SS部屋


リハビリも兼ねて気まぐれに更新します。800字/ジャンル雑多。
タイトルは診断メーカー『お題ひねりだしてみた。』様より。

2022/07/24(Sun)

「僕のお嫁さんがこんなに可愛いのは当たり前じゃないですか」
 ね? と若干の甘さすら含んだ声が耳にかかり息をのむ。蘭ちゃんや園子ちゃんが瞳を丸くして驚愕の声を上げる向かいの席で私は降谷さんを肩越しに見上げながら内心だらだらと冷や汗をかいていた。
(その設定聞いてないけど……!?)
 事前に聞かされた私の設定は"米花町を駆け回る新聞記者"だったはずだ。眠気と必死に戦いながら頭に叩き込んだ資料にも"安室透の嫁"なんて情報はどこにも書かいてなかったはず。何考えてんだこの上司。
 肩に乗せられた手が僅かに強くなる。話をあわせろと言っているのだろう。確かにここで迂闊な反応をしてしまえば絶対に怪しまれる。現に蘭ちゃんの隣に座っている眼鏡の少年には物凄い訝しげな視線を送られているのだから。私は瞬時にはにかんだ笑みを浮かべ「恥ずかしいですよ、透さん」と視線を下に向ける。探偵兼アルバイターの男の嫁なんて現実なら死んでも御免だ。
 幸いにも私たちの演技は疑われることなくそのまま二人でポアロを後にした。一緒に車に乗り込んだところで私はようやくため込んでいた息を吐きだす。そして素知らぬ顔でエンジンを入れる降谷さんをジトリと睨みつけた。
「降谷さんいきなり設定作るの止めてもらえませんか? それか事前に言ってください」
「常に不測の事態に備えろと言っているだろう」
 先程の甘ったるい声とはうってかわって冷たい声にうぐっと私は喉を詰まらせる。そう言われてしまうとぐうの音もでない。迂闊な言動が命に係わる、それが今の私の仕事なのだ。きっとあの発言も何か意味があったのだろう。「すみません」と口を開きかけたその時、アクセルを踏んだ降谷さんの口元が僅かに緩まる。
「まあ、僕的には君が本当のお嫁さんになってくれても構わないけれど」
 それは安室透としてなのか降谷零としてなのか。本気なのか冗談なのか分からない上司に私は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
▼読んでも読まなくてもいいあとがき

上司の降谷に振り回される後輩のお話。どんどん外堀埋められて最終的に降谷の嫁になる。米花町に配属されたばかりで頻繁に事件が起きるこの町を呪われてるんじゃないかと疑っている。若干、口が悪い。降谷のことは「顔はいいが横暴すぎる上司」だと思っている。
うちの嫁がこんなに可愛いのは当たり前。 DC/降谷零
top