お勉強デート
「ありがとうございました」
時刻は夕方6時
夏だからまだ明るいが、流石に遅い時間になる前にと訓練は中断
撫子は帰る支度を済ませ、山を駆け下り昇降口に向かう
「城戸さん」
昇降口を出たところで呼び止められた
なんだろう、と振り返ると浅野学秀の姿
「なに?」
「テスト、君も勿論1位を狙いにいくんだろ?」
口元にニヒルな笑みを浮かべ、浅野が言う
撫子はうーん、と考えた後頭を横に振り、考えてないと答えた
「っ、なんで!!」
「要約テスト勉強に本気になり始めた友達がいるから教えてあげないと」
「あの不良共か!あんな馬鹿とつるんでいたら君の人生はめちゃくちゃになるぞ!」
「うーん、でもなぁ」
浅野はもしやA組に戻ってこいとでも言いたいのだろうか
だとしたら嫌だな
それが撫子の率直な感想だった
「私、そんなバカ共に救われたんだよね」
二ヘラ、と笑う撫子
浅野は信じられないという顔をして口を大きく開く
「君はっ!!」
「撫子、取り込み中か?」
「!!」
ブレザーの椚ヶ丘中にそぐわない真っ黒の学ラン
撫子はびっくりして振り返った
「秀次くん!」
「こんな時間まで学校残っていたのか?」
「ちょっとね」
「送っていく」
大丈夫だよ、と言う前に駅の方に歩き出す
まぁ、確かに降りるのは一緒の三門駅だ
「そういうことだから、じゃぁね、浅野くん」
数歩歩いた先に三輪が早く、と急かすように待っている
撫子は急いで三輪に駆け寄った
「なんで秀次くんこんなところに?」
「・・・笑わないか?」
「う、うん?」
「迷った」
どうやらこの付近にある椚ヶ丘図書館に行くためにここまで来たがいいが迷ってしまったらしい
確かにこの当たりは道が複雑だからな、と撫子は納得する
「何しに行く予定だったの?」
「家だと集中出来ないし、そこそこ勉強しないとって思って」
「あ、じゃぁ明日一緒にどう?」
「え」
「図書館!一緒いこ?」
撫子の言葉を理解できなかった三輪は「あぁ」と呟いた
じゃぁ明日10時に三門駅、と言って別れた
明日、2人、図書館、デート
三輪の頭の中でその単語がぐるぐる回る
顔を真っ赤にさせて自宅に着き、携帯を確認すると1件のメッセージが
明日のお昼、近くに公園あるからそこで食べない?
良かったらお弁当作っちゃうよ!!
張り切っちゃうぜ( `・ω・´ )
三輪秀次を悩ませる単語に「お弁当」が加わった瞬間だった
***
翌日、三輪秀次は集合1時間前に三門駅についていた
どれだけ張り切ってんだ、とか、忘れ物ないだろうか、とかあまりにも行動が挙動不審な気がする
今日は夕方から防衛任務があるから何時まで一緒に入れるのだろうか
珍しく歳相応にはしゃいでいる三輪
時計の針が30分を過ぎるのを確認してから数分
肩をたたかれ振り返るといつもと変わらない、撫子の笑顔
「ごめんね、待たせちゃった?」
「いや、俺が早く着きすぎただけだから」
勉強道具が入っているだろうトートバッグにもう一つ、そこそこ大きな荷物をみつけて、少しだけ気分が良くなる
いや、かなり、だろうか
「重そうだな、持つ」
「え、悪いよ」
「俺のもあるんだろ」
少し強引な気がしなくもないが、弁当が入っているそれを受け取ると改札口に向かう
ちょうど乗る予定の電車がきていてもう出発というところだった
急いで駆け込みギリギリで電車内に入る
「駆け込み乗車は御遠慮お願いします」とよく聞くアナウンスが聞こえ、思わず撫子が笑ってしまった
他愛のない話をしながら過ごしていたらすぐに最寄り駅につく
そこからはちょくちょく目印になる場所を教えながら道案内も兼ねて図書館に向かう
時刻は10時を過ぎたくらい
図書館はすでに開いていた
どの学校もテスト期間が近いのか同い歳くらいの男女が結構きていた
結構といっても、席には余裕ある程度だが
難なく席をとり、持ってきた勉強道具を机にだす
「と、なりなのか?」
「え、だってそっちの方がわからない所あった時聞きやすいじゃん」
「あ、あぁ!そうだな!」
三輪の頭はパニックを起こしている
パニックをお越しはした、が
結局は本来の目的であるテスト勉強に集中し、難なく乗り切る
それでもだ
ふと息抜きに顔を上げ、隣の存在に気づくと、胸が高鳴るのだった
***
図書館についてから三時間程たった
すでにお昼の時間はすぎ、短い針は1を指していた
随分とテスト勉強に集中していた
とりあえずお昼を食べようと一旦外に出る
大きな公園で、見ると走り回る子供や散歩している老夫婦、犬の散歩をしている人など様々だ
屋根のある、ベンチとテーブルの設置された場所に行く
鞄の中から包を2つ取り出し、そこで飲み物が無いことに気づく
用意していたのを忘れたのだ
ごめん、と謝る撫子に、大丈夫、買ってくるって立ち上がる三輪
場所を見ていてと言う三輪にお茶をお願いして大人しく待つ
そこで、撫子のスマホに着信を知らせるメロディが流れた
「はいはーい」
『あ、アンタ今どこいんの?』
狭間からの着信だった
「ちょっと出かけてる」
『じゃぁ今から村松家集合無理ね』
「え、何してるの?」
『実は』
図書館にいることを伝えるとじゃぁ来いよと言われたが人が一緒だからと断る
仕方ない、その代わりにと借りてきて欲しいという本をメモするがこれはいったいテスト勉強に役立つのだろうか
通話を切ったところで三輪が戻ってきた
「電話?」
「うん、綺羅々ちゃんから」
「そうか」
撫子の向かいに腰をおろし、冷えたお茶をわたす
ありがとう、と受け取りお金をわたそうとすると断わられた
弁当のお礼らしい
そう言われたら仕方ない、と素直に金を握りしめた手を引込めた
「いただきます」
「はーい、どうぞ」
蓋を開けると色とりどりのおかずが目に入る
基本お弁当というと茶色のイメージだったため、三輪はびっくりした
「凄いな」
「今日は頑張っちゃった」
「そうなのか」
俺のために頑張ってくれたのだろうか
そう思うと心が温かくなる気がする
三輪は唐揚げを一つとり、口に入れる
「美味い」
「本当!?」
「でも、大変じゃなかったか?」
「いや、そんなことないよ、お恥ずかしい話ポテトサラダととか色々昨日の残り物使ってるし」
「なるほど」
「あ!でもちゃんと全部そこそこ自信あるからね!」
そうか、俺は今撫子の手作り弁当を食べているのか
そう思うと箸が止まっていった
「秀次くん、、、大丈夫?」
「撫子の手作りだと思うとなんかもったいないな」
「えー、そんな重宝しなくて大丈夫だよ、何だったらまた機会があったら作るし」
「いいのか?」
「うん」
夢みたいだ
実際夢なのではないか
「秀次くん!?急に頬たたき出してどうしたの!?紅くなっちゃうよ!?」
痛いはずなのに、気持ちは夢心地のまま、三輪の昼食タイムは幕を閉じた
***
その後は図書館に戻り勉強に励み、夕方からの防衛任務のため3時に解散になった
帰りに撫子が借りている本をみて何をするのか聞いたらテスト勉強に使うらしい
だがそこで三輪は首を傾げた
「それ、料理の本だよな?」
「フランスとかイタリア系のね」
「それをテスト勉強に?」
「みたい」
流石に殺せんせーのことは伏せ、今回のテストのことを伝える
各教科1位の者に先生からご褒美がもらえる、と
そう、各教科1位にご褒美
「あ、そういうことか」
「なんか、ずるくないか?」
「まぁまぁ、ちゃんと他のも勉強させますから」
先ほどまで一緒にしていたのに、会ったこともない相手に嫉妬をしてしまう
学校も休日も一緒とは、羨ましい
「また」
「?」
「また、一緒に出掛けたい」
自身の手を固く握り、撫子をみつめる
嘘偽りのない、本心
「私も、秀次くんとたくさん遊びたいな」
「!!」
今日は、本当に幸せだ
「ボーダー、頑張れ」
「あ、あぁ!」
駅でわかれ、三輪はまっすぐボーダー本部に向かう
今日は、いつもと違い、少し温かい気持ちでいれそうな気がした
窓から差し込む夕日で部屋が紅く染まっている
小さくただいま、と言うとまっすぐリビングについた
テーブルの上にある小さな包
結び目に挟まっている1枚のメモ
家を出た時と一緒だ
ちょうどスマホのバイブ音でメッセージの受信が伝わる
開くと父親から「帰れなくなった」の一言
その二つ上には「明日、昼頃家に行く」の文字
挟まっていたメモをとる
ぽたり、ぽたりと水滴が落ちていく
こんなの、慣れっこなのに
さっきまで、楽しかったから
余計寂しいだけだ
結び目を解き、箱の蓋を開ける
中身は今日のお昼と同じ
唐揚げを一つ摘み、口に含む
「美味しくない」
美味いと、言ってもらえたのに
もう一口口に含む
「嘘つき」
美味しくなんか、ないじゃないか
「嘘つき」
水滴は止まらなかった
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