それぞれの思い

既に食事を終えた面々が、撫子を待つべくリビングに集まっていた

木崎が淹れた珈琲を飲み、正宗はこれからの事を考える

これ以上撫子の事を隠せるわけもない

誰もが撫子をボーダーに入れようと思うだろう

撫子自身もボーダーに入りたがっていた

でも心の何処かで嫌だと思ってしまう己がいて、正宗はため息をついた

今ここにいるのは正宗、小南、木崎、迅、林藤、忍田

そして一緒に付いてきた狭間だ

視線は皆正宗の方を向いていた

撫子が眠っている間、片時も離れようとしなかった男が漸く目の前に現れたのだ


「まず、お子さんがいた事について説明ください」

「・・・言っていなかったか?」

「私は知っていたわよ」


小南の発言に、正宗以外の者が驚く

知っていた者がいた事に狭間は驚きを隠せない


「私がここ知った時ぐらいよ、娘と同い年の子供を戦わせられないって言われたもの」

「なるほど」

「娘と会うのは初めてだけどね」


その割には馴れ馴れしい気がすると狭間は思う

先程も名前で呼んでいたことを知っているのだ


「既に中学3年生である撫子さんに何でボーダーに入れさせなかったんですか」

「それはコチラの問題だろう」

「コチラって、我々にも関係はあるだろう!!」


声を上げる忍田を横目に狭間はただただ時計を見つめる

正宗がここに来て既に一時間

あの子はこんなに長風呂する子だったろうか

それは正宗も同じなようで、忍田の話をまともに聞いていないことが目に見えるくらいだ


「すまない綺羅々さん、撫子の様子見てきてくれないか?」

「アンタが行けばいいじゃない」

「親子でも年頃の娘の風呂場を見るわけにはいかないだろう」

「・・・」


確かに無言で行ったら行ったで狭間は確実に正宗を罵るだろう

だが、この男に指図されたのが少し、いやかなり嫌なため普段なら率先してやる事ですら気が重たくなって仕方ない

風呂場がわからないので小南に案内させる

風呂場の前でカピバラに乗った子供が震えていた


「ちょっと何してんのよ陽太郎」

「何なのこのガキ」

「こなみかぁ・・・」


どことなく偉そうな喋り方は涙のせいで震えていた

陽太郎曰く、誰もいない風呂場から泣き声が聞こえるらしい

撫子がいるから誰もいない訳では無いが陽太郎はその事を知らない

小南が中にいることを説明するが、なら何故泣いているのかわからない


「撫子、入るわよ」


返事を待たずに扉を開ける

脱衣所には誰もいない

なら、と浴槽のある方の扉を開けた


「・・・アンタ何してんのよ」

「・・・綺羅々ちゃん?」


全裸でボロボロと涙を流しながら冷たいタイルの床に座り込んでいる撫子がいた

どういう状況だよこれ、と狭間は頭を抱えそうになった


「何で泣いてんのよ」

「怖いの」

「はぁ?」

「お風呂怖いのぉ」


溢れてきた涙を拭いながら狭間の服にしがみつく

狭間はタオルを撫子に被せてやりながらしゃがんで抱きしめた

なんでいきなり風呂が怖くなったのか

・・・いきなりでは無いのだろう

あんな経験をすれば水を怖がるのも無理はないのかもしれない


「ねぇ小南さん」

「何よ」

「私取り敢えず撫子と一緒に風呂入れさせるから説明しといてくんない」

「・・・まぁ、仕方ないわね」


陽太郎を連れてリビングに戻る小南を見送ってから扉を閉める

シャワーは大丈夫なようで、1度浴びているようだ

浴槽の蓋を半分ほど開けてから、溜まった水を見て怖くなったのだろう

今日は浴槽に入れるのは諦めて、冷えた体を少しでも温められるようにシャワーの蛇口を捻ったのだった

***

「ご迷惑をおかけしました」


小南の服に着替えた撫子は顔を真っ赤にして謝っていた

助けぐらい呼びなさいよ、と言う小南に再び謝罪するがまず声が出なかったのだから仕方ないだろう

話を聞いたらしい正宗も、心配そうに撫子の濡れたままの髪を撫でた


「ほら、こっちこい」

「・・・ちゃんと1人でできるよ」

「いいから」


ドライヤーで撫子の髪を乾かし始める正宗に狭間以外の一同が目を丸くする

小さい頃に見たことあるし、撫子から今も時々そうされるのだと聞いていた狭間は特に反応は無かったが


「よし」


視線が気になってかどことなく恥ずかしそうな撫子と満足気な正宗

私も乾かしてあげたかったな、と思う狭間

何事もなかった様に終わる二人をみて、それぞれが姿勢を正す

話はこれからなのだ


「まず、何から話すか」


正宗は息を吐く

撫子は一番聞きたいことがあった

でも、それは今聞いていいのか、聞かない方がいいのか

言葉がなかなか出てこない


「撫子、お前の希に見せる鋭い直感能力の事だが」

「希とか言わないでよ」

「サイドエフェクトだと思う」


撫子の言葉を無視して続けた言葉に、撫子と狭間と小南以外が険しい顔をした


「サイドエフェクトって?」

「特殊能力みたいなものよ、今の聞いた限りだと撫子のは"超直感"とでもいうんじゃない?」

「あー、なんか納得だわ」

「因みに迅は"未来視"のサイドエフェクトを持ってるわ」


チラリと迅の方をみて、またすぐに視線を戻す

やはり苦手意識は拭えなかった

そんな行動を取られるだけの事はしてしまったと自覚がある分迅も苦笑いを零すだけだ


「そのサイドエフェクト?ってやつで何でこんなに険しい顔してんのよ」

「サイドエフェクトがあるって事はボーダーで必要になるトリオンってのが沢山あるのよ」

「トリオンってアレだよね?簡単に言うと体作ったり武器作ったりするやつだよね?」

「ざっくり言うとね」

「詳しいのね」

「・・・ノーコメントで」


父親の部屋にあった資料を漁ったとか言えない

撫子は笑顔で促す


「撫子には後で個人的に話があるとして」


流石父親と言うべきなのかむしろわかり易すぎるだけなのか、撫子がそれらを知っていた理由が分かった正宗は自身に非があると分かっていても少し撫子を睨んだ

この際その場にいた全員が体を強ばらせる程の表情となったのだが、撫子は「あ、やばい怒られる」ぐらいにしか思わないし、正宗もその程度のつもりである


「昔・・・小学生の頃に測ってみたトリオン量は相当な物だったからおそらくサイドエフェクトだろう」

「え?測ったことあるの?」

「昔に1回、興味本位で」

「何でその時我々に報告してくれなかったんですか!」

「可愛い娘を誰が戦場に送り込めるか」


正宗の手は震えていた

聞きたかった答えを聞けたのだと思った撫子

でも、それだけではまだ怖かった


「お父さんは私が邪魔だからボーダーに入れなかったんじゃないの?」


撫子にとっては純粋な疑問だった

まさかこんなに穏やかな感情で聞けるとは思わなかった

ボーダーというサイドエフェクトというもののお陰で少なくとも「父親に愛されてはいる」とは思えていたが正宗の行動に態度にその直感は簡単に崩れていく

必要とされたいのだ、この男に


「お前の事はずっと傍に置いておきたいぐらい愛しているよ」


よくもまぁ恥ずかしげもなく言えるな、と狭間は思った

撫子が嬉しそうならそれで構わないのだが周りのことも考えてやってほしい

林藤は驚きのあまり加えていたタバコを太ももに落としている


「じゃぁ、ボーダー入らなくていいかなー、私」

「!!?」

「邪魔だから入れない、じゃなくて心配だから入れたくないってならねぇ?」

「アンタあれだけ入りたい言ってたじゃない」

「お父さんが心配するなら私は別にいいよ」

「それはボーダーが困る事になる」


忍田の強めの発言に当たりは一気に静かになった


「・・・確かに、今はまだボーダーも人手不足だしなぁ」

「資料は目を通しました、撫子さんはその、国の暗殺計画とやらで相当訓練を積んでいるようだしすぐに戦力になるのでは?」


林藤、木崎の言葉は最もである

ボーダーが表立ってからまだ2年、人は少ない

戦力になるのなら直ぐにでも加わってほしいところなのだ


「でも印鑑とかお父さん持ってるし」

「このオッサン何とかしないと撫子はボーダーは永遠と無理って訳ね」

「キミ・・・城戸指令をオッサンなどと・・・」

「まぁ、お父さんは充分オッサンだよね」

「・・・」


世界で一番カッコイイけど

言葉にはしないが顔がそれを物語っていた


「じゃぁ、城戸さんの説得は大人達に任せとけばいいんじゃない?撫子、お腹空いたでしょ」

「うん」

「話はまだ・・・」

「レイジさんのご飯凄く美味しいから食べていきなさいよ」

「迷惑じゃない?」

「今まで俺たちの方が撫子さんに迷惑を掛けていただろう、それぐらいどうってことないさ」

「手伝います」

「綺羅々ちゃん手伝うなら私もー!」

「アンタ達料理出来るの?」


ワイワイと盛り上がる女子3人を見てから木崎は忍田達に目を向けてこれ以上は何を言っても無駄だろうと首を横に降った

それに木崎が言った通りボーダーは撫子から父親を奪いすぎた

例え、ボーダー創設者だったとしても、必要以上に長い時間を奪ってしまったのだ


「撫子さん、狭間さん、二人は今日は泊まっていけ、明日送っていく」

「お兄さん運転出来るんですか?」

「免許はある」

「撫子どうせ寝すぎて眠れないでさしょ?いろいろ聞かせなさいよ」


女子はこんなにも早く仲良くなるものなのだな、と正宗は関心する

昔は人見知りで自身の足にしがみついては離れなかったのに

時間が経つのは本当に早いものだ


「撫子、お父さんは溜まってしまった仕事片付けないといけないから本部に戻る」

「・・・うん」

「・・・」


今だかつてこんなにも仕事をしたくないと物語っている正宗を見たことがあるだろうかと狭間と撫子以外の者が思う

二人は割と見慣れているが、それ以外はにとっては信じられないものだろう

今日あった出来事全てが"今"の正宗からしたら信じられない事なのだが


「お仕事頑張ってね」

「あぁ」

「行ってらっしゃい」

「行ってくる」

「夫婦か」


二人のやり取りは狭間が突っ込むまで続き、正宗、忍田、林藤が居なくなった事で漸く平穏が訪れたような気持ちである


「迅はいいの?行かなくて」

「今日はオフなんだよ」

「撫子さんは苦手なものとかあるこ?」

「さん付けってなんかむず痒いので撫子でいいですよ、強いていうならアボカドが苦手です」

「アボカドは今はないな」


時刻は夕方5時

そろそろ夕飯時である


「撫子、今日は狭間さんに手伝って貰うからお前は心配掛けまくった奴らに目が覚めたことを伝えてやれ」

「へ?」

「携帯、さっき寝てた部屋にあるわよ」

「!!」


ありがとうございます、と頭を下げた後バタバタと掛けていく撫子

木崎と小南は迅に視線を向ける


「ほら、1人にしてやったんだから謝ってこい」


狭間もなんとなく気づいていたのか今回は口を出さない

迅は困ったように頭をかいた後、わかったよとため息をついたのだった

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