事件は閉幕へ
「イリーナさん?」
ぼーとする視界の中映るのは金色のウェーブのかかった髪
なんでココに
口にしようとした言葉はイリーナの指により発せなくなった
「3日も連絡取れなくて心配したのよ・・・解毒剤、飲んどきなさい」
ごくん、と飲むのを確認するとイリーナは立ち去ろうとする
「イリーナさん」
「これからアンタの父親が助けにくるわ、そしたらもうさっさといなくなりなさい」
「イリーナさんは?」
「私は・・・」
私はこれからアイツらを殺すのよ
悲しそうな表情に、何かあったのかと察したが、言葉の意味がわからない
殺す、アイツら、皆を、殺す?
「なんで」
「・・・私は殺し屋なのよ」
「でも、イリーナさん今私助けた」
「・・・黙って、父親を待ってなさい」
「イリーナさんは絶対に殺したりしない」
バタン、と無情にも扉が閉まる
プロの殺し屋に何を言っているんだ
「・・・大丈夫、だよ」
誰に聞かせるでもなく撫子は目を瞑った
「撫子!!」
肩を揺すられ、目を開ける
狭間や寺坂の姿が見えた
「目ぇ覚ましたぞ!!」
「城戸さん!大丈夫!!?」
「くっそ、この鎖外せねーのかよ!!」
ガチャガチャとすぐ横で音がする
逃げて
解毒剤の副作用なのか、声が出ない
イリーナはきっと殺せない
でも、死神は?
死神に殺されるのは、自分だけで・・・
「こーら、ダメじゃないか」
背後から音なく近づいてきた死神
ドサドサと崩れていくクラスメイト達
「君たちの死に場所はそこじゃないんだよね」
ニコニコと笑う死神
撫子は口をぱくぱくと動かし何かを話そうとするが、声はやはり出なかった
「ほら、撫子ちゃんもそこにいてね」
殺すなら、私だけにしてくれればいいのに
私を殺せば、好きな人は喜んでくれるんでしょ?
「しに、が・・・」
声は誰にも届かない
「っ、うう・・・」
場所は代わり何処かはわからない広い部屋
牢屋の格子の様なもので区切られた空間の入口のない方にE組生徒は捕まっていた
「君たちは餌になってもらうよ」
餌・・・殺せんせーを誘き出す為の餌
全員が悔しそうに唇を噛む
イリーナが裏切り死神につき、こうやって捕まってしまう
「・・・撫子は」
「撫子ちゃんは別の餌だよ、どっちにしても殺すけど」
「アンタね!!」
格子を掴み、死神を睨みつける狭間
そんな狭間を見ても死神は鼻で笑うだけだった
「ん?」
パソコンから聞こえた音に死神は目を向ける
思いの外早い来客に驚いた様子だが、構わないと笑う
E組達が入ってきた入口からは犬の格好をした殺せんせーと烏間が
そして、また別の入口には・・・
「じゃぁ、始めようか」
死神はニッコリと笑った
***
正宗の視界に映るのは檻の中に入っている娘のクラスメイトと、その教師もとい破壊生物
娘が殺せんせーと呼んでいたことを思い出したが今はそれどころではない
話を聞いているとイリーナが捕まったと言われ、助けにきた娘クラスメイト達
そして、捕まった生徒を助けに来た教師2人
生徒と共に捕まっている破壊生物も、イリーナに騙されそこにいる
現在主犯である死神と名乗る男を捕まえに無事だった烏間が動いているそうだ
死神を捕まえなければ、目の前にいる者全員が殺される
正宗はどうでもいい事だった
「・・・撫子はどこだ」
「城戸、ビッチに匿ってもらってたから、死神に捕まってたんじゃ・・・」
「だからあんな具合悪そうに・・・」
「娘はどこだ!!」
子供が相手でも、大人でいられるほど大人になれなかった
早く見つけ出したい
例え今目の前にいる者達を殺すという選択になったとしても、必ず助け出す
『いやー、怖いなー、城戸正宗さん』
設置されていたスピーカーから聞こえた声に正宗は無駄とわかっていてもその無機物を睨みつけた
『撫子ちゃんは下にいますよ、そこから出たら下に続く階段がありますからどうぞそちらに』
プツンと一方的に切られる音声に舌打ちをする
明らかな罠だがわからない以上行くしかないのだろう
殺せんせーを一瞥し、正宗は部屋から出る
何故、あんなバケモノを娘が必要とするのか、執着するのか
殺し屋のあの女に騙され間抜けにも捕まる教師ならクラスメイトもクラスメイトだ
優しいから、疑えなかった
まず、あの女が、あの男がどれだけ危険なのか話さなければならない
あのクラスメイトがどれだけ足を引っ張るのか教えなければならない
どれだけ心配したのか、伝えなければならない
ドォン・・・
頭上から聞こえた爆発音
上から来た風圧と瓦礫により正宗はうつ伏せに倒れた
大きめの瓦礫が背中、頭と当たり頭からは血が流れてしまった
背中に落ちてきた瓦礫に圧迫され、息も上手くできない
足に力を入れ、立ち上がる
トリガーを持ってくればよかった、と今更ながらに後悔した
頭に血がのぼっていたのだ
トリガーを起動し、何かしら武器を出したとしても、それで人は殺せない
殺すつもりだった
死神を、殺す気でいた
選択を一つ間違えたと、唇を噛む
一つ下の階に降り、全ての部屋を確認するがどこにもいない
もう一つ下なのか・・・
下へと続く階段の半分ほど降りたところだ
水が流れる音がした
腰に装備していた拳銃を手に取り、少しずつ足を進める
廊下に水が流れ込んでいた
既に深さは膝上まできている
もしこの階より撫子がいたら
考えるだけで恐ろしかった
バシャバシャと動きにくいが水をかき分け進む
奥の部屋の扉を開け、そこでぐったりとしている娘を見つけ安堵の息をついた
「撫子」
撫子を抱きしめ声をかける
息はしているが返事はない
何とか連れていかなければ
手足に繋がっている鎖をなんとか外そうと動かしたり、銃で撃ってみたりしたがびくともしない
トリガーがあれば
頭に血が登りきっていたといえ、不用心にも置いてきた自身を恨む
「おと、うさん」
水の音に掻き消されそうな小さな声
バッと撫子の顔を見るとポロポロと涙を流していた
「ごめんなさい」
「撫子」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
何に対してのごめんなさいなのか
そんなのはもうわからない
謝らなければならないと、そう思ったのだ
正宗はぐっ、と手に力を入れ抱きしめる
逃げて、ごめんなさい、お願い死なないで
この娘はいつもそうだった
いつもどんな時だって私を一番にしていた、と正宗は思う
「・・・お父さん?」
「お父さんが、お前を置いて行けると思ってるのか」
何度だって、手放さないといけないと、置いて行かないといけないと思ったことがある
それでも今、こうやって腕の中にいるということは・・・
「置いていけるものなら、とうの昔に置いていっているだろうっ!!」
自分の元から去ろうとしていることにすら、恐怖で押し潰されそうだというのに
安全なところに閉じ込めるだけではダメだということぐらいわかっている
手の届く範囲に置いておきたい
すぐに守れる所にいてほしい
撫子、お前は私の大切な・・・
「・・・泣かないでよ、お父さん」
「・・・泣いていない」
ぐっ、と拳に力を入れ、立ち上がる
「待っていろ、撫子」
鎖を持って壁から引き剥がそうと力任せに引っ張る
ガッ、ガッ、と音はするもびくともしない
そうしている間にも水は既に腰あたりまで来ていた
立ち上がる事のできない撫子は、膝たちでなんとか息ができるという状況だ
撫子を背負い、再び鎖を引っ張る
再び頭上から爆発音が聞こえ、顔を上げる
落ちてくる瓦礫と大量の水
即座に体制を変えて撫子を抱きしめ庇う体制にはいる
大量の水が一気に襲いかかる
部屋いっぱいに入ってくる水
撫子の鎖のせいで空気がある所まで浮くことができない
流れる水の勢いのせいで四方の壁に叩きつけられ、意識も朦朧としてしまう
せめて娘だけでも・・・
抱きしめて上を見上げた時だ
「アステロイド」
声とともに壁が破壊され、水が一気に流れ出す
何かに抑えられ、2人が流されることはなかった
「・・・木崎」
「この子が娘?もうぐったりしてるじゃない」
「小南もいたのか」
撫子と同い年くらいの少女とガタイのいい男
ボーダー玉狛支部にて活動している木崎と小南がいた
「本当に似てないわね、本当に親子?」
「うるさい」
撫子が息をしているのを確認し、安堵の息をついた
「迅から話を聞いて、援護にきました」
「・・・すまなかったな」
何に対しての謝罪なのかは、木崎は深く聞かなかった
気にしないでください、と正宗の腕の中で眠る撫子を一瞥し、上を見上げる
この分なら生身の人間2人を抱えて上がるのは余裕だろう
「・・・お父さん」
「起きたか?」
「・・・皆は?」
「皆?」
あぁ、クラスメイト達の事か
まずは自分の事が最初じゃないのか、言いたい文句は山ほどあるが、上から聞こえる撫子を探す声にため息を漏らす
「お前の担任が助けに来ていた、無事だろう」
檻に閉じ込められていたが
体の後ろ側に集中した怪我のせいか立ちくらむのを木崎が受け止める
小南に撫子をまかせ、4人は上へと向かう
ちょうどいたE組と鉢合わせ、互いに安堵の息をつく
「城戸ちゃん!」
「息は!?してる!?」
「撫子!目を開けなさい!」
「いた、ねぇ痛いってね、あああ」
がくんがくんと強く揺さぶっていくクラスメイト達に目を開けられるものも開けられない
「撫子、アンタ解毒剤は飲んだからって体力は戻ってないんだから、無理はダメよ」
「イリーナ先生はなんでそんな刺激的な格好しているの?」
「ほっときなさい」
「ビッチ先生、怪我人に悪態ついたらダメだよ」
「優しくしろよビッチ、これだからビッチはよぉ」
「きぃー!!アンタ達調子乗りすぎなのよ!!」
アハハ、と湧き上がる笑い声
ボーダー3人は呆然と眺めていた
「お父さん」
「ん?」
「私、この人達が大好きなの」
きゅ、と掴まれた服の裾
弱々しい声だが、はっきりとしていた
「撫子」
「・・・ちょっと、まだ、眠い」
「寝てなさい」
話の続きは起きてからだ
少しぐらいの我儘、聞いてやってもいいだろう
正宗は真っ直ぐ殺せんせーの方を見る
「その黄色い腹立つ物体」
「にゅや!!私の事ですか!!?」
「娘の事、卒業まで頼んだぞ」
ボーダーには悪いが3億は消えてしまった
それでも、娘が笑ってくれるなら
「撫子は後はもう寝かせとけば大丈夫よ」
「・・・そうか、しばらく玉狛で寝かせといてくれないか?使っていない部屋まだあるだろ」
「了解、レイジさん、私その子担ぐわ」
「撫子・・・」
狭間が心配そうに撫子に近づく
小南は真っ直ぐと狭間を見つめたあと、一緒にくる?と小さく言った
狭間は小さく息を呑むと一緒に行く、とあとを付いていく
そして、その日は、これで解散となった
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