闇は溶けて消えていく

今日は休む

撫子はイリーナにそう伝えると外に出た

特にイリーナは何も言わずに送り出してくれたので、撫子はそのままふらふらと散歩してみることにした

自身の家からそう遠くはない場所だが来たことは無い所で、新鮮味を感じる


「撫子ちゃん?」


不意に名前を呼ばれ振り返ると雪風の姿

最近よく会うな、と思いながら近づく


「おはようございます」

「撫子ちゃんが心配で近くをウロウロしてたんだ、会えてよかった」

「・・・そうでしたか」


昨日、飽きれるほど泣いて、スッキリして、そこで漸くいつもの調子に戻って思った

前々から違和感の様なものは感じてはいた

その違和感を無視して、この男に甘えたのは自分自身

どんな結果なろうと文句は言えないだろう

でも・・・


「学校は?」

「今日は、休みました・・・ずる休みです」

「悪い子だなぁ」

「・・・貴方よりはマシですよ」


一瞬、雪風の顔が強ばった

「どういうこと?」と笑顔を見せながら問いかけられたがそれすら貼り付けられた乾いたものの様に見える


「多分、初恋なんです、お兄さん」

「それは嬉しいね」

「だから、凄くショックなんですよ」

「・・・僕は君の思いを受け取らないと思うの?」

「そういうショックじゃなくて」


何て言えばいいのかな

撫子はわしわしと頭をかく


「お兄さんって何者ですか」

「・・・」

「最初から、ちゃんと考えてれば良かったんですけど・・・何時も私が弱ってる時ばかり出てきて、警戒心薄くなってました」

「何が言いたいんだい?」

「お兄さん、私を殺すんですか?」


撫子の目が真っ直ぐと雪風を捉えた


「・・・何で、そう思ったの?」

「直感です」

「・・・参ったなぁ」


そう言いながら雪風は撫子に背を向ける

参った、とはどういう意味なのか

仲良しになった女子中学生が突拍子の無いことを言い始めたことか

それとも、的に外れることなく的中したことを言われてしまったからか


「まだね、言いたくなかったんだけど」


何処からか甘い香りがしてくる

大切な話をしている途中なのに、意識が霞んでいくようなそんな感覚

脳が、全神経が危険だと叫んでいるのに、意識はゆっくりと落ちていく


「まず一つ、雪風泉なんて男は存在しないよ」


雪風が振り返ったと思ったら、口にはマスクがつけてあり、この甘い香りが危険なものだと理解する


「わざわざ君が弱ってるところを狙っていたんだ、許してね」


立てなくなって、膝から崩れ落ちそうになる

それすらも見越してなのか簡単に支えられてしまった


「僕はね、死神、その手の世界ではそう呼ばれてるよ」


目が開けることすら困難で、ゆっくりと瞼が落ちていく

撫子の視界には雪風・・・死神の歪んだ笑みを浮かべる口元しか映っていない


「目的は2つ、1つは君の先生を殺す、でもそれは君だけではなく生徒全員が欲しいかな」


その為の駒もちゃんと見つけているんだよ

くつくつと笑う死神の声も、もうよく聞こえない


「そして、2つ目はね」


耳元で囁くように、でもハッキリとしたその言葉に、撫子は何とか抵抗しようと体を動かす

眠さのあまり鈍くなった動きは、死神にしたら抵抗にも何もなっていないのだが

嫌だ、嫌だ

悔しさからボロボロと涙が溢れていく

やめて、そんなことしないで、お願いだから


「ほら、ゆっくり眠っておいで、大丈夫、ちゃんと見せてあげるから」


死神が何かを言っているが、もう聞き取れない

ゆっくり、ゆっくりと深い闇に落ちていくような感覚だ


「や、めて・・・」


やめて、来ないで、助けないで、逃げて

お願い、どうか、どうか・・・


「おやすみ、城戸撫子さん」


お父さんを、殺さないで・・・

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