体育祭
烏間や殺せんせーに伝えてから早数日
九月も後半に差し掛かり、体育祭の時期となった
今の所殺せんせーにも、E組にも狭間にも撫子にも特に変わったことはない
変わったことがないのが、不満だと撫子は思う
ふつふつと湧き上がる不満を振り払うようにクラス対抗男女混合リレーの練習に意気込んでいた
そのうち話すことにはなるだろうが、岡島と前原には父親のことを黙って貰っている
無駄に張り切っているようにみえる撫子をみて、寺坂グループ面々は勿論、その2人も心配そうに見ていた
「城戸ちゃんは何にでるの?」
「借り物競争!」
「リレーとか徒競走とかじゃないんだ」
「私まっすぐ走るの苦手なんだよねー」
「確かに訓練の時とか曲がったらすること多いね」
「そそそ」
ヘラヘラと笑い倉橋に相槌をうつ
体育祭は明日に迫っている
今日はもう帰るように、と早々に切り上げられ帰ることになる
「撫子かえ・・・」
「ごめん、私今日寄りたいところあるんだ、先帰るね!」
バタバタと1人で駆け出していく撫子
その背中を見ながら倉橋は狭間に声をかける
「なんか最近城戸ちゃん1人でいること多くない?」
「・・・あの子、重度のファザコンなのよ」
「え?それは知ってるけど・・・」
「倉橋の想像の10倍はファザコンなのよ」
狭間ははぁ、とため息をつく
寄るところなんて無いくせに
ただただ、父親の連絡を待つために早く帰っているだけなのだ
そういえばアイツの誕生日今月始めだったな、と思い出す
まだ、帰っては来ないのだろうか
「・・・ちょっと時期最悪かも」
「は?なんの?」
「撫子の」
ニコニコと笑ってはいるが撫子も怒らないわけではない
例えそれがいくら父親でもだ
本当にこの件は大人しく片付いてくれるのだろうか
狭間は頭を抱える
そんな狭間の様子と先程の会話を聞いていた岡島と前原も顔を青くしているのだった
ただでさえ男子としてはこの体育祭の棒倒しで磯貝の退学がかかっているのだ
五英傑にバイトをしている事がバレた磯貝
棒倒しで勝てば磯貝のバイトは見なかったことにするし勿論退学もなし
だが負けた場合は・・・
親友の危機に数日前は俺達で勝ちにいこうなどと豪語した前原なのに今で撫子のことが心配で仕方ない
三門とは円も縁もないただ単に割と近い所にある市ぐらいにしか思わないところにある謎の組織が殺せんせーの命を狙い、そのトップが父親
物凄く不安要素しかないじゃないか
烏間にもまだ話すなと口止めされてはいるがやはりここは・・・
うーん、と唸る前原の肩に強い衝撃が走り振り向くと寺坂がいた
「なんとなく察しは付いてっけど今は考えるのは別のことだろうが」
「・・・お前は知ってたのか、城戸のこと」
「知ってるから、何とかする」
ぱちくりと瞬きを繰り返し、寺坂を見つめた前原
え、なんなのコイツ
コイツってこんなに・・・
「お前って意外と頼りがいあるタイプだったんだな・・・」
「意外とは余計だ」
ずっと、撫子が寺坂グループでつるんでいたのが不思議だった前原
あぁ、きっとコイツのこういうところが気に入っていたんだな、と今は思う
「寺坂」
「おう」
「磯貝も城戸も、勿論狭間もなんとかしような」
「当たり前だ」
2人は俺の連れ出しな
前原は初めて、寺坂を頼もしく感じたのだった
***
体育祭当日
天気は快晴
ギャラリーは生徒だけではなく、今回は父兄もいる
E組である自分達には、応援にくる親はいないのだが
子供がE組で恥ずかしい
椚ヶ丘E組の親はきっと皆こう思っているのだろう
どことなく重い雰囲気が漂うはずだったのだが流石は親バカ殺せんせー
分身で父兄に化け、E組のギャラリーも異様な盛り上がりをみせていた
「おおー!!木村くん速い!」
「流石元陸上部!」
「皆も2位とかにはなれるけど、なかなか1位はとれないね」
ふとした疑問
あれだけ毎日訓練しているのに思いのほか足は速くない
その問に烏間は「長距離を長い時間活動、移動する・瞬発力を高める訓練はしているが短距離を速く走る訓練はしていない」と説明してくれた
なるほど、使う筋肉は違うのか
撫子は興味を持って後で調べられるよう頭の隅に入れておく
借り物競争の生徒は入場口前に集合してください、とアナウンスが入り、イトナと一緒に移動を始める撫子
E組だからきっと嫌がらせな内容なんだろうな、と苦笑いを零しながら第1走者のイトナを見送る
イトナが引いたのは「賞味期限切れのもの」
本来学校にそんなものはないがイトナ的にはイリーナは既に女として「賞味期限切れのもの」らしい
引っ張っていき、怒られているのがみえた
すごいな本当に、とマイペースぷりを見せるイトナに感心しながら気づいたら自分の番だ
さぁ、頑張ろう
ピストルの音と同時に走り出し落ちている紙を拾う
一番だ
心なしかE組以外の声援も聞こえる
速く借りに行こうと2つ折りされている紙を開いて・・・
そこから、動けなくなってしまった
『おおーっとE組どうした!?動けないぞ!?』
野次を飛ばすためだけのアナウンス
それはやはりE組を馬鹿にするもの
『E組の借り物は"家族"!自分の家族でなくてもクラスメイトの家族であれば可の優しい内容だったんだがE組では厳しいかー!?』
ヤバイ
そう思ったのはE組全員だが、より一層不安になったのは寺坂グループと前原、岡島
あらかた皆は"この勝負は勝てない"とだけのことなのだが、この面々は違う
ボーダーのこと、ボーダーと撫子のこと
知ってしまっているのだ
どのクラスも最終走者のものは難しいお題で、難航しているようだが立ち尽くしているのは撫子だけ
その顔は曇っていて、今にも歪んでしまいそうで・・・
「!」
手を、掴まれた
俯いていた撫子が顔を上げた先には背の高い男性
まさか、そんな
視線を男の頭部まで持っていく
見慣れた後ろ姿
でも、それは求めていたものではなかった
「妹が忘れた弁当届けに来たらタイミングよくって、あれ?もしかして自分から行くのはダメだった?そんなことはないよね?前のやつで自分から行く人いたから」
テープを切った後ニコニコとルールを確認するのは東春秋
何でここに、と思ったが殺せんせー暗殺をしようとしていて、ギャラリーに紛れて標的を観察するには絶好の機会だろう、と納得する
アナウンスがE組を馬鹿にするために言ってしまったお題のお陰で撫子は1位に慣れたのだが顔は浮かないでいる
E組も「え、あの人誰?」となっていた
「何だ?1位だぞ?」
「登場の仕方が腹立たしい、−50点」
「−50点!?」
「なんなの?ヒーロー的なつもりなの?バカなの?」
「お前な、少しは感謝しろよ!」
「わー、ありがとー」
「棒読みふざけんなよ」
ギリギリと睨み合う2人の姿にもう意味がわからないのだろう
迎えに来た狭間と寺坂により引きずられた撫子
そして、後ろから来た烏間により東も3人とは逆に連れていかれる
「ねぇ、あの人」
「岡野さん」
「あの時の人だよね」
あの時、イトナ騒動の時に撫子と岡野を見つけた人
撫子は俯いたままだ
「そ、それで私の従兄弟でどうやらボーダーがあのタコのこと狙ってるらしいわよ」
「え!?」
「それ大丈夫なの!?」
「私アイツ嫌いだから情報流す気ないし、なんとかなるでしょ」
撫子の父親のことは黙るように、と前原、岡島に目配せは忘れない
暫くして烏間が戻っきてどうやら本当だったらしい狭間の弁当をキチンと渡し、体育祭が終わったら話がある、とだけ伝えるのだった
***
弁当を食べたら元気を戻した、というぐらい元に戻った撫子
もう、東がここにいるのかどうかまではわからないがとにかく今は競技に集中だ、と意気込む
昼休憩が終わり、2人3脚、パン食い競争、障害物リレーが行われる
茅野の網潜りでの(体に抵抗がないためによる)素早さに驚きつつも、一番はパン食い競争で原がみせたパン丸呑みだろう
「飲み物よ、パンは」は名言である
そして最後の競技、男子対抗棒倒しに
これに負けてしまったら、磯貝は・・・
エキシビションとしてA組VSE組となっており、そしてA組には・・・
『A組にはエキシビションにのみ、海外交流として留学生に参加してもらっています!!』
最悪なことに4人の大柄な外国人がいた
どうするか、悩んでいる暇もなく開始のホイッスルが鳴る
まず取ったのは完全防御形態
ガチガチに全員守備で向かう
すると浅野は小隊をE組の方へ向かわせる
真っ直ぐこちらに向かってくる外国人に吉田、村松が立ち向かう
だが簡単に投げ飛ばされギャラリーにまで吹っ飛んでいってしまった
そして襲いかかってきた小隊、だがタダで負けるつもりも、そもそも負けるつもりもない
手前にいた数名が飛び上がり、そのままA組の上に乗っかり抑え込む
そしてそのまま棒倒しの棒の重みで押さえ込んだのだ
そのまま押さえ込みのメンバーを残し、全員でA組へと向かっていく
A組攻撃部隊が全員向かってきたところで、E組はギャラリーへと逃げ回ったのだ
ギャラリーで騒ぎまくるは身動きの素早いものにまかせ、A組の棒を倒しに行くE組
ギャラリーの方に夢中で浅野の指示は届かない
しかも最初に吹っ飛ばされた2人も先にギャラリーの後ろ側から移動し、A組攻撃班に加わり同様を誘っている
だが、だからといって浅野も弱い訳では無いのだ
平然とし、E組を薙ぎ払っていく
薙ぎ払っていくが、E組の方がよりしつこかった
攻撃部隊に加勢する守備部隊
守備はもう2人・・・寺坂と竹林しかいないがもうどうやっているのかわからない
竹林はテコの原理だと言い張り周囲を納得させているが、A組外国人選手と何やら話している様子をみるとそれ以外にも理由はありそうだ
表情が生き生きしている
守備部隊も同様にA組にまとわりつき、あしらい切れなくなった浅野
A組の棒がとうとうぐらつき始めた
そして止めは・・・
「イトナ!」
磯貝がA組の棒が離れたところからイトナを呼ぶ
磯貝を挟んでA組の棒とは反対側
イトナが助走をつけ、磯貝の所までいき、磯貝の組んだ手をバネに飛び上がりA組の棒、浅野よりも高い位置に勢いのまま突っ込み、そのまま棒は倒れていく
A組の棒が、倒れたのだ
E組の勝利である
「やったー!!」
E組から喜びの声があがる
磯貝の退学は無くなったのだ
そしてそのまま体育祭は幕を閉じる
「男子達皆かっこよかったね」
「えー、でも今日一番かっこよかったのは原さんだと思う」
「それは言えてる」
嬉嬉としてE組校舎へ戻る
仲間が無事、E組に、椚ヶ丘に存続した喜び
「皆、喜んでいる所、疲れている所申し訳ないが、昼に言った通り話がある」
それは長くは、続かないのだろうか・・・
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