試合終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、辺りは驚くほどの静けさに包まれた。
その中で、自分の首にかけているストップウォッチが00:00を示していること、そしてコート横に置かれた得点板が100−98を示していることを確認したスズ。
そこで初めて、彼女が声を発する…
「やった……勝ったぁぁ!!」
スズのその声を機に、体育館内に割れんばかりの歓声と叫び声が溢れた。
第10Q「"人事を尽くして 天命を待つ"」
「うわぁあぁあああ!!」
「誠凛が!?勝ったぁああ!!」
「ははっ…嬉しい通り越して信じられねー。」
「うおっ…しゃあぁあー!!」
疲れてはいるものの、誠凛メンバーの顔は喜びで溢れていた。
特に火神はそれが顕著で、全開の笑顔でスズに向かってガッツポーズをするほど。
そんな彼に、スズもまた同じぐらい眩しい笑顔を返すのだった。
そしてケガを押して出場した黒子はといえば、やはり他の選手より体力を消耗していたようで…
「テツ、大丈夫ー!?」
「スズ……いえ、ちょっとダメです。」
「えーっ!?うそっ、もう少し頑張って…!」
「ふふっ…はい。」
スズに声をかけられるまで膝に手をつき呼吸を整えていた黒子だったが、彼女に向けた表情にはやはり嬉しさが滲んでいて…!
黒子がポロっと漏らした冗談に、2人して笑い合っていた。
一方の海常チームは…
溜息をつきながら、渋い顔でコート上に立つ選手達。
黄瀬も、その中でボー然と立ち尽くしていた…
「負け…たんスか?(生まれて…初めて…負…)」
ポロッ…
不意に流れた涙を慌てて拭う黄瀬だったが、溢れた思いはなかなか止まってくれない。
それを見たギャラリーは"たかが練習試合で泣いてる"と冷やかすが、黒子や火神、そしてスズはその姿を真剣な眼差しで見つめていた。
「なんだ、ちゃんと泣けるんじゃん…!」
「ん?スズ、何か言った?」
「いえ、何にも!」
微笑みながら静かに漏らしたスズの言葉は、誰にも気づかれることなく消えていった。
しかしスズの黄瀬に対する印象は、彼のこの涙を機に大きく変わったようだ…!
「っのボケ!メソメソしてんじゃねーよ!!」
「いでっ!」
「つーか、今まで負けたことねーって方がナメてんだよ!!シバくぞ!!そのスッカスカの辞書に、ちゃんと"リベンジ"って単語追加しとけ!」
笠松に蹴られながらそう言われた黄瀬をはじめ、両チームの選手10人がセンターラインに並んだタイミングで審判が告げる。
「整列!!100対98で、誠凛高校の勝ち!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
こうして、誠凛チーム勝利のうちに初試合が終了したのだった。
挨拶が終わり、選手がベンチに戻ってくる。
そこでまた改めて、ベンチ組とスタメン組は喜びを分かち合った。
「お疲れ様です、日向先輩!」
「おースズ〜。サンキュ!」
「シュート、カッコ良かったっス!!」
「! ダアホ…そ、そういうことは試合中に言え!」
「あーキャプテン照れてる〜」
「う、うるせー伊月!!」
「あははっ!伊月先輩もお疲れ様でした!」
「ありがと!そだ、新しいギャグ思いつい「あとで聞きまーす!」
「ぶースズが冷たい〜」
「水戸部先輩、お疲れ様でした!」
「(コクリ)」
選手1人1人に声をかけながら、ドリンクとタオルを渡すスズの顔はとても嬉しそうで…!
その顔を見た日向達も、つられて笑顔が大きくなっていた。
そんな先輩達の後から、ゆっくりとこちらへ歩いてくるのは…
「お疲れ、テツ!」
「スズ…」
「えーと、大丈夫…じゃ、ないんだよね。」
「はい。疲れました…」
「んっ、正直でよろしい!まずは汗拭いて着替えて、サッパリしてこい!」
「ふふっ…そうします。…あ、スズ。」
「んー?」
「応援ありがとうございました。最後まで頑張れたのは、スズのお陰です。」
「! ど、どういたしまして…!」
黒子の不意打ちの笑顔と言葉に、急速に顔が真っ赤になるスズ。
"あー暑いわー"とパタパタ手を動かしながら顔の熱を冷ます彼女を黒子はとても穏やかな顔で見つめ、それからゆっくり更衣室へと足を向けた。
そうこうしているうちに、もう1人のルーキーである火神も戻ってきたようだ…!
「スズーっ!」
「おわっ!ビックリした…!」
スズが一瞬コートから目を離した隙に戻ってきた火神は、戻るなり彼女の頭をガシッと掴んだのだ。
髪の毛を直しながら振り返れば、そこには子供のように無邪気に笑うエースがいた。
「ふふっ…大我、お疲れ!」
「おぅ!つーか、何笑ってんだよ?」
「だって、大我の笑った顔があまりにも可愛くて!」
「は、はぁ!?バ、バカやろ…オレ、笑ってねーし!!」
「今、笑ってたじゃーん!どんな嘘つくのよ!」
「うっ…もういい!着替えてくる!」
「はいはい、行ってらっしゃ〜い!」
「…あー…のよ、スズ。」
「ん?どした?」
「……いろいろありがとな。試合中何度も、オマエに助けられた。」
「えっ…私、そんな何も…!」
「してんだよ。スズに名前呼ばれると何か変な力が抜けて…で、いい感じに力入んだよ。」
「そ、そうなの…?」
「おう。だから、サンキュな!」
そう言ってもう1度スズの頭を撫でると、火神は頭からかぶったタオルで汗を拭きながら更衣室へと入っていった。
黒子と火神にすっかりやられたスズは、リコにからかわれながら、必死に顔の熱を冷ますのだった…
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