一人ぼっち、二人ぼっち

イリーナは目の前で泣いているだけの撫子をみてため息を吐いた

今日は特に何も無い日だった

ガキども数人がボーダーに乗り込むだけ、自分には今回関係ない

絡みにいける烏間も動向しているので、本当に暇な日だった

部屋でゴロゴロとつまらなそうにiPadを弄りながら通販サイトを眺める、そんな一日のはずだった

突然訪問を知らせるチャイムがなり、出てみると既に涙腺崩壊している撫子の姿がカメラに映る

何事かと開けてやり、中に入れるが何も喋らなかった

確かコイツもボーダー乗り込みメンバーだったはずだと、とりあえず烏間に連絡したらしばらく様子を見てやってくれとだけ返ってきた

何なんだ本当に

いまだふかふかのソファーの上でふわふわのクッションを抱きしめ泣き続ける撫子

もうあのクッションは使い物にならないだろう、と思う


「あのねぇ、本当に何があったのよ」

「・・・って、・・・、く、・・・て」

「はぁ?」

「お父さん、子供いないって、もう訳わかんなくてっ」


ボロボロと嗚咽混じりに言葉を出す撫子に、イリーナはどういう事なのかと顔を歪ませた

少なくともあの男はイリーナに撫子は自身の娘だとわかる発言をしている

間違いなく撫子はあの男の娘である


「そんなの、誰が言ったのよ」

「・・・ずっと一緒にボーダーしていた人」

「あー・・・」


あの男の事だ、ボーダーに撫子を入れたくない一心で隠してきたのだろう

それが今マイナスになっているのだが


「私、いらない子なのかな」


ぐずぐずと鼻水を啜る撫子にティッシュを渡し、鼻をかませる

お高いヤツだ、とおフザケを言える程度には回復したようだ


「何言ってんの、アンタ中学生なんだしそこは"アンタなんかこっちから願い下げだよ!"ってぐらいに反抗期見せたらどうなの?」

「反抗期なんかになったらそれこそ本当に捨てられるよ」

「・・・」


ネガティブ過ぎる


「とりあえずこれでも飲みなさい」


カタン、とソファー脇にあるテーブルに置いたのはホットミルク

ガキだしこんなんで大丈夫でしょ、とそれでも撫子を心配して作ってみたのだ


「ただの牛乳・・・」

「文句あんなら飲まないでくれる」

「飲む」


少しずつ飲んでいくのを確認して、イリーナは撫子に今日は泊まるように言った


「さっさとシャワー浴びてきなさい」

「着替えない」

「そんぐらい貸すわよ!!」


無理やり撫子を浴室に押し込み、服を脱がせ風呂場に入れる

制服を洗濯機に入れ回してから明日学校だ、と思ったが知ったこっちゃない

どうせ理由は知られているだろうから自分の服で登校させてやる


「イリーナさん・・・」

「何よ」

「これ、派手すぎない?」

「一番地味なのくれてやったんだから我慢しなさい糞ガキ!!」


撫子を入れてから数十分

出てきたと思えば文句を言う撫子に軽く蹴りをいれる

少しだけじゃれ合った後、ようやく落ち着いたのか少し息を荒らげながら2人でソファーに座った


「落ち着いたわけ?」

「少し」

「あのさ、私が言うのもなんだけどアンタの父親はちゃんとアンタが好きだと思うから、安心しなさい」

「・・・うん」


自分の言葉でどれだけ安心させることが出来るのかわからないが、それでも勇気づけることが出来るのならそれでいいのだろう

まるでらしくない事をしているが

自分は殺し屋

目の前のガキのお守りなんか本来なら・・・


「イリーナさん?」

「っ、そういえばどうやってここまで来たの?ボーダー基地からだと遠いじゃない?」


考えていた事を悟られないように話を逸らす

あからさま過ぎたが、この娘は賢いからそのまま流してくれるだろう

案の定流したまま、自分の質問に答えてくれた


「ちょっと前に仲良くなった花屋さんが連れてきてくれました」

「花屋?」

「配達途中だったみたいです、たまたまここ付近に用があったみたいで・・・」

「ふーん、偶然ってあるものなのねぇ・・・で?アンタはそのお兄さんに惚れちゃったわけ?」

「なっ、はぁ、?」

「わかりやす過ぎよ」


デコピンをくらわしてから、立ち上がり夕飯の支度に取り掛かる

元々今日は外食でもする予定だったが撫子がいるから変更である

手軽に作れるパスタと適当にサラダでも出せばいいだろう


「手伝います」

「そ?じゃぁ・・・」


隣でちょこちょこと手伝いをする撫子をみて、妹とはこういうものなのだろうかと思う

もし、普通の生活をしていたら・・・とまで考え首を横に振った

最近こんな考えばかりしてしまう


「そういや明日の勉強道具とかどうすんのよ」

「あー、どうしよう・・・宿題もあるのに・・・」

「1回取りに帰る?送るわよ」

「でも・・・」

「私もいるし、いいじゃない・・・ついでに着替えも取って来なさい」


既に出来上がっているサラダを冷蔵庫にいれ、出掛ける支度を始める

幸いパスタの麺は茹でていないので後からでも何とかなるだろう

撫子を引っ張り車に乗せる

渋々といった感じでシートベルトをするのを確認し車を走らせる

遠くで近界民出現を知らせる警報が聞こえた

***

「玄関で待っててあげるから早くしなさい」


イリーナが動く気が無いのを悟ったのか、渋々と鍵を開け、中に入っていく

バタバタと音を立てて自室へと駆け上がる

音を立てるのも、電気を付けるのも、中に誰もいないと分かっているから

隠れる必要などない

誰もいない

それがまた撫子を傷つけるのだ

もし、ここで父親がいたら

それこそ気まずくなるだろうが、それでもそれで、撫子は救われたかもしれない

まだ"城戸正宗にとって心配はする人物"でいられると思えただろう

自分の部屋までついて、息を吐く

しばらく生活に必要なものや学校の教材をキャリーバッグや旅行用のボストンバッグに詰め込んでいく

ほとんど空になったタンスに、スカスカの本棚

あぁ、ここから出ていくんだ

急に虚しくなった

また出てきそうになる涙を堪え、階段をかけ降りる

お待たせしました、とイリーナに言うとイリーナは柔らかな笑顔で迎えてくれた

荷物を後部座席に乗せ、来た時と同じく助手席に乗り込む

ズキズキと痛む心臓を無視して、目を瞑る

帰ったら、イリーナの作ったパスタが待っている

この状況をむしろ楽しむべきだ

楽しんでしまえばいいのだ

楽しんで・・・


「泣きたいならさっさと泣いときなさい、別に泣くななんて言ってないんだから」

「・・・何それ」

「そんな酷い顔して、むしろ泣くなって言う方が酷でしょ、私運転して見えないから泣きなさい、っていうか、さっき散々泣いてたんだから今更でしょ」

「・・・」

「何よ」

「ビッチのクセに何でそんな男前みたいなこと言ってんの」

「走行中に引きずり下ろしてやるわよ!?」

「あははっ」


笑って、笑いながら出てくる涙

泣いたのを確認して、イリーナは黙って運転に集中する

人間泣いた方がいい時もあるのだ

この子はきっと、泣くことをあまりしなかったから

だから


「大丈夫よ、ちゃんとアンタの父親はアンタを愛してるわよ」


あの男も不器用なだけだ

必ず迎えに来る

それまで待っていればいい

それぐらいのワガママをやっても、許される

子供だもの

娘だもの


「泣いて塩辛くなったしカルボナーラとかのマイルド系統がいいかしら?」

「からかうのやめてください」


フニフニと頬をつついてやると嫌そうに祓う

調子戻ったきたな、とイリーナは満足し、車から降りた

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