部屋を出たスズは、2年生チームの部屋が並ぶ階へと向かう。
狗巻の部屋は、階段を上がってすぐのところだ。
ドキドキしながら廊下に出れば、ちょうど部屋から出てくる主とバッタリ出くわした。
「あ、スズ」
「棘先輩…!あ、ど、どこかお出かけですか?」
「うん。憂太が久しぶりに戻って来てるから、皆でご飯でも食べよ〜って」
「そう、でしたか…!」
「スズは?どうしてこんなとこいるの?」
「え、あ、いや…ちょっと、さ、散歩…です!」
「! ……ふ〜ん。外じゃなくて、こんな見慣れた寮を?」
「たまには、探検、してみようかな〜って」
「イブの夜に1人で?」
「うっ…」
「そんな分かりやすい嘘つかれたら、期待しちゃうんだけど」
「へ?」
微笑みながら、狗巻は優しくスズの手を取る。
急展開にますます心拍数が上がるスズだったが、それを打ち消すようにもう1つ奥の部屋のドアが開いた。
最終話 呪愛少女 〜狗巻棘と共に〜
「あ、狗巻君!ちょうど良かった〜一緒に行こ…って、スズちゃん?」
「憂太先輩…!」
「おかか、こんぶ」
「え、行けなくなった?急にどうしたの?」
言ってから、狗巻がスズの手を握っていることに気づいた乙骨。
"はっ…!"と天啓みたいなものを感じ、彼は同期に対して1つ大きく頷いて見せる。
「大丈夫!2人には僕が上手く言っておくから!」
「しゃけ!ツナマヨ」
「どういたしまして!…2人とも、いいイブをね!」
明るくそう言った乙骨は、爽やかな笑顔を見せながら手を振って階段を降りて行った。
応えるように手を振り返す狗巻に対し、スズはいろいろな意味で真っ赤になっていく。
狗巻に突然手を握られたこと、その場面を乙骨に見られてしまったこと、そして…
改めて自分の手を握ってくる先輩の表情が、とてもキレイで色っぽいこと。
「あの、先輩、行かなくて良かったんですか…?」
「好きな女の子が目の前でそんな可愛い顔してて、放っておける男いないよ」
「! す、すみません!私、その…」
「俺に会いに来てくれた…って思うのは、自惚れすぎ?」
「いえ…!あ、会いたくて、来ました…」
「良かった〜違ったら結構恥ずかしいことになってたよ」
「ふふっ」
「寒いし、中入ろ?」
手を握ったまま、狗巻は今出てきたばかりの部屋へスズを誘う。
男子高校生にしてはサッパリと片付いている室内は、まだ暖房の余韻が残っていた。
さり気なくエアコンのスイッチを入れ、部屋の中の一番温かい場所にスズを案内し、紅茶を入れて戻ってくる。
そのスマートな行動は、年上の男性ということをスズに印象付けるには十分過ぎるほどであった。
「…突然来てしまってすみません。本当に良かったんですか?」
「うん。憂太しばらくこっちいるみたいだし、またいくらでも機会あるから。
それよりも、イブの夜にわざわざ来てくれたスズを優先したかった。寒い中ありがとね」
「棘先輩……そうやって、先輩はいつも私に優しくしてくれましたよね。
ジュース奢ってくれたり、任務後に寝ちゃった私に肩貸してくれたり、野球のボール一緒に片づけてくれたり」
「ふふっ。あったね〜そんなこと」
「一緒に行った任務とか交流会の時は、たくさん守ってもらって…先輩の傍にいると、すごく安心してる自分がいました」
「そっか…!」
「渋谷の一件で、左腕を失って…それでも、先輩は私のことを心配してくれて…
私が傷つく方が嫌だって言ってくれた時…やっと自分の気持ちに気づいたんです。
私…棘先輩が好きです。いつも私のことを一番に考えてくれる、優しい棘先輩が大好きなんです」
真っ赤な顔で、でも満開の笑顔でそう言う想い人が可愛すぎて…
狗巻は自分の顔にも熱が集まって行くのを感じた。
先輩の意地で何とか平静を保とうとしたけれどなかなか難しく、その努力はあっという間にバレてしまった。
「先輩、赤くなってる?」
「そりゃなるよ!嬉し過ぎて、心臓がうるさい…」
「棘先輩可愛いです!」
「あんま見ないで…!」
「ふふっ」
「スズ…キスしていい?」
「! …はい」
右手でスズの頬に触れると、狗巻は優しいキスを贈った。
離れて見つめ合えば、お互いにまだ足りないことが伝わる。
狗巻の"もうちょっとだけ…"という甘い言葉に頷くと、2人は二度目のキスを交わした。
照れ臭そうに笑顔を向け合った後、狗巻はスズを抱き寄せる。
「大好きだよ、スズ」
「私もです」
「しばらくこのままでもいい?」
「もちろんです!私、先輩の彼女になったんですから、たくさん甘えてくれなきゃ困ります。
腕のこともあるし、何かあったらいつでも飛んできますから。頼ってくださいね?」
「…スズの方が優しいじゃん」
「好きな人にだけです!」
「! もう…今それ言うの反則でしょ」
「へへっ」
「…俺ね、義手にしようかどうかずっと悩んでたんだ」
「そうなんですか…!」
「うん。やっぱり両手あった方が便利だよな〜とは思ってたんだけど、リハビリとか考えるとなかなか踏み切れなくて…
でも今日初めて、左腕が欲しいって思った。両手があれば、スズのこともっと強く抱き締められる」
「!」
「カッコ悪いとこたくさん見せちゃうし、面倒もかけちゃうと思うけど…傍にいてくれる…?」
「いるに決まってます!私にできることなら何でもしますから、一緒に頑張りましょうね」
「うん、ありがと…!」
より一層強い絆で結ばれた2人は、イブの夜を温かな気持ちで過ごした。
翌日、上手く言っておいてくれなかった乙骨のせいで散々からかわれることになるとは…
この時の2人は知る由もなかった。
fin.
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