2022/08/24(Wed)
(やってしまった)久しぶりに野宿生活から解放されて気を抜いてしまったのだろう。宿屋でエステルちゃんに買い物を頼まれて特に何も考えずに承諾してしまった。
「ありがとうございます! これ、買い物のリストです」
そう言って渡されたのは文字の書かれた一枚の紙とガルドの入った財布。あ、と思った時には既に遅い。わたしは街の真ん中で立ち往生していた。
(文字読めないんだった……)
異なる世界からやってきたわたしはこの世界の文字が読めない。おかげでせっかくエステルちゃんが渡してくれた紙はただの紙切れと化してしまった。せめて口頭で何を買えばいいのか伝えてもらえば良かった、と途方に暮れていると手の中にあったはずの紙が消える。えっ、と驚く間もなく頭上から聞き慣れた声が降ってきた。
「買い出しか?」
「ユーリさん」
確かユーリさんはラピードと一緒に街の情報集めに行くと言って宿屋を出ていったのはわたしが出かける少し前のこと。もう情報収集は済んだのだろうか。
ぽかんと見上げるわたしを余所にユーリさんは紙とわたしを見比べると「読めるのか?」と尋ねてくる。彼は唯一、わたしが文字を読めないことを知っている。ふるふると首を横に振って簡単に事のあらましを説明すると「なるほどな」と小さく呟いた。相変わらずユーリさんの状況把握は早い。そのまま買い物を手伝ってくれることになりわたしはホッと安堵の息を吐いた。良かった、これで確実に買い物していける。
「そういえばラピードはいないんですか?」
きょろきょろと辺りを見渡すがラピードの姿は見当たらない。ユーリさんは隣を歩くわたしを一瞬だけ見下ろすと再び視線を前に戻した。
「ま、たまには二人だけってのも悪くないだろ」
「? そうですね……?」
まあ、ラピードにはラピードの用事があるのだろう。わたしは特に疑問を持たずにユーリさんの背中を追いかけた。
――わたしたちの背後にいた宿屋へ帰るラピードの存在に気づかずに。
▼読んでも読まなくてもいいあとがき
もう何年も向き合ってるからかトロイメライの夢主は動かしやすくて助かります。
二人で買い物して帰ってきて後からユーリがレイヴンやジュディスにからかわれるまでがワンセットです。
二人っきりでいたかった、 TOV/ユーリ・ローウェル
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