記憶があった

寺坂はそれが気に食わないのか、声を荒らげたのだろう

入るタイミングを間違えただろうか、村松には悪いが一時撤退しようと思うが、振り返った寺坂に見つかる

アハハ、と苦笑いを零すと寺坂は睨むも盛大にため息を吐いた

なんやかんやで結構女子には甘いのだ、この男は


「そうカリカリしないでよ」

「してねーよ」

「怒ってたくせに」


撫子と話して幾らか落ち着いたのか廊下を歩き教室に向かう

寺坂が教室を開けると・・・


「うおおお!!すげー!!」

「いやー、先生結構バイクには凝っていまして」


何故か木製のバイクに乗り、レーサーが着ているような服装をし跨る殺せんせーとそれをみて興奮する吉田の周りに集まる他の生徒の姿

やっと落ち着かせたのに、と頭を抱える

そんな寺坂のことなど露知らず、殺せんせーは「漢字の漢と書いて漢の中の漢ですからね!!」とドヤがる

ブチンと何かが切れた音が聞こえた気がした

寺坂は黙って殺せんせーと吉田に近づき、殺せんせーの木製のバイクを蹴り倒し、壊したのだ


「あー!」

「て、寺坂テメェ!なんてことしやがるんだ!!」

「ほら!!漢字の漢と書いて漢の中の漢の殺せんせーが泣いちゃったよ!!」


壊されたショックでめそめそと泣き始める殺せんせーを庇う面々に混じっている吉田の姿に余計苛立ちに火がつく

寺坂は気に食わねぇ、と一言呟くと「どこ行くの?」と声をかけた撫子に苛立ちを隠さず「サボんだよ!」と怒鳴り教室を出ていく


「何なんだよアイツ」

「あー、寺坂くん結構繊細なとこあるから」

「はぁ!?寺坂が!?」

「うーん、繊細というか、柔軟な考えができないというか?」


気に食わない、とはきっとこの空間のことだろう

殺せんせーという怪物に懐柔され、メキメキと暗殺も勉強もレベルを上げていくクラスメイトに劣等感を感じるのだろうか

殺せんせーが来てはじめの頃にあった、潮田を使った暗殺で目の当たりにした殺せんせーの怒りに触れてから、殺せんせーに恐怖を抱いていたことは若干気づいていた

あの怒りをみてなお今現在、平然としていられるクラスメイトもクラスメイトだと思うが、寺坂も1度落ち着けばいいのに

それに、この教室が気に食わないのは何も寺坂だけではないのだ


「まぁ、寺坂くんもそのうち落ち着くよ」


撫子は笑う

視界の端にうつった女を、見ないように、ニッコリと

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