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 自分より何倍も大きな魔物が派手な音をたてて地面に倒れ込む。そのままぴくりとも動かなくなったのを確認してわたしはやっと安堵の息を吐きだした。フレンさんが助けに来てくれなかったら今頃どうなっていたかなんて考えなくもない。ずっと発動させていたバリアーをようやく解いてわたしはフレンさんの方に顔を向けると彼は不思議そうにこちらを見つめていた。

「驚いた。アズサ、君は魔術が使えたのかい?」
「最近リタちゃんに教えてもらったんです。まだ自分の身を守ることで精一杯ですけど」
「それでも十分だよ。簡単にできることじゃない」

 身に着けると身体能力が上がり、術技や魔術を使えるようになるという武醒魔導器(ボーディブラスティア)。ところがこれはただ持っているだけでは意味がないらしく、ある程度の知識を持っていないと扱えないものなのだとリタちゃんが教えてくれた。そういえば、何回か武醒魔導器が発動した時使い方なんて全く知らなかったけれど――まあ、誤作動だったのだろう。
 現にあんなに巧みに術技を使いこなすユーリさんも魔術はまるっきり使えないらしい。

「……ちょっと意外だった」
「意外?」
「アズサはあまり自分から危険に飛び込んでいくタイプではないと思っていたから」

 フレンさんの言っていることは大体あっている。今までの自分なら魔物と対峙したりせず真っ先に助けを求めに行っていただろう。けれど今回は気が付いたら魔物と対峙していた。どうにかしてあの親子を助けないと、と思って無我夢中だった。今考えてもかなり無鉄砲な行動だったと思う。

「さっきの行動は自分でも反省しています。もう少し考えてから動くべきでした」
「でも、あの時のアズサはすごくかっこよかったよ」
「アズサ!」

 背後からわたしの名前を呼ぶ声が聞こえて振り返るとリタちゃんがこちらに向かって走ってきていた。無事で良かったと安心したのもつかの間、わたしに駆け寄ったリタちゃんは隣に立つフレンさんには目もくれずわたしの腕をぐいぐいと引っ張る。

「リタちゃん、どうしたの?」
「この街の結界魔導器(シルトブラスティア)を直しに行くのよ。このままじゃ埒が明かないわ」

 魔物の大群がダングレストに入ってきてしまったのは街の結界魔導器が消えてしまったのが原因だ。結界魔導器さえ直してしまえばこれ以上の魔物の侵入は不可能になる。後は街に残った魔物だけを倒してしまえばいい。確かにリタちゃんの判断は懸命かもしれない。
 それに魔導器(ブラスティア)の研究をしているリタちゃんのことだ。急に動かなくなってしまった結界魔導器が気になってしょうがないのだろう。

「魔物がまだあちこちにいるから補助魔術かけておきなさい。集中力を切らさないようにすること」

 戸惑いながらもリタちゃんの言葉に頷いたわたしは小さく詠唱してバリアーを張る。納得したようにリタちゃんは掴んでいた手を放すと再び街中に向かって走り出した。その背中を追いかけようとしてわたしは踏み出そうとした足を一瞬だけ止めてフレンさんに向き合う。
 まだきちんと彼にお礼が言えていなかった。

「フレンさん、助けに来てくれて本当にありがとうございました」
「僕は僕に出来ることをしたまでだよ」
「その――フレンさんもかっこよかったです、すごく」

 そんなに大きな声ではなかったと思う。しっかりとフレンさんに伝わったのかも分からなかったけれど反応を見るのも少し気恥ずかしい。
 軽く頭を下げてわたしは急いでリタちゃんを追いかけた。

***

 バリアーを張っているとは言え、魔物の群れに飛び込むのはかなり緊張した。一変してしまったダングレストの街の雰囲気に飲み込まれそうになりながらも必死にリタちゃんの背中を追いかけていればなんとかユーリさんたちと合流できた。そのまま結界魔導器があるという街の外れに向かい、ようやく見つけたと思った手前で思わぬものを見つけてしまい足が止まる。
 ぐっと眉間に力がこもるのが分かった。

「……もう手遅れです。なんてひどい……」

 この街の魔導士だったのだろうか。結界魔導器に続く階段の下には力なく倒れた人たちがいた。長い間見続けられる程の余裕はなく、たまらず視線を逸らす。ラゴウの屋敷の時のような気持ちの悪さは込み上げてこないけれど決して気分の良いものではなかった。「平気か?」と声をかけてきたユーリさんにわたしは静かに頷いた。その間にもリタちゃんは階段を駆け上がり結界魔導器に向かう。いつものように操作パネルを開いたところで彼らは突然頭上から降って来た。

「リタ、危ない! 後ろ!」
「結界は直させんぞ」

 仮面の下から覗くぎょろりとした目はカプワノールで見たものと同じだった。無慈悲に人を殺す瞳。
 全身が粟立つのを感じながらわたしはリタちゃんに襲い掛かろうとする黒装束を見上げる。まさかここで倒れている人たちも彼らが――。

「ったく、ほんと次から次に! もうっ!」

 リタちゃんの声を皮切りに武器を構えたユーリさんたちが駆け出す。敵は三人、多くはない。まずは自分の身を守る為にバリアーを発動させた瞬間、黒装束が投げた苦無のような武器を光の壁が弾いて肩が震える。さっそく武器を構えないわたしが狙われたのだろう。息が詰まるような感覚に頭が真っ白になりそうになったけれど、辛うじて残っていた理性で離れた場所に移動する。今にも口から心臓が飛び出してきそうだった。

「アズサ!」
「リタちゃん……」

 黒装束の一人をファイアーボールで派手に吹き飛ばしたリタちゃんがわたしに気が付いて駆け寄ってくる。帯のような武器を手に持ったリタちゃんは青ざめたわたしを見て一瞬眉間に皺を寄せると再び前を見据えた。その先ではユーリさんたちをはじめとする前衛組が黒装束と刃を交えている。

「カロルと戦ってるやつ、狙うわよ」
「えっ、わたしが?」
「ちょうどいい練習台よ。思いっきりやりなさい」

 わたしは自分より大きな武器を派手に振りまわすカロルくんと応戦する黒装束の戦闘を見つめる。わたしが今まで魔術を練習してきたのは切り株や岩といった動かない物体ばかりだった。同じ場所に留まらない敵をどうやって狙ったらいいのだろう。リタちゃんはわたしのコントロール力ならなんとかなると言ってくれたけれど、カロルくんに当たってしまわないかと不安は残る。
 でも、迷っている時間はない。こんなわたしでも誰かの為に出来ることがあるなら。

「――やってみる」

 ペンダントを握りしめて神経を研ぎ澄ませる。狙うのはカロルくんと戦っている黒装束。動き回る敵にリタちゃんから教わった魔術の中でどれが一番有効なのかを考えて、わたしは唇に詠唱を乗せた。


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