夏祭り
「ほら、これ着なさいよ」
イリーナが取り出してきたのは1着の浴衣
何で引越しの手伝いさせられていたのにこの女は浴衣を買いに行く暇があったんだ、と撫子は思う
もともと大きいものがあり多く見えた荷物ではあったが量は少なかったため引越し業者が殆どしてくれた
あとは撫子の家にある私物を移動するだけなのだが・・・
「どうせちょくちょく来るつもりだしいいじゃない」
「ここはイリーナ先生の友達の家じゃないです」
「生徒の家よ」
「というか、お父さん来たら不味いんじゃないですか」
そのお父さんとは昨日アンタが気持ち良さそうに眠っている間に会ったのよ、とは言いはしない
「そんなことより早く着なさい、時間ないわよ」
「私もう疲れたし家居たいんだけど」
「どうせ1人でいんだから皆に会いに行きなさいよ」
撫子の服を脱ぎ捨てていき、グイグイと浴衣を押し付ける
イリーナの気迫に負けたのか仕方なく浴衣を着ていく
イリーナもそれを見てうなづくと自分の分を漁り出した
「よし」
「あら、凄いわね、日本人でも浴衣着付けられる人って少ないんでしょ?」
「お母さんがこういうの好きな人だったんです・・・やりますから貸してください」
上手く着付けられないイリーナの帯を手に取り丁寧に巻いていく
撫子に関心しつつイリーナは鏡を見ながら髪を上げていた
1つにまとめた髪に簪を挿せば完成だ
「ほら、アンタも」
撫子の短い髪を編み込みを入れ、その上部をイリーナの簪と同じ飾りのついたピンでとめた
「お揃いですか・・・」
「1日で探すの大変だったのよー」
「何で」
「え、姉妹みたいじゃない」
「元は暗殺者と標的が何を」
「あら、今現在暗殺者と標的が生徒と教師やってるじゃない」
撫子はイリーナの言葉に目をぱちくりとさせ、確かにと言った
なら別にいいか、と納得し、家を出る
今日は夏祭りだ
「あー!城戸ちゃんビッチ先生と髪飾りいっしょだー」
倉橋、矢田は撫子とイリーナを見るなり羨ましいと言った
殺せんせーが奮闘したからなのか生徒も半分は来ていたが狭間は家の用事、村松と吉田は家の手伝いでよくつるんでいるメンバーは寺坂しかいなかった
その寺坂も男子と混ざって行動しているようだし撫子も、と女子と行動することにする
矢田の綿あめ食べたいという一言で綿あめの屋台を探す事にした
「わぁ、凄い」
屋台を探している途中、磯貝が沢山の金魚を取っているのをみて驚く
凄い凄いと見ていると倉橋も触発されたのか金魚すくいをはじめた
こんなに取ってどうやって飼うのか聞いてみた
正直いうと磯貝は家が貧しい方なので金魚を飼うだけのものを用意できるのかと思ってしまったのだ
ところがどっこい磯貝は涎をたらし、食べると答えたのだ
それを聞いた倉橋が金魚料理を分けるという約束で自分が取った分を分けたのだ
流石、生き物は見た目でも食でも愛する女だ
「じゃぁ、また花火の開始時間にねー!」
「おー!」
男子と別れて綿あめ捜索を始める
無事綿あめの屋台を見つけると、その隣のりんご飴の屋台をみて倉橋がそっちを買ってくると言ったので矢田、片岡、岡野の綿あめ組と撫子、倉橋、速水のりんご飴組に別れて並んだ
並んでいる最中、やはり盛り上がるのは暗殺のこと
速水は撫子と銃の扱いで盛り上がっていた
倉橋が買い終わるのを確認すると綿あめ組と合流し、途中で会った千葉と速水が射的をすると言うのでそれを眺めていると少し遠くにお好み焼きの出店があるのをみつけ、小腹も空いたなと片岡に断りを入れてそっちに向かう
1人では暇だろうと倉橋も一緒だ
お好み焼きの屋台は思いの外混んでいた
時間も時間だし夕飯にしたいのだろう
他愛もない話をしながら並び、購入し、先に待ち合わせ場所にいるという片岡からの連絡が入っていたのでそのまま向かう事にした
その途中が問題だった
「君たち2人だけ?」
「よかったらお兄さん達と一緒に花火観ない?」
所謂ナンパだ
見た目は真面目そうだが祭りという場でハメを外しているとだろう
他にも友達がいるのでと断るが引いてくれない
強行突破でも構わないが現在は2人とも浴衣を着込んでいる
普段のように走れるかどうかだ
倉橋の腕を男が掴み、止めようとした撫子の手をもう1人の男が掴んだ
「何をしている」
「んだ、ガキ」
撫子の手を掴んだ腕をまた別の手が掴んでいた
手の主をみると撫子は驚いた
三輪がそこにいた
「君らの友達ってコイツ?」
「こんな無愛想くんより絶対俺らの方が楽しいって」
いくら三輪が来たところで結局は中学生
舐められている
三輪の表情が険しくなっていくと後ろから声が聞こえてきた
「三輪くん、どうしたの?知り合い?」
口元のほくろが色っぽさを際立たせる美人がいた
撫子も倉橋も見とれてしまっている
もちろん男達も
その隙を見て三輪は撫子から掴まれていた手を離す
ハッとして撫子も倉橋を助けようとしたが、既に掴まれていた手は外されていた
「急に入っていくから驚いただろ」
「すみません」
こっちはこっちでイケメンがいた
倉橋は怖かったのか撫子の腕にしがみついた
イケメンの睨みに怯んだ男達はバツが悪そうにいなくなっていく
姿が見えなくなったのを確認してから撫子と倉橋は3人に頭を下げたのだった
「ありがとうございます!」
「気にしないで、何もしていないわ」
「本当にお前は何もしていないな」
「あら、気を引いてあげたじゃない」
「こんな女のどこがいいんだ」
「二宮くんは顔を見られた瞬間逃げられたじゃない」
口論をはじめた2人にどうしようと慌て出すが三輪がいつもの事だから気にするなと言った
「・・・2人でいたのか?」
「クラスの皆と来ていて、その、お好み焼き食べたくて」
「なら皆遅いと心配していんじゃないか」
「そ、だね・・・助けてくれてありがとう、本当に秀次くんは」
撫子の言葉の続きは花火の音に掻き消された
連続で上がっていく花火を見る
「綺麗だね」
「あぁ、そうだな」
三輪の視線は花火には向いていなかったのだが
「城戸ちゃん、いかないと」
「あ!そうだ!」
雰囲気を壊すのは申し訳ないが皆も花火が始まったのに戻ってこないのは心配するだろう、と倉橋が撫子を急かす
ごめんね、ありがとうと最後にもう1度お礼を言うと駆け足で離れていく
「城戸ちゃんごめんね」
「え?」
「いい感じだったから」
「秀次くんとは友達だよー」
「またまたー」
集合場所につき、遅いと怒られ謝る
殺せんせーがマッハで探す五秒前だったようだ
2人が到着したことでそのまま予定通り皆で打ち上げられている花火を眺めることになる
今年の夏休みは色んな事があった
怖い思いや辛い思いをしたけれど
それでも
「楽しかった、なぁ」
きっと、2学期からも目まぐるしいほどに忙しく、でも楽しい非日常がまっているのだろう
そう思うと、ワクワクとした気持ちが止まらなかった
「これで君のA組への編入手続きは終わったよ」
「ようこそ、A組へ」
竹林くん
E組に、不穏な空気が包んでいるのにも、気づかないまま
2学期が始まる
笑顔咲く 夏休み 完
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