仮入隊
「すまないが君達は少し外にいてくれないか?」
疑問符の付いたような言い方だが、その言葉に断るという選択肢はないように思えた
黙ってうなづいた3人を見てから、正宗は撫子を司令室に通す
「お前はどうしてボーダーに入りたいんだ」
通すなり、互いに座ることもなく目を合わせながら、正宗は撫子に聞いた
「どうしてって」
「私の役にたちたい、というのは却下だ」
「・・・なんで?」
「私はお前を便利な駒のような扱いはできないよ」
正宗の言葉にぐっ、と言葉を詰まらせる
便利な駒・・・言い方は非情だが、上にたつ者として仕方ないことなのだろう
それができないのはつまり、自分を大切にしてくれているということなのだということもわかる
「お前の我儘に、友達も巻き込んで、それでもボーダーに入りたいか?」
巻き込んで、本当にその通りである
快く(半ば強引ではあるが)承諾してくれたが、これから受験もある、暗殺もタイムリミットが近づいている
ボーダーに入る余裕なんてないかもしれない
誘う時から分かっていたはずなのに、言葉にされると重たく感じた
「撫子、お前の事はお父さんが必ず守る、だからお前はこんなことしなくていいんだ」
こんなこと、なんて言わないでほしい
この人が一生懸命、それこそ顔にも心にも大きな傷を作ってなお築き上げたものなのだから
その中に、私は入れなのだろうか
ぐっ、と拳を強く握り、正宗を睨む
睨みたい訳では無いが、そうでもしないと涙がでそうだった
「お父さんが、そういうこと言って私からボーダー遠ざけたいのはわかってる」
「サイドエフェクトか」
「そんなの無くてもわかるよ、お父さんだもん」
涙を堪えようも声が震える
何のためにボーダーに入りたいのか、本当はお父さんの役にたつなんて関係ないのだ
「私がお父さんの側にいたいからボーダーに入りたいっ!チーム組むなら皆がいい!そう思ったからボーダーに入りたいし、ボーダーに誘ったの!たとえ0からのスタートでも頑張るよ!!」
声に力が入り、変なところで裏返る
そんなことすら気にせずに撫子は正宗をまっすぐ見つめる
「別にお父さんの娘だからってボーダーに特別扱いで入りたいわけじゃない!ボーダーの試験だってちゃんと受けるし!皆にもちゃんともう一度話す!だから、一度でいいからチャンスをください!!」
頭を下げ、涙を堪え数秒
正宗のため息が聞こえ、恐る恐る顔を上げる
「外の友達も連れて来なさい、書類に不備がないか確認してやろう」
「それって」
「お前の申し込み用紙にも判を押さないといけないな」
結局は娘に甘い
自分の側にいたいから、なんて理由にならないとわかっているが、純粋に嬉しいものでもある
「よ、呼んでくる!!」
バタバタとドアまでの短い距離を走る娘に、笑みが零れた
「綺羅々ちゃん!寺坂くん!イトナくん!」
「よぉ、チーム組むなら俺達がいい、撫子ちゃん」
「そんなに私達が大好きなのね、撫子ちゃん」
「仕方ないから付き合ってやるよ、撫子ちゃん」
ニヤニヤとしている3人を見て、撫子は首を傾げる
よくよく見るとイトナの手には小さなラジオのようなものがある
「背中、見てみな」
背中?と羽織っていた服を脱いで確認するとボタンよりも小さめの何かが付いている
「盗聴器」
「盗聴器・・・」
盗聴器、つまり正宗との会話は盗み聞きされ、撫子の言葉も聞いていたのだ
みるみるうちに顔が赤くなる撫子とニヤニヤが止まらない3人
「全員書類を置いていきなさい、後はこちらで処理をしておく」
「ありがとうございます」
「!」
1番に礼を言った寺坂に、正宗は驚いたように見つめる
人を見た目で判断するべきではない
そう分かっていても、何となく言動から見れるそれに、どこか線を引いていたのだ
娘の友達だというのに
「入隊式は1月、まだ君たちは正式な隊員ではないが、気を引き締めていくように」
「はい!」
「模擬戦スペースで太刀川と風間を待たせている、ひとまずどういうことをやるのかだけ今日は見て帰りなさい」
「わかった」
「・・・終わったらそこで待っていなさい車を出す」
4人口を揃えて「はーい」と返事をすると司令室から出ていく
最後に撫子がドアの隙間からひょこりと顔を出し、笑顔を作る
「お父さん」
「ん?」
「ありがとう」
それだけ言って、いなくなった撫子
正宗は息を吐いて、書類を眺めた
「とうとう入ってしまうのか」
書類に目を通し、不備が無いか確認する
ペンをはしらせ、氏名を書き、その横に印鑑を押す
成長とは早いものだ
正宗は少し寂しそうに書類をまた、眺め始めた
***
「ところで太刀川さんとやらと風間さんとやらはどこにいるのかな?」
「模擬戦スペースって言ってたわよね」
「まぁ、歩いてりゃつくだろ、城戸が」
完全にサイドエフェクト頼みである
周りを見るが本当にどこだかわからない
「よし、とりあえずは」
「とりあえずは?」
「歩こう」
歩けばそのうち着くだろう、という考えである
「でも待たせてんじゃないのか?」
「急がないと」
「お前なんか探知できないのかよ」
「サイドエフェクトってそういうもんなの?」
超直感だかなんだか知らないが使い方などわからないのだ
ひとまずエレベーターまで行くと、ちょうど良く東が降りてきた
「あ、春秋だ」
「春秋兄さん、な」
「ちょうどいいわ、太刀川さんと風間さんの模擬戦見たいんだけどどこ行けばいい?」
「マイペースか、ちょっと待てな」
ポケットから携帯を取り出し、電話をかけるとどうやら相手は風間さんとやらのようだ
一言二言交わすと、東は携帯をしまう
「エレベーターで下に・・・」
「案内ぐらいしなさいよ」
「・・・わかったよ」
狭間に頭が上がらないのは、今度はどんな理由なのか
気になる撫子だったがあまりにも不憫過ぎたので何も言わずにエレベーターに乗ったのだった
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