ベンチの後片付けを終え、リコと2人帰りの準備をしていたスズは、不意にあるお願いを口にした。


「リコ先輩、ちょっとお願いがあるんですけど…」

「ん?お願い?」

「はい。あの…ちょっと、キセキイエローのところに行きたいんです。」

「黄瀬君のところ?何でまた急に…」

「いろいろ誤解してたり、失礼なこと言ったりしちゃったから、謝りたいなって…」

「そういうこと……いいわ。じゃあ、私達は黒子君診てもらうために病院寄るから、その後で合流しましょ!」

「はい!ありがとうございます!」


笑顔で許可をくれたリコにお礼を言い、スズは自分の荷物と共にキセキイエロー探しへ…!

パッと見て体育館にはいないことを確認してから、彼女はひとまず体育館の外へと向かった。

と、外に出た途端、不意に聞こえてくる2つの男性の声。

会話の内容から、彼らを海常バスケ部員だと判断したスズは、黄瀬の居場所を聞こうと話しかけた。


「すみません!」

「ん?」

「…あの、黄瀬さんって今どこにいるか知ってますか?」

「黄瀬?あーさっき水道場の方で見かけたけど。な?」

「うん、いたいた。そこの角曲がって少し行ったところが水道場だから行ってみれば?」

「ありがとうございます!」

「…何、キミも黄瀬のファン?」

「あ、いえ、そういうんでは…!」

「いや〜でもキミもガッカリしたんじゃない?あいつがあんな泣き虫で。」

「だよな。まさか泣くとは思わなかったよ。」

「「あははっ!」」


スズの言葉を聞かずに、彼女を勝手に黄瀬のファンだと勘違いした2人のバスケ部員は、そう言って大声で笑った。

目の前で黄瀬をバカにしたように笑うバスケ部員達を、スズは何とも言えない表情で見つめる。

他校の、しかも恐らく先輩であろう人達に意見するのはだいぶ気が引けるようだが、それでも彼女は意を決して自分の思いを話し始めた。

曲がり角の向こうで、黄瀬本人が聞いているとは知らずに…


「……笑わないで下さい。」

「「え?」」

「(この声、誠凛のマネージャーさん…っスよね?)」

「黄瀬さんは見た目派手だし、人あたり良過ぎるしで、周りに誤解されやすいんだと思います。

 実際私も、さっきまで苦手だな…とか、気に食わない人だな…とか勝手に思ってました。

 でも今日のあの涙を見て思ったんです。本当の彼はすごく純粋で、真っ直ぐで、熱くて、でも不器用な…

 そんな…バスケが大好きな普通の高校生なんだ、って。だから…あの涙のこと笑わないで下さい。」


"教えてくれてありがとうございました。"

スズは最後にそう付け加えてからペコリと頭を下げ、曲がり角の方へと歩き出した。

そんな彼女を、2人のバスケ部員は唖然とした表情で見つめていたのだった。



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