メイド喫茶

「ねぇ、竹林くん」

「何?城戸さん」

「メイド喫茶ってどういう所なの?」


本日の予定は、撫子のその一言で始まった


「何で俺までついてこないといけねーんだよ」

「寺坂くん経験者じゃん」

「経験者ってなんだ!経験者って!!」

「僕は嬉しいよ、城戸さん、メイド喫茶に興味を持ってくれて」


放課後、メイド喫茶しろくろの前

撫子、寺坂、竹林3名が立っていた


「つか、何で興味持ったんだよお前」

「だってE組よりも居心地がいい所って気にならない?」

「いやまったく」

「・・・ハマったんじゃないの?」

「ばっ!まだハマってねーよ!!」

「まだってことはハマる予定はあんじゃん」

「!」


うぐぐ、とぐうの音も出ない寺坂を他所に店内に入っていく2人

常連である竹林と、何度か来ている寺坂を覚えているのかいらっしゃいませご主人様と声がかかる


「あ、申し訳ございません失礼いたしました、本日はお嬢様もご一緒だったんですね」

「おじょっ!?」

「あぁ、僕の友人なんだ」

「ご主人様の?お願い致しますお嬢様」


丁寧に挨拶を終えると席に通される

初メイド喫茶にやや興奮気味だ

モノトーンで構成されているが店名にあるように白黒のイメージの強いパンダのぬいぐるみなどが置いてあり可愛らしい店内だ

メニュー渡され、撫子は"もえもえはーとおむらいちゅ"と"どきどきらぶりーすとろべりぃぱふぇ"そしてドリンクに"きゅんきゅんこいするみるくてぃ"を頼む

何故すべて平仮名表記なのかは気にしない事にした


「どうだい城戸さん、初めてのメイド喫茶は」

「なんかこう、むず痒いね、自分がお嬢様とか言われるの」

「だろうね」

「へ?」

「いやなんでも」


竹林は不意に視線を逸らす

一定の時間になるとメイドが数人店の端にあるステージに上がりダンスや歌を披露してくれ、退屈しない

ジャンケン大会と称して勝者にはハグのプレゼントがあったりもした

そんな勝者の撫子はメイドにぎゅ、としてもらいテンションが上がっていた


「お待たせしましたご主人様」

「遅いじゃないか」

「え、そんなに待った?」

「しっ」

「も、申し訳ございませんご主人様ぁ、こんなダメなみーはいらないですか?」


竹林ワールドの開幕だった

呆然と眺める撫子を他所に寺坂もメイドで楽しんでる様子

どうしよう、と思うと横から出されたオムライスに驚き視線を上に向けると綺麗めのメイドがいた


「お嬢様、お待たせしました」

「あ、いえ」

「お嬢様、よろしければご一緒に魔法の呪文、お願い致します」


メイドが手の形をハートにしたのをみて撫子も真似する

そのまま魔法の呪文「もえもえはーとおいしくなぁれ」と唱えた

そのままメイドがご主人様、お嬢様に1回食べさせて終わるはずなのだが撫子はそれが通じるはずがなかった


「メイドさん、あーん、してください」


あろう事か勤務中のメイドに食べさせようとしているのだ


「お、じょうさま?」

「美味しくなったら皆と分けないとじゃないですか!」


初めての反応

困ったメイドさチラリと連れの寺坂、竹林をみる

流石に驚いているようだがどこか呆れているようにも見える2人を見てこの子はきっとこういう子なんだと判断したようだ

段々と悲しそうな表情になっていく客にどうしようと店長を見れば食え、というジェスチャーを貰った

男客ならNGでも相手は女、中学生だ、ギリセーフを頂いたのだ


「では、失礼いたします、お嬢様」


スプーンを口に含み、オムライスを堪能する

料理にもこだわっている店なだけに美味しく

口元が緩むメイドをみて撫子は嬉しそうに笑ってオムライスを口に含んだ

その後来たミルクティーにも魔法をかけた後1口飲ませに来たのでそれは丁寧に断ったのだが


「城戸さん最高だね」

「え?」

「普通は食べさせて貰うんだよ、あれ」

「そうなの?」


美味しい物は分け合う主義の撫子にとってきっとアレが普通なのだろうがメイドには哀れさを感じた


「でも、ここ大変だね、ひとりひとりにメイドさんつけるんだ」

「いや、1グループのうち誰かが特別会員であればできる特別待遇さ」

「特別会員?」

「普通の会員のスタンプカード3枚集めるとゲットできる」

「竹林くん、持ってるの?」

「もちろん」


わぁ、凄い、とどこか遠い目で竹林をみた撫子

寺坂も少し引いていた


「城戸さんはここお気に召したかい?」

「うーん、何だろういたりつくせりでなんか申し訳ないって気持ちが大きくなっちゃうかなぁ」

「城戸さんはどちらかというとご奉仕する側な気がするからメイドになった方がいいかもしれない」

「えー、そうかなぁ」


そんな話をしていると撫子の注文したパフェが届く

ここのスイーツは大きめらしく前もって知っていた2人は珈琲だけのようだった


「あ、あの」


魔法の呪文も終わり、撫子に付き添っていたメイドはまた食べさせられるのではないか、と身構えていた

だからスプーンを差し出されたのは正直驚いた


「竹林くん・・・友達から本当はあーんしてもらうって聞きました、お仕事取ってしまってごめんなさい」


しゅん、とした表情で謝る撫子にこの子は何なんだ、と頭が痛くなってきたメイド

天然なのだろうか、と疑問に思うところは沢山あるがようやく仕事ができる


「お嬢様、では失礼いたします」


パフェのクリームをすくい、スプーンを撫子の口に持っていく


「おいひぃです」


幸せそうに食べる撫子にメイドまで嬉しくなる

仕事を終え、次のご主人様が来たのでそちらに向かう

その相手が悪かった


「アリスちゃん」

「ご、しゅじんさま?」

「何で連絡くれかったの?」


ずっとずっと待っていたのに、と男は言う

時々あるのだ、営業での対応を本気に捉えてしまい、勘違いしてしまうものが

この客もそのタイプでメイドもといアリスは困っていた

店での決まりで客との連絡のやり取りは禁止されている

何度も断っているのだ


「ご主人様の言う事聞けないのか!!」


とうとう怒りを露わにしてきた客にどうしようと焦り始める

視界に騒ぎを聞き付けてバックから出てきた店長を捉えるより早く、自分よりも小さな背中が目の前にうつった


「私のメイドさんに何してるんですか」


両手を広げ、アリスを守るように立つ撫子

お嬢様、と声を掛けても大丈夫と笑顔で返されるだけだった


「お、お前!!アリスちゃんのなんなんだよ!!」

「今はお嬢様です」

「僕以外に主人なんかいてたまるか!!」

「ここには沢山のメイドさんとご主人様、お嬢様がいるんです!!」

「でも!!でもアリスちゃんは僕だけの!!」

「私のメイドさんです!私のメイドさんに酷いことするのは主人である私が許しません」


店の設定を忘れずに止めに入るのは関心するがお前何やってんだ

呆然と寺坂と竹林が眺め、流石にヤバイと思ったのか駆け寄る


「何してんだよ!」

「怒ってる」

「見りゃ分かるわ!!」


ばしん、と撫子の頭を叩く寺坂

そろそろ寺坂のせいで脳細胞が消え去りそうだと思ったが今はそれどころではない


「メイドさんは、幸せにしてくれる人だと思うから、主人達はちゃんと敬意をはらわないといけないと思います」


キッ、と男を睨みつける

女性に手を上げること事態撫子は好きではないのだ


「メイドさんを傷つけ、怖がらせ泣かせるような人は主人ではないと思います!」


男はとうとう膝をついてしまった

撫子の言葉に何を思ったのか、男は涙を流しながら謝っていた


「アリスさん、優しいから好きになってしまいますよね、でも、ちゃんと私達が弁えないと大変な思いをするのはアリスさん達メイドさんなんですよ」


男はとうとう泣き出してしまった

後はお店の判断に任せますと店長らしい人物に声をかけ、アリスに手を伸ばした


「大丈夫ですか?」

「は、い」

「よかった」


ふわりと笑う撫子に、顔を紅くするアリス

あ、落ちた

竹林と寺坂はただただ、メイド・アリスをレズビアンにしてしまったかもしれないということだけを心の中で謝り続けたのであった


「なぁ、竹林」

「なんだい、寺坂」

「男って・・・何なんだろうな」

「・・・さぁ」


パフェのアイスが溶けてると騒ぎ始めたイケメンを殴りに行こう

2人はそう決めて席に戻っていった

前へ次へ
戻る