部屋を出たスズは、伏黒が眠っている場所へと向かう。

彼は家入の治療後、高専内にある一室で体を休めていた。

いわゆる入院状態だが、その部屋は想像するような病室ではなく、立派な旅館のような雰囲気である。

大きめのベッドで穏やかな寝息を立てる同期の顔を見つめながら、スズは静かに脇にあるイスへ腰を下ろした。





最終話 呪愛少女 〜伏黒恵と共に〜





五条にも引けを取らない整ったその顔には、少し前まではなかった大きな傷が3つできていた。

命があったのだから、それ以外のケガや傷は些末なもの。

そう頭では分かっていても、せっかくの顔に目立つ傷ができたな…と、スズは寂しそうに伏黒の顔に触れた。

時折額の汗を拭いながら待つこと1時間…

ようやく病人の意識が戻った。


「……んっ…スズ…?」

「恵…!良かった…」

「俺…」

「硝子さんの治療を受けて、この部屋で休んでたんだよ。気分はどう?硝子さん呼んでこようか?」

「いや、少しボーっとするぐらいだから平気だ。ありがとな」


そう言って微笑んだ伏黒は、スズの手を借りながらベットの上で体を起こす。

コップに入れた水を手渡せば、美味しそうに飲み干した。

そんな彼にかける言葉を、スズは心の中で整理する。

自分の気持ちを伝えるために部屋を出てきたが、その前に避けては通れない話題があった。


「恵、少し話しても大丈夫?」

「あぁ。だいぶ頭もスッキリしてきた」

「そっか…!あの…津美紀さんの、こと…」

「! …うん」

「…宿儺から聞いたんだけど、津美紀さんの中に入ってた万っていう人がね…私のことを狙ってたんだって。

 万って人は、宿儺のことが好きで…だから私が恋敵みたいになって…殺そうとしてたらしいの。

 だから宿儺としては、止めないわけにはいかなくて…それで……手に、かけたって…」

「…」

「私ね、宿儺の主になったの。だから彼の業を一緒に背負う覚悟でいる。

 でもそれだけじゃなくて…津美紀さんの死には私自身も大きな責任があった…

 謝って済む話じゃないことはよく分かってる。けど…謝らせて欲しい。本当にごめんなさい」

「…俺が、顔も見たくないって言ったら?」

「! ……見せないようにする」

「口もききたくないって言ったら?」

「二度と話しかけたり、しない」

「じゃあ……ずっと傍にいて欲しいって言ったら?」

「えっ…?」


言われた言葉の意味が分からず、涙でグズグズな顔を上げれば、目の前にキレイに微笑む伏黒がいた。

そして気づいた時には、彼の唇が自身のそれに重ねられていた。


「め、恵…?」

「悪ぃ、抑えらんなかった」

「なん、で…」

「オマエさ…俺と会って話せなくなるってだけで、何でそんな泣いてんだよ。

 今までだってしばらく会えなかったり、話せなかったりしたことあっただろ?」

「それは…!次があるって、思ってるから…もう一生会って話せないって思ったら……悲しくて…」

「…それは他の奴が相手でも?」

「分かんない…でも、恵はずっと昔から一緒にいて、たくさん助けてもらって…傍にいるのが当たり前で…

 だから離れたくない…恵に無視されるの、すごく怖い……好きなんだ、恵のこと」

「その言葉が聞きたかった」


穏やかな声でそう言って、スズと向かい合うようにベッドに腰かける伏黒。

流れる涙を拭ってやってから、彼は想い人をギュっと抱き締めた。

自分の背にスズの手が回るのを感じると、伏黒は頭を撫でながら言葉を紡ぐ。


「泣かせてごめん。ツラくて嫌なこと、たくさん言わせたよな」

「そんな…!」

「…スズがさっき話してくれたこと、津美紀から聞いて知ってたんだ」

「え?」

「寝てる時に夢ん中に津美紀が出て来て、一通り話聞いた。体は奪われても、意識は残ってるみてぇだな。

 で、そん時に言ってたんだよ。スズは何も悪くないからって」

「!」

「オマエの性格だから、絶対負い目を感じてるだろうって。起きた時スズがいたら、ちゃんと受け止めてあげてって」

「津美紀さんが…」

「うん。…津美紀は、殺してもらって良かったとも言ってた」

「なっ…!」

「自分の体でスズのことを傷つけるなんて耐えられない。だからそうならなくて良かったって」

「うぅっ…」

「宿儺の業を背負うのは主としてしょうがないかもしんねぇけど、津美紀のことは大丈夫だから。俺らの知ってる津美紀はそういう奴だっただろ?」

「うん…!ありがとう」


より強く伏黒に抱きついたスズは、それからもう少しの間泣いた。

呼吸が落ち着いて来た頃を見計らって顔を覗き込めば、真っ赤な目を隠すようにスズは下を向いた。


「まだ見ちゃダメ…!」

「ふっ。またそれかよ。見ねぇから目は擦んなよ?」

「分かった…」

「……なぁ」

「ん?」

「スズの返事…もう1回ちゃんと聞きたい」

「! …恵のことが好き。返事遅くなっちゃってごめんね」

「気にしなくていい、って言ってやりてぇけど…随分待ったから言わねぇ」

「ふふっ。そんなに?」

「そんなにだよ。早く俺のこと好きになればいいのにって、ずっと思ってた」

「恵…」

「スズ…愛してる」


伏黒が想いを込めてそう告げると、先程とは違いゆっくりとキスを交わす2人。

翌朝病人の様子を見に来た家入は、寄り添って眠る若きカップルに笑みを見せるのだった。



fin.
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