"情けない"
ダメだ、と叫んだ声は届かなかった
迅は舌打ちを一つし、走り出した車を追いかける
だが相手は車で、迅はトリオン体とはいえ走りだ
追いつけなかった
小さくなっていく車を見ながら迅はため息を零した
城戸正宗に涙ながらに"嫌い"と言った少女の目は死んでいるように見えた
あそこまで絶望仕切ったような表情を見せた正宗はあの日以来だと思う
それでも駆け出す少女に手を伸ばし引き留めようとし、結局は届かずただその背中を見送るだけになっていた
足を止め、先程まであった事を思い出す
「城戸さん?」
「・・・」
黙り込んでしまった正宗に、狭間はため息をついた
「・・・追いかけるか?」
「律がいるから大丈夫でしょ」
あの子だって1人になりたい時ぐらいあるわ、と狭間は正宗を睨んだまま言う
中学生達の視線も、戸惑いはあるものの正宗を責めるようなものだった
そこから訪れた暫しの沈黙を破ったのは驚いたことに三輪だった
「撫子の言っていた事、本当なのか」
「あの子がこんなしょうもない嘘つくと思う?」
「だが・・・」
「アンタまさか撫子の父親死亡していての撫子の妄想癖説信じてたの?」
うぐ、と息を飲み込んだ三輪に呆れて狭間はため息をついた
撫子が小学校高学年の頃だ
撫子は父親の話をする割に誰も会ったことがないため、良からぬ噂がたったのだ
撫子の父親は本当は死んでいて、それでも生きていると思っている可哀想な子
三輪と狭間はそれをよく知っていた
「撫子に妄想癖があるとは思わないし、父親がいるならいると思ってるし覚悟も出来ているが正直、その・・・」
「覚悟ってどういう事なのか後で話し合うとして、正真正銘撫子の父親よ、昔遊んでもらったことあるもの」
なんならキャンプ等の泊まりがけのこともした事がある
全て途中からいなかったが
「ま、こんなダメ男だから妄想説やら都市伝説やらできるのよ」
「・・・撫子の父親に会うと死ぬってやつか」
「そんなのもあったのかよ・・・」
よくまぁ、そんな状況でもあれほどまでのファザコンを維持していたなと思う
それとも、そんな事があったからこそあれ程のファザコンになったのか
「でー?どうすんの城戸のお父さーん」
重苦しい空気の中、変わらずマイペースに話を進め出す赤羽
コイツは、と思ったが確かに撫子がいないこの状況は明らかにこちらの優勢だろう
「そもそも、私情で自分の部下使うんじゃないわよ、アンタがあのタコ殺したい理由は世界の為でも何でもなく、撫子への危害を無くすためでしょ」
「・・・殺せんせーは私達に危害を加える事は絶対にありません、それが理由なら今すぐ手を引いてください」
殺せんせーは死なず、校舎と自分たちが傷つくだけなら計画を止めるしかない
考えさせてくれ、それが正宗の決断だった
暗殺は先延ばしとなったのだ
さて、では俺はどうしようか
迅は部屋をぐるりと見渡す
相変わらず驚いたままな東隊
戸惑いを隠せていない上層部
何処か安堵しているものの、撫子を気にしてか顔を曇らせている中学生
そして・・・
「っ!?」
迅は慌てて走り出す
それは先程見た正宗が撫子に殺される未来が鮮明に映し出されていたからだ
「何処に行く!」
「この際嘘か本当かは知らないけれど、城戸さんの娘さんってのが気になってね」
窓から飛び出し撫子を探す
警戒区域を探し、時折鳴り響く警報音の音に不安になりながらなんとか見つけた時には何者かの車に乗り込むところだった
未来視というサイドエフェクトを持っているがそれはその場で見た人物の未来が見えるというだけで、ずっと監視することはできない
ましてや車を運転してい方は姿を見ていないため、未来すら見えない
引き止めないといけない
引き止めないと・・・
自分がこんな大きな声が出せるとは思わなかった
たが、結局止めることは出来ず冒頭に至ることになる
何処に向かったのか、何を企んでいるのか
撫子が本当に正宗を殺すのか
愛憎塗れた家族愛
止めなければならない
せめて、ボーダーを纏め上げる男だけでも、助けなければならない
「おにーさん、どうだった」
追いかけることを諦め、基地へと戻ると会議室から既に離れ、出入口付近にいた赤羽が声を掛けてきた
他の中学生も一緒だ
「・・・どうだと思う」
「手ぶらなんだから接触失敗したんでしょ、情けない」
「毒づくなぁ」
情けない、という一言が重く感じる
何で自分が中学生に責められないといけないのか
そもそも突然現れた城戸正宗の娘が悪いのではないのか
「ボーダーを掻き回して申し訳ないと思う」
「・・・」
「同業者から城戸を保護したと連絡があった、しばらくは彼女が城戸を預かるようだ、すまないが司令殿にもそう伝えてほしい」
「・・・わかりました」
今日は疲れた
特に任務もない、会議も今日はあれだけだ
さっさと伝えて玉狛に帰って寝てしまおう
迅は深くため息をついたのだった
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