A組編入事件
2学期始まっての最大の驚きは竹林のA組編入の報告だった
椚ヶ丘ではもともと学年50位以内であれば元のクラスの担任が許可を出せばそちらに復帰できるシステムだ
竹林が元のクラス全員に戻るのは普通のことなのだ
でも、E組は普通ではない
3億円という多額の賞金首がいる教室で、正直出ていこうと思う生徒はいないだろう
でも、竹林の言い分は違った
家族全員医者の家系
父も兄2人も優秀な医者
椚ヶ丘如きでE組にいるような成績ではいられない、と
A組に復帰できると伝えた時、漸く父が反応を示したのだ
そうか、たったの一時
それでも、それだけで認めてもらえた気がした
その話を聞いてもなお、竹林を止めようと寺坂は声を上げたが撫子、神崎によって止められた
撫子は父親に認めて貰いたいという気持ちが痛いほどわかったし、神崎も父親が厳しいため認めて貰うための苦しさを知っている
だから、責めないで、そっとしてやろう、と
でも、それでもだ
全校集会での竹林の演説には聞くに耐えられないものがあった
いかにE組が底辺で、最悪な場所なのかを語る演説
クラス全員が唇を噛み締め、足元を見つめるなか、撫子だけは竹林を見ていた
竹林の、震える手をみていた
本心ではないと、安心できた
その手をみて、緊張しているために震えているのだと思ってしまう声も、悔しさからきているものだと実感できた
「素晴らしかったよ、君の演説」
ステージ裏で生徒会長である浅野が竹林に拍手を贈る
E組を裏切ってしまったという後ろめたさからか素直に受け取ることはできなかった
「そうだ、君に頼みがあるんだ」
「頼み?」
「そう、E組であった君にしかできない頼み」
城戸撫子をA組に戻るように説得して欲しい
それが浅野の頼みだった
撫子はあんな所にいるべきではない
A組という玉座に座るべき人間なのだ
浅野の言っていることはまるで撫子の為のように聞こえるが結局は自分のためなのだろう、と竹林は思う
きっと浅野は撫子が好きなのだ
でも、プライドが高いため自分が口説きに行くということをしたくない
女の方が自分ち近寄るべきなのだと思っているのだろう
「・・・頑張っては見るけど、難しいと思うよ」
「そんかことないさ!君なら大丈夫だ」
こんなことすら自分ではしない男に撫子は靡かないだろう
仮にA組に戻ったとしても今の浅野は見向きもされないのは目に見えていた
それでも竹林はぐっ、とその言葉を飲み込む
今はA組なのだ
E組を、見下す立場なのだ
竹林は今までのE組での思い出を思い出してはぐっ、と腕に力を込める
戻りたいなんて、思ってはダメなのだ、と
そんなことを思いながら始まったA組での生活
授業を聞いて竹林は驚愕した
既にE組で習った場所
殺せんせーの丁寧な授業を聞いていたからわかる、この授業の悪さ
ただただ教科書の内容を伝えるだけ
勉強の善し悪しで生徒をふるいにかけるような授業
効率が悪すぎる
ため息を吐いて、ふと自分が誰かに見られている気がして窓の方を覗いてみると・・・
「あ、やばい見つかったかも」
何してんだアイツら
かつての仲間が草むらからこっちをみていた
竹林は見ないふりをして黒板に向き直る
それをみたE組連中は気づかれなかったと思ったのかまだいた
何時までいるのだろうか
そう思いながら放課後、竹林がクラスメイトに帰りにどこかに寄らないかと話をし、勉強を理由に断られている現在
まだいた
自分達の授業はどうした、暇なのか
そんか言葉の裏腹にどこか喜んでいる自分がいる
急いで下駄箱で靴を履き替えそのまままだいるだろうE組達の元へ向かう
丁度竹林がいなくなったからとE組校舎に戻ろうとしている面々に「何をしているんだ」と声をかけた
「竹林!その、俺達竹林が心配で」
「心配はE組にいる自分達の心配したらどうなんだ、それに」
心配されるだけの理由なんか、もうないだろう
かつてのクラスメイトのことなんか忘れてしまえばいいのだ
あっちで、あの楽しい非日常を・・・
「ふざけんなよ竹林」
「!」
一番に口を開いたのは寺坂だった
「俺達は今でもお前のこと仲間だと思ってんだ、心配すんのなんかあたりめーだろうが」
寺坂竜馬という男は、普通にこういうことを言ってしまう男なのだ
竹林は自分は何をしているんだろうと思う
それでも、自分が仲間を裏切ってしまったという後ろめたさが己を支配していく
「竹林くん」
「城戸さん」
「寺坂くんに乗っかっちゃうね、あのさ、E組というか暗殺しに?いつでも戻ってきてよ、竹林くん頼もしいし」
「・・・僕が、頼もしい?」
「み、皆が沖縄で熱を出した時!適格な処置を手早くしていく竹林さん、本当に凄かったです!私尊敬しています!」
撫子に続き奥田も声を上げる
次々とくる戻ってこいといく言葉に竹林は耐えられなくなり後ろを振り向く
1日も経っていないのにもう戻りたいと思っている自分に呆れてしまう
「あぁ、そうだ、城戸さん」
竹林が思い出したように撫子に声をかけた
「浅野が、城戸さんにA組に戻ってこいって言っていたよ」
「え」
「言っても無駄とは知っているけどね」
夏休みに入る前だ
掃除の時間、本校舎にしかないごみ捨て場に2人で向かっていた時のことを思い出す
「一応、言わないとうるさそうだから」
「・・・そっか、ごめんねって言っとくよ」
「うん」
竹林はそのまま振り返ることなく帰宅する
竹林はどことなく寂しそうに見えた
***
臨時の全校集会をする
急に言われ、本校舎の体育館に集まる生徒達
「どうしたんだろう」
「あ、竹林」
「また竹林の演説かよ」
憎まれ口を叩くも皆表情は心配そのものだった
「竹林くん、これを」
浅野から渡された紙の束
内容は先日よりもE組がどれだけ環境が、教師が、生徒が最悪かを語るような内容らしい
竹林は息を飲んだ
嫌だと心からそう思う
だから、竹林はマイクの前に立った
「E組は、最悪なところです」
浅野が不敵に笑う
E組の生徒はどこか絶望したような表情で竹林をみていた
「ほっといてほしいのに、そっとしてほしいのに絡んでくる教師やクラスメイト」
それでも、勉強の支障になることはなかった
「嫌なことを押し付けられたり強要されたりもするし」
でも、気づいたらそれは"楽しい事"に変わっていた
「うるさくて仕方ない」
でも、でも、それでも
次々と思い出されるE組での思い出
最初は本当に嫌だった
変なタコみたいな教師が地球を滅ぼすだなんだと言い始まった暗殺教室
銃の使い方もナイフの振るい方も知りたくなんかなかった
ただ、勉強だけできればよかった
でも最近は、それでもいいと思っていたのだ
「うるさくて仕方ない、不愉快極まりないんだ」
それでも
「でも、そんなE組がメイド喫茶の次に居心地がいい」
演説の台の上に置いてある理事長の何なの表彰されたのであろう盾を思い切りステージに叩きつけ、割る
「これでE組にとんぼ返りだ」
竹林はステージ裏に立つ浅野の方に迷いなく進む
何を考えている、やら何をしでしかしたのかわかっているのか、やら言ってくるが気にする気にもならなかった
「僕は父に怯えていた、浅野くん」
君も、理事長(父親)に怯えているようにみえる
その言葉に浅野は息をのんだ
竹林はそのまま浅野の横を通り過ぎ、わざとらしく撫子に言うよう頼まれていたことの報告をする
「城戸さんはA組には戻りたくないようだったよ」
「!」
竹林は思い出す
ごみ捨て場に向いながら、2人になったことをいいことにずっと気になっていたことを聞いた日のことを
何故、城戸さんのような成績も素行もいい生徒が、わざわざ不良行為をしてE組に落ちにいったのか、と
撫子は困ったように笑ってこう答えたのだ
「"愛して欲しい人は成績が良くても振り向いて貰えないから、悪い子になって視界に入ってほしい"だって、あ、あと城戸さんは多分ちゃんと自分から口説きにいかないと好きになることはないと思うよ、彼女、自分から好きになるのは"愛して欲しい人"だけみたいだし」
チラリと浅野を見てみるとなんとも言えない面白い顔をしていた
写真に収めたいぐらいだ
嘘は言っていないだろう
なんやかんやで撫子は何かをされ、何かを打ち解け人を好きになる
最初から好きだ、なんてことはないはずだ
顔や成績なんて関係ないのだ
それに撫子の一番はどうやら父親らしいし
「さてと」
E組に戻るかな
竹林はゆっくりとE組に向かう足取りを進めた
「いやぁ!!晴れて竹林くんもE組に元通りですね!」
「最悪な環境に戻って晴れても何も無いでしょう」
憎まれ口を叩いてもどこか嬉しそうなのは隠せていないようだ
何より"メイド喫茶"という特殊な趣味を全校生徒の前で暴露した竹林を一目置く視線も、悪くは無い
「全員揃ったところで話がある」
烏間が用意したのはよくドラマで見るような爆弾
「コイツを殺すレパートリーを増やすため、爆薬の使い方を教えたいと思っている、だが危険なため代表者一名に任せたい」
「なら、彼の番ですね」
にゅるふふ、と殺せんせーは竹林をみて笑う
竹林は仕方ない、とメガネをあげる仕草をする
「今期アニメオープニングに合わせて替え歌を作ってくれるなら、考えてあげてもいいですよ」
「決まりですね」
A組よりも生き生きしているようにみえる竹林に、クラス全員が安心したようにみえた
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