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 これ以上ケーブ・モックにいても収穫は得られなそうだというリタちゃんの判断により、わたしたちは本来の目的であるバルボスの情報を探しにダングレストに戻ることにした。その途中で偶然にも出会ったのがユニオンの元首でありユーリさんたちが会いたかったドン・ホワイトホースだった。どうやら退治に向かったという魔物の巣窟というのがケーブ・モックにあったらしい。一足先にダングレストに戻るというドンに話を聞いてもらうという約束をし、再びユニオンに向かうとすぐに通してもらうことが出来た。

「よぉ、てめぇら、帰ってきたか」

 お腹の底に響くような低く威圧感のある声はそれだけで身体が委縮する。ダングレストを統治するギルドの長、ドン・ホワイトホース。部屋の真ん中にある椅子にどっしりと構えたドンはわたしたちを見つけると鋭い三白眼を僅かに細めた。
 一番最後に部屋に入ったわたしはゆっくりと扉を閉めてユーリさんたちの背中を追いかける。人を見た目で判断してはいけないと思いつつもドンの迫力に気圧されていたわたしはユーリさんたちの後ろに隠れるように立った。エステルちゃんとリタちゃんの隙間から様子を窺っていると、ドンの傍に見知った姿を見つけてぱちぱちと目を瞬く。どうしてここにフレンさんがいるのだろう。

「なんだ、てめぇら、知り合いか」
「はい、古い友人で……」
「ほう」
「ドンもユーリと面識があったのですね」
「魔物の襲撃騒ぎの件でな。で? 用件はなんだ?」

 言葉を濁らせるフレンさんを遮るようにユーリさんが口を開く。

「オレらは紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)のバルボスってやつの話を聞きにきたんだよ。魔核(コア)ドロボウの一件、裏にいるのはやつみたいなんでな」
「なるほど、やはりそっちもバルボス絡みか」
「……ってことは、おまえも?」

 フレンさんはユーリさんの言葉に頷く。各地で魔核が盗まれ悪用されているのは紅の絆傭兵団が関わっており、ユニオンから外して欲しいとお願いしにきたのだという。協力してもらえるのなら帝国もギルドを倒すのに協力すると。ドン自身もバルボスの行動は気が付いていたらしく、怪訝そうに眉を顰めたのが遠くからでも見えた。

「あなたの抑止力のおかげで、昨今、帝国とギルドの武力闘争はおさまっています。ですが、バルボスを野放しにすれば、両者の関係に再び亀裂が生じるかもしれません」
「そいつは面白くねえな」
「バルボスは、今止めるべきです」
「協力ってからには俺らと帝国の立場は対等だよな?」
「はい」
「ふんっ、そういうことなら帝国との共同戦線も悪いもんじゃねぇ」

 おそらくフレンさんがここまでして紅の絆傭兵団を止めたいのは彼らを操っているラゴウが原因なのだろう。魔導器(ブラスティア)の悪用が帝国の、それも社会的地位の高い人間の仕業だと知れ渡ったら市民の信用を下げることは避けられない。それくらいはこの世界の情勢に疎いわたしでも理解できた。
 ドンはフレンさんの要請を受け入れると傍に控えていた部下に指示を出す。足早に部屋を出ていった部下を横目で追っていると不安げにわたしを見上げるカロルくんと目が合った。

「なんか大事になってきたね……」
「……そうだね」

 最初は身の潔白を晴らす為の旅だった。自分が犯人と疑われることでゲーム上のストーリーに支障が出てしまうのではないかと思ったから。だけどエステルちゃんやカロルくん、リタちゃんたちが旅の仲間になって、ただ取り戻せばいいだけだと思っていた水道魔導器(アクエブラスティア)の魔核も海を越えても取り戻すことが出来ないでいて、そして今、目の前で帝国とギルドという二大勢力間で協定が結ばれようとしている。あまりに話が肥大しすぎているような気がするのはわたしの思い違いではないだろう。最早、下町だけの問題ではなくなってきている。
 ふと、胸に過ぎる一握の不安。もしかしたらわたしはもうすでに――。

「こちらにヨーデル殿下より書状を預かって参りました」
「ほぉ、次期皇帝候補の密書か。読んで聞かせてやれ」

 フレンさんから書状を受け取ったドンはそれをそのまま隣に立つレイヴンさんに渡した。レイヴンさんが実はドンが首領を務める天を射る矢(アルトスク)に所属していたと知ったのはケーブ・モックでドンと出会ったときのこと。なんとなくまだ実感が湧かないままレイヴンさんが書状を開くのを見守る。一緒に行動していた時とは打って変わって真面目な表情で文面を見下ろすレイヴンさんから飛び出た言葉は到底信じられるようなものではなかった。

「『ドン・ホワイトホースの首を差し出せば、バスボスの件に関しユニオンの責任は不問とす』」
「え……?」
「どうやら、騎士殿と殿下のお考えは天と地ほど違うようだな」

 レイヴンさんから奪い取るような勢いで書状を受け取ったフレンさんの肩は遠くから見ても分かる位に震えていた。「これは何者かの罠です!」と叫ぶフレンさんにドンは聞く耳を持たなかった。後ろに控えていた部下にフレンさんを捕えるよう命令する。目まぐるしい展開にわたしはどうすることもできなかった。ドンの部下に取り囲まれ、フレンさんはなす術もなく捕らえられる。

「フレン……。どうして?」
「早まるなって。下手に動けば、余計フレンを危険にさらすことになるぜ」
「…………」
「帝国との全面戦争だ! 総力を挙げて、帝国に攻めのぼる! 客人は見せしめに、奴らの目の前で八つ裂きだ! 二度となめた口きかせるな!」

 そのままドンはレイヴンさんを引き連れてどこかに向かってしまった。ぽつんと取り残されたわたしたちは互いに顔を見合わせる。

「た、大変なことになっちゃった!」
「おかげであたしらの要件、忘れられちゃったわよ」
「ドンも話どころじゃねえな」
「わたし、帝都に戻って、本当のことを確かめます!」

 状況を呑み込むので精一杯だったけれど、このままだとフレンさんが危険な目に合ってしまうかもしれないということは理解できた。かといってわたしたちにどうにかできる問題なのだろうか。わたしはちらりとユーリさんの様子を見守る。友人が目の前で捕らえられたというのにユーリさんは不思議なほど冷静だった。

「早まるなって言ったろ。ちょっと様子を見ようぜ」


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